夏祭りが終わるまで
小さな町の片隅にある小さな公民館から、子どもたちの笑い声と、太鼓の音が響いている。
夏休み。毎年行われる町の夏祭りに向けて、お囃子太鼓の練習が始まった。
「おーい、練習始めるぞー」
お囃子の指導をするのは、同級生のれんのパパだ。
正直、みなみ以外聞いていない。
集まった小学生たちは、物珍しい太鼓をでたらめに叩いたり、部屋を走り回ったりと、大騒ぎをしている。
みなみは六年生として、後輩たちをまとめなければという責任感を感じて、れんは役に立ちそうにないし、仕方なく息を吸い込んだ。
ドン!
低く大きな音が、お腹の底に響く。
ドコドコドコドコドドンドドン!
迫力満点の太鼓の音に、はしゃいでいた子どもたちが立ち止まる。注目する。
そこには、れんのパパが大きな太鼓を力強く叩いている姿があった。
……かっこいい。
「かっけー」
一人の一年生が言った。
れんのパパはニカッと笑う。
「だろ? お前もかっこよく叩きたくないか?」
「やりたい!」
「よし。教えてやる。他の奴はどうする?」
「えー、俺もやろうかなー」
次々と子どもたちが、れんのパパの周りに集まり、あっという間にお囃子太鼓の練習が始まっていた。
みなみはそれから毎回練習に参加し、低学年にも教えられるようになった。れんのパパの手伝いも率先してやった。
「いつも助かるよ、ありがとな」
「……いえ、六年なので」
「れんと同じ六年なのにしっかりしてるよなー。でも、無理するなよ」
そう言って、みなみの頭をポンと叩く。
大人はずるい。
厳しく楽しい練習のおかげで、夏祭りは大成功を収めた。
「みんなお疲れー。ゆっくり休めよー。宿題もしろよー」
「うわー言うなよー」
「忘れてたー」
子どもたちは手を振って帰って行く。
「あの」
みなみは思い切って声をかけた。
「ん? 何だ?」
「えっと……」
緊張してうまく言葉が出ない。
「パパー」
「おー、みう、どうしたー?」
走り寄ってきた小さな女の子を抱き上げる。
「みう、だめよ。お話の邪魔してごめんねー」
後ろから、れんのママが歩いてくる。
お腹が、大きい。
「……赤ちゃん?」
「あーそう。もうすぐ産まれんだー三人目ー。で、どうした?」
ものすごく幸せそうな笑顔。
れんのパパは、れんとみうちゃんと赤ちゃんのパパで。れんのママが大好きで。
「ご指導ありがとうございました! 楽しかったです!」
みなみは深く頭を下げた。
返事を待たずに家まで走った。
この胸の痛みは、夏祭りの、低く響いた太鼓のせいだ。絶対に。