始まりの丘で
「ケヴィンの奴、やっぱりいねぇな。」
始まりの丘にムサシ、ニーナ、マリンの三人が佇んでいる。
常闇の迷宮攻略失敗の後、皆それぞれ始まりの丘にて目を覚まし再起のための準備を進めてきた。しかしケヴィンだけは一向に姿を見せることがなかった。初めて皆がパーティを組んだギルド、クエストの後に反省会と称したバカ騒ぎをする黒猫亭、その他皆でよく立ち寄る場所には何度も足を運んだが4人が再会することはなかった。
パーティの中で最も多くの経験を積み、戦闘能力も一番高い彼なしで新たなクエストに挑戦することも躊躇われ、ケヴィンを探すだけの日々が過ぎて行った。
もしかしたらひょっこりと現れるのではないかと最後の希望を抱き始まりの丘へと足を運んだのだがやはりそこにケヴィンの姿はなかった。
「冒険者を辞めてしまったんですかね?」
「、、、そうだとしても私たちに一言あるはずじゃない?」
「そうだよな。」
「、、、、、、、、昨日流れていたあの噂話、本当ですかね?」
「多分ね、まぁ、遅かれ早かれそうなるとは思っていたけど。」
「ケヴィンさんもそれを見てもう来ないんですかね?」
「わかんねぇよ!でもアイツはそんな腑抜けじゃないと思うけどな!」
苛立ちを隠せないムサシが怒鳴る。
「すいません、そうですよね。」
しばらく沈黙が続いた後に再びニーナが口を開く。
「私たちの冒険も、これで終わりなんでしょうか。」
皆が何となく覚悟していた問いかけである。
「俺は新天地でまだまだ冒険を続けるぜ!お前らもどうだ一緒に?」そのムサシの誘いに対し
「私はもう引退かな?何だか情熱が湧いてこないし、ここでの冒険以上にワクワク出来ることはない気がする。」
とマリン。
「私は少し時間をください。まだいろいろと気持ちの整理がつかなくて、、、」
とニーナ。
それにより今まで数多くのクエストをこなしてきたパーティが実質解散ということになった。
どれくらい時間が経ったであろう。
まだ最後にケヴィンが姿を現すかもしれないという微かな望みを捨てられず誰もがその場を離れようとしなかった。
日が暮れ始め、今までの冒険の思い出を語っていたネタも尽きてきた。
「あ~、大変だったけど、、、楽しかったなぁ。そろそろ私行くね。」
マリンのその一言を合図にそれぞれが立ち上がった。
「それでは私も帰ることにします。」
「あぁ、俺も。
今日はフラれちまったけど、また何かの縁があればその時はよろしくな。」
そう言って三人は始まりの丘を後にした。
その時は後に辛い再会が待っているとは思いもしないムサシとニーナであった。