目覚め
、、、、ここはどこだ?
ケヴィンが目覚めたのは無機質なベッドの上だった。
通常、冒険の途中で命が絶たれると創生の女神の加護により一定の時間が経った後に始まりの丘へと転送される。
冒険者をやっていればその奇跡のお世話になることは避けては通れないと思っている。実際、数々の高難度クエストに挑んできたケヴィンが始まりの丘に転送されたのは1度や2度ではない。
しかし、現在の状況はそれとは全く異なっていた。あの緑が眩しい丘ではなく見えるのは白い天井、白い壁、白いカーテン、、、
状況が把握出来ずしばし混乱しているとベッドを囲むように垂れ下がっているカーテンの一部が開かれ、これまた白い服を着た女性が顔を出した。
どれくらいの時間眠っていたのだろうか、その女性は驚いた表情で慌てた様子で声を発する。
「あ、目を覚まされましたね。良かったぁ。い、今先生を呼んできますね。」
そう言うとその女性はそのままその場から走り去ってしまった。
「ちょ、ちょっと待って!」
起き上がり手を伸ばそうとするが、体は鉛のように重く腕にはなにやら管の様なものが刺さっている。
しばらくするとまたカーテンが開き、先ほどの女性と初老の男性がケヴィンの枕元に近づいてきた。先ほどの会話からすると先生と呼ばれるその男性は見たことのない器具をいくつか取り出し、ケヴィンの体の様子を調べ始めた。
相変わらず思うように動かせない身体では、危害を加えられることはないと信じとりあえず身を任せるしかない。
「気分がすぐれないとかはない?」
作業を続けながら問いかけて来る。
「、、、、、はぁ、ここは一体どこなんだ?」
「病院だよ。」
「病院?」
「怪我をしたり病気になった時に来る所。」
「、、、、、、。」
「まぁ、その辺は追々ね。」
ケヴィンは増々混乱していく。ポーションや回復呪文では治癒出来ない怪我を負ったのか?そもそも病院とは?
「うん、もう少し体力が戻れば大丈夫、検査で異常がなければ来週には退院できるかな?
今後のこととか詳しくは入国管理官の人に聞いてね。
もうすぐ着くだろうから。」
そう言い残し初老の男性はカーテンの外へと消えて行った。
、、、、入国?ここ数十分のうちで何個「?」が思い浮かんだであろう、しかしここまで来ると考えても仕方がないという結論に至り、その入国管理官という人物を待つことにした。
三度カーテンが開くと、今度は眼鏡を掛けた色白な男性が中に入って来た。
「どうも、初めまして担当させて頂きます三浦と申します。え~っと、、、、。」
「あ、ケヴィンだ。」
「あ~、はいはいケヴィンさんでしたね、お気分はどうですか?」
「まぁ、混乱している。」
「当然そうですよね、お気持ちお察しします。」
ひとしきりのやり取りが終わると三浦と名乗ったその男性は淡々とそして事務的に会話を続ける。
「いろいろ聞きたいことはあるかと思いますがまず私から説明させていただきたいのですが、お体大丈夫ですか?辛いようでしたらまた後日伺いますが。」
頭はぼんやりしており辛いことは辛いのだが、早くこの状況を把握したいケヴィンは迷うことなく説明を受けるという選択肢を選んだ。
「ケヴィンさん、ここは元々あなたが暮らしていた世界ではありません。世の中的に言うと異世界に転生された、というところでしょうか。
肝心なことからお伝えしますと、こちらの世界では女神の加護がありませんので間違っても命を粗末にしないでください。それから、こちらの世界には魔法やスキルというものが存在しません。」
目覚めてから一番の衝撃がケヴィンを襲った。