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研修期間も残り少なくなってきたその日、三浦からいくつかの就職先が提示された。
こちらの世界では自立して生きていくためにはやはり何らかの職について収入を得る必要性がある。しかし転生者であるということに理解があり、住み込みあるいは会社の寮完備であること、運転免許がなくても可能との条件でソートすると迷ってしまう程の選択肢がある訳ではない。その上でなるべくならば元の世界の職業(冒険者)に近い職種をという希望条件を加えてしまうと全くの皆無であった。
「ここにあるのが全てという訳ではもちろんありませんし、とりあえずこちらの世界での足元を固めて、働きながらその先のことを考えて行っても良いのではないでしょうか。久世さんはまだまだお若いので。」
そう言って無理な条件に嫌な顔せず真摯に対応してくれる三浦に対して、元の世界に戻る野望を捨てていないなどとは決して言えなかった。
候補の中からここならばと思えた職場を2、3カ所ほど見学させてもらい最終的にケヴィンが選んだのはとある鉄工所だった。決して大きいとは言えないがアットホームで働きやすい職場という触れ込みであった。仕事内容はもちろんのこと、ある程度の家具と家電が備え付けてある寮に入ることが出来て、そこから職場までは徒歩5分(あのおぞましい交通機関を使用しなくて済む)と言うのも魅力的であった。
後日、その鉄工所にて三浦同席のもと社長の山崎との就職面談が行われた。親の代からこの鉄工所を引き継いだという二代目社長はとても穏やかな人柄で、社会に適応出来なかった若者達にも手を差し伸べ面倒を見ているとのことだった。
面談の中で簡単な質疑応答がいくつか行われその場で採用をもらうことが出来た。
「では新平君、来週からよろしくお願いしますね、始業は午前8時からなので10分前には来ておいてくださいね。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
こちらの世界では職に就くのも大変だと聞いていたがとんとん拍子で進んでいく、三浦が相当根回ししていてくれたのだろう。ここでも彼の手厚いサポートのありがたみが身に染みる。
「久世さんが転生者だということはここにいる三人しか知りえません。転生者についてはまだまだ世の中に認知されていないことなので、『実家の旅館の廃業を機に田舎から上京してきた社長の遠い親戚』という設定でお願いします。」
三浦からだされた最後の提案にポカンとするケヴィンであったが、それを察したかのようにフォローがはいる。
「まだまだ、慣れないことが多いでしょうから、田舎から出て来て右も左も分からないと言った感じの方が何かと便利かと。」
「、、、、なるほど。」
何はともあれこの日、冒険者を廃業し無職となっていたケヴィンは職人見習いという肩書に昇格し、上級職である職人となるべく修行の日々をスタートさせたのであった。