裏切り者
面会人が来ていると呼び出され、木戸は大きなアクリル板の前へと座らせられた。アクリル板の向こう側の扉が開き、昔馴染みの色白な男が歩み寄ってくる。
「真っ先に会いに来たのが、俺の元を去ったお前だったとは驚きだよ、三浦。
まさか、俺を売ったのはお前か?」
しばしの沈黙の後に三浦が口を開く。
「俺じゃないよ。
お前は、、、、いや、我々はやり過ぎたんだよ。
あのやり方で進めていたら遅かれ早かれこうなるっていたよ。」
「ふん、だからお前は出ていったのか?
俺はな、皆が望んでいることを実現させたかっただけなんだよ。」
「それは俺も同じ気持ちだったよ。」
「システムをもっと完全なものにするためには金が要るんだ、多少強引なことだってやるさ!それにより救われる人間だって多くいるんだ。くだらない現行の法律で網に掛けやがって。」
「俺たちが実現させたかったものはもっと時間を掛けて、それこそ法律もそれに合わせて変えていくようにしなければいけなかったんだ。
強引に進めて、その過程で傷つく人たちがいれば叩かれるだけさ。」
「ふん、旧体質の頭の固い連中に何が分かる。そいういった奴らが自分たちの利権を優先するから技術の進歩が遅れるんだ。本当に技術を必要としている人間がいるのにそれには目を向けようとはしない。」
「確かにそのような側面がないとも言えないが実際に、、、」
三浦の言葉を途中で切るように木戸が続ける。
「あぁ、そう言えば風の噂で聞いたんだが、お前の言う所の傷ついたという奴らのケアをしれるらしいじゃないか。ちょとした罪滅ぼしのつもりなのか?」
「そんなところだよ、やっていることはただの自己満足かもしれないけれど。彼らが迷い込んでしまうきっかけを我々が作ってしまったんだから、俺が出来ることは何でもやるさ。」
「そういう奴らに何かしらの問題があるんだよ、おかげでシステムにケチが付いちまった。だがこれくらいじゃ終わらないぞ、俺も俺の作り上げたシステムも。
お前なら一緒に築き上げてくれると思っていた、だがお前は去って行った。
もう、話すことはない、帰ってくれ、裏切り者。」
同じ夢を持った仲間がいた、壮大な夢だった。いつからか向いている方向がずれ始め、小さかったそのずれはいつの間にか修復不能なくらいの隔たりとなってしまった。もう夢を語りあっていた頃には戻ることが出来ない。
「また来るよ。」
そう言い残して三浦は部屋を後にしたのだった。