三浦の報告①
時間は河原でのバーベキューの時よりも少し遡る。
ケヴィンが研修を受けていた施設の隣にある建屋の一室で会合が行われていた。三浦は30人程いる出席者を前に報告を行っていた。
「久世新平さん、ランクSについての経過報告です。
前回の定期検査でも脳波等に異常はなく、身体的にも良好な状態ですので今後は勤め先の年一回の健康診断で様子を見ていくということで問題がないかと思います。
就職先での勤務態度も良く、業務内容もどんどんと覚えて仕事が丁寧だと職場での評判も良いとのことです。
この後もこまめにケアを行っていく予定ですが、周りの人間とも少しずつ打ち解けているようで大きなトラブル等が起こる可能性は低いかと思います。」
「そうですね、報告書を見る限りだと大きな混乱もなく、新しい環境にも順調に適応出来ているみたいですね。」
議長らしき人物が先に提出している報告書に目を通しながら確認をする。
「、、、まぁ、そう考えて良いと思います。」
「何か気になることでもありますか?」
「気になるということではないのですが、、、自分と同様の境遇の人と会って話がしたいとの申し出がありました。現状を受け入れようと必死に頑張っておられますがやはり元の世界に未練があり、戻りたいと考えているようにも見受けられます。」
「私が担当している子も、前はそんなこと言っていたわね。
最近では新しい環境での生きがいを見つけて口にすることがなくなったけど。」
「俺んとこは何も言わずに淡々と現実を受け入れていると言った感じだったけどね、最初から。」
三浦同様に転生者を担当しているらしき人物達がその会話に参加してきた。
「三浦君はその申し出に対してどう回答すべきだと思いますか?」
自分なりの回答を導き出してこの場に臨んではいるが、いざ口に出そうとすると少しためらいが出てしまっていた。
「同じSランク同士であれば問題がないかと思います。
新しい環境を受け入れて前向きに暮らしている人達に会うことによって、自分もここで暮らしていって良いのだと少しでも思えるようになってくれればと思います。」
「戻ることが出来ないのに今更同じ境遇の人間に会って未練たらしく昔話をするのか?
ホームシックじゃないが悪い方向に向かうリスクがないとも言えないんじゃないか?」
当然、想定していた反対意見も出て来るがそこでひるむ訳にもいかない。
「いきなり見ず知らずの人達の中に飛びこんで過去の経験を黙っていなければならない状況もつらいかと。少しでも秘密を共有出来る仲間というのが居ても良いのではないでしょうか。」
三浦の発言後、周りは静まり返っていた。『何を言っているんだ』とか『余計なことをするな』という顔をしている面々も少なからずいる。だが三浦の意見を聞いた議長が下す判断に乗っかる方が得策と考え皆沈黙を保っていた。そんな中で議長よりも先に沈黙を破ったのは先ほど会話に参戦してきた二人の担当官だった。
「だったら佐々木さんに会ってもらうか、俺も同席するよ。」
「私も木村さんに話してみる。」
「そうですか、、、では今回の件は若いメンバーの意見を尊重することにしましょう。三浦君、申し出受ける方向で調整してください。」
二人の発言を聞き議長が宣言した。
気のせいかも知れないが、議長は微笑んでいるようにも見える。
「ありがとうございます!」
三浦は深々と頭を下げた。