面会(今の世界では)
それぞれジョブや活動場所は異なっていたがそれなりに共通の話題はあるもので、どこどこの名産品がおいしかったとかあの魔物はホント迷惑とか他愛のないことで会話が盛り上がった。ケヴィンも久しぶりに秘密を共有出来る人間に出会えとても楽しい時間を過ごすことが出来たのだった。思い切って相談して良かったとしみじみと感じた。
「今こちらの世界では何をしているのですか?」
話が少し収束しかけた所でケヴィンが切り出す。
「私は老夫婦が経営する喫茶店で拾ってもらってそこで仕事している。私のやりたいようにやって良いよと言ってくれていて、楽しくやっている。」
「私は海堂さんに紹介してもらった介護施設で職員をやっています。本当に良い仕事を紹介してもらい海堂さんには感謝の言葉しかありません。」
「いやぁ、それが我々の仕事ですから。
でも、そう言ってもらえるとやはり嬉しいですね。」
こちらが聞いてもいないのに海堂縁とフルネームを名乗ってきた筋骨隆々な担当官が豪快に笑いながら答える。屈強な冒険者と言った方がしっくりとくる男で眼鏡を掛けて線の細い三浦とは対照的な人物だ、、、
木村はこちらでも飲食の仕事に携わっており、佐々木(オーフェンという名前だったらしい)も変わらず人の助けになる仕事に携わっているとのことでそれぞれ充実した生活を送っていることが伝わってくる。
「元の世界に戻りたいと思ったことはないのですか?」
今回ケヴィンが一番聞きたかった質問をついに投げかける。
「う~ん、こっちに来た当初は一人で不安だったし戻りたかったかな、向こうでようやく開業したお店も軌道に乗って来ていたし。
今はオーナー達も優しいし、お店のことでバタバタしていてあんまり考えることなくなったかな。
向こうのお店は確かに気になるけど、、、信頼のおけるスタッフばかりだったからなんとかやってくれているかなぁって。」
「私は人の助けになることが出来ればそれは元の世界でも、こちらの世界でも良いかなと思っています。」
と、会話の流れから何となく想定していた回答が帰ったきた。
「久世さんは、来てまだ時間が浅いとのことですがやはり元の世界に戻りたいですか?」
当然くるであろう質問が返ってきた。
「皆さん良くしてくれるし、仕事もいろいろと面白くなってきていますが、、、やはり帰りたいと言う気持ちはありますね。何か本当の自分を偽っているようで、、、、」
転生者たちの面会はその後しばらくして閉会となった。施設の一室には三人の担当官が残っていた。
「まぁ、そうだろうね。むしろ正直に言ってくれるだけありがたい。
しかし、向こうへの入り口も完全に閉じようとしている今、どうにもならないし。
戻れるとしても戻るべきでもないしな。」
「あんたも淋しいんじゃない?」
「バカ言え、そんなことないや。
まぁ俺のことは置いといて、彼のことは前の会議でもあったようにしばらく注意してケアしていかないといけないな、三浦よ。」
「そうですね、引き続きしっかりフォローしていきます。」
いきいきとした久世の様子は見ることが出来たが、今回の面会が本当に彼にとって良かったのかモヤモヤが残ってしまう三浦がそこにいた。