近所の河原で
とある休日、ケヴィンは近所の河原にいた。
職場の親睦会ということで、鉄工所の近くの河原にあるバーベキュー場で従業員の家族も招いたバーベキューパーティが催されていたのだった。アットホームな職場という触れ込み通り、従業員が公私共に仲良く過ごしている。
その話が持ち上がった時には断ろうかと思っていたケヴィンであったが、社長の山崎による猛烈なお誘いにより半ば強制的に参加することになった。
最初のうちは渋々にという感じではあったが実際にバーベキューが始まると冒険の途中で野営をしていた頃を思い出し、率先して火をおこし、食材を焼き、それなりに楽しい時間を過ごしていた。欲を言えば食材も狩りで自家調達といきたかったが、こちらの世界ではいろいろと制約があるようなので買い出し班がスーパーで調達したそれで我慢した。
「新平君は、バーベキューとか良くやるの?随分手際が良いけど。」
庶務のおばさんが声を掛けてくる。
「そうですね、前は良く仲間とやっていました。」
生きるために、、、とは言えない。
「意外とアウトドア派なんだねぇ。」
確かにそう見えるかもしれない。目覚めた時、久世新平の体は線も細く日焼け跡一つなく肌の色も白かった。冒険者だった頃のギャップを埋めようと日々体づくりは行っているが当時のそれには程遠かった。
「基本的に田舎育ちですからね、それなりには。」
職場では社長以外彼が転生されて来たとは知らないため初期設定に則りそれなりに話を合わせておく。
開始からひたすらに肉を焼き続けてきた網は油と炭で真っ黒になってきた。
「汚れてきたから一度網替えますね。」
そう言って網を素手で持ち上げる彼に皆が驚く。
「ちょ、ちょっと熱くないの?グローブとか使いなよ。」
「え?別にそこまで熱くは、、、、」
答えるケヴィンに対して先輩職人も思い出したように付け加える。
「新平はその辺、鈍いというか我慢強いというか。
以前仕事で指をパックリ切った時も平然としていたよな?こっちばっかり焦っていたっけ。」
「それ労災?報告受けてないけど。」
「あ、やべっ。時効ってことで。」
「あれは自分が不注意だったんで、しょうがないです。」
「それでも次からはちゃんと報告してね。」
「はい、、、、。」
「あんたも、先輩がしっかり指導しなさい!」
「は~い。」
思わぬ所で先輩共々怒られてしまった。
確かに火竜の吐く炎の息に全身を焼かれたことに比べれば熱いうちに入らないし、サーベルタイガーの牙で肩を噛まれたことに比べればかすり傷のようなものだ。
生活していく上でその辺も基本データとしてアップデートしなければならないと肝に銘じるのだった。
「すいませんね、私までお招き頂いてしまって。」
三浦が途中参戦してきた。知り合いが少ないかも、と社長が気を利かせて呼んだのかも知れない。そんな三浦だったが何故かケヴィンよりその場に馴染んでいる気もする、、、、特に社長の山崎とは話を弾ませている。
「皆さんが久世さんの肉の焼き加減を絶賛していましたよ。お肉も良いお肉みたいで、参加出来てラッキーでした。」
そう言って近づいて来た三浦はお酒が入っているらからいつもより上機嫌にも見える。しばらく周囲と歓談した後、ケヴィンと二人になったタイミングで彼は唐突に切り出した。
「以前久世さんにお願いされていた案件、他の転生者との面談についてなのですが上の承認を取ることが出来ました。
先方の日程も確認必要ですが鉄工所がお休みの日であればご都合付きますか?」
「もちろん、特に休みだからと言って予定はないので。ありがとうございます!」
元の世界に戻る術についてなんら手がかりが見つからず悶々とした現状に一筋の光が差すように思えた。