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ギャルゲ的日常

「はぁぁ、ハーパン女子なんて、全然萌えませぬぞ、同志諸君」

「やはり女子の体操着はブルマ一択ですな。なのに、何ぞこの光景は。これでは少子高齢化まっしぐらではござらんか」

「せめてこれがスパッツならば、まだ何とかイケたものを……。口惜しいですぞよ」

「男女平等を履き違えたPTA共に神の裁きを……」

 春の日差しに包まれ、和やかに流れる午後の自習時間、何やら後ろの方の席から変態的怨念がユラユラ漂う会話が聞こえてきた。

「何あれ?」

「あぁ、パソコン部の連中だよ。別名ギャルゲ部とも呼ばれてる」

「なんだ、ただの変態か。お兄ちゃんの知り合いなの?」

「部室隣だし、たまに話したりするんだよね。色々ゲームとか貸してくれるし」

「ゲームって、エッチなやつ?」

「あぁ、まぁ、そういうのもたまにあるけど、大抵は妹物とか姉物とか幼馴染み物とか、そういうのを重点的に貸してくれる。俺は普通のギャルゲがいいのに」

「し、 翔太も、そういうのに興味あるの?」

「え? まぁ、そりゃ、少し――」

 はっ!? マズいっ!? また関節キメられるのか? 何か最近妙に好戦的だし、ここは上手く誤魔化さないと――

「――も、き、興味なんて全然無いけどね~」

 ナイス・フェイントっ!

「なーんだ、言ってくれれば絵美が協力してあげるのに」

「協力?(×2)」

「だって、絵美は幼馴染みで妹でしょ? 一粒で二度美味しいよ?」

「美味しいって、おい」

「え、絵美っ!? ま、ま、ま、まさか、あんた……」


「ご、ごくり。幼馴染みが妹設定、も、萌えるっ!」

「次はこれで決定でござるな? あ、髪は金髪ツインテでお願いしまつ」

「それでは同志諸君、さっそくこれでネタとおかず作りを……」

 気が付けば、さっき後ろで話していたパソコン部員達が、机の影に隠れながらこちらを凝視していた。

「な、何?」

 その視線に気付いたなつみは、顔をひくつかせて後ずさる。

「あ、拙者達にはお構いなく、どうぞ進めてくだされ。ささっ、どうぞどうぞ」

 彼らは凄まじい勢いで携帯を操作しつつ、鼻息を荒げていた。知り合いとは言え、色々と残念な感じだ。

「あぁ、多分、次の同人誌の事じゃないかな? 何か中学の頃から色々作ってたって言ってたし、新しいネタが見つかったのかも」

 その作品、凄くお勧めされたから一応は見てみたんだけど、何か、俺にはちょっと良く分からない世界だったんだよね。何かこう、擬人化とか、巨大化とか、……ねぇ?

「へー、同人誌? ふーん」

 それを聞いた絵美葉が悪い顔でニヤリと微笑む。こいつがこういう顔をする時は、大抵ろくな事が起らない。それはもう、勘と経験に裏打ちされた長谷川家の教訓とでも言えようか。

「ねぇ~、お兄ちゃ~ん。絵美葉ぁ、もう放課後まで我慢できないよぉ。早く保健室、……行こ?」

 普段からは想像も付かない甘い声で腰をくねらせると、彼女は勢いよく抱きついてきた。顔を撫でる髪から漂うシャンプーの香り、首筋や耳に触れる、しっとりと弾力のある頬、あまりに突然の事で身動き一つ出来ず、顔を真っ赤にする事で精一杯だった。

「ふぉぉぉぉぉっ!?(×3)」

 そんな彼女に興奮したのか、盛大に鼻血を吹き出し、倒れ込むパソコン部員達。その姿はまるで、マシンガンの弾幕になぎ倒されるモブキャラのように、儚くも壮絶だった。

「な、なんぞ、これ? 我らは夢を見ているのでござるか?」

「ほ、ほ、ほけ、ほけんし……」

「こ、これが噂に聞くリア充爆発という奴でござるか……。恐るべし、リア充。……かっ」

 でもまぁ、うん、こんな事だろうとは思っていたよ。昨日はいっぱい妄想してたしな。

「ふっ、ふふっ、あはははっ! まさか妄想勝負で絵美に勝てるなんて思っていたの? この萌え○共っ! 私に戦いを挑むのなら、もう少し気合い入れて修行して来る事ね。あーっはっはっはっ!」

「いや、勝ち負けとかないし。てゆか、妄想通り越してリアルに抱きついてるじゃん。てゆか、さっさと離れろ。俺まで巻き添えになるだろがっ!?」

 俺に抱きつきながら倒れた男達を指差し、偉そうに仰け反る彼女の姿は、それはそれは頭がおかしい事この上なく。正直、あまりの非日常に目眩がしていた。

 そんな意味不明な状況に錯乱していると、突然、ゴンッという鈍い音が教室中に響き渡る。気が付けば、拳をふるふると握り締め、鬼のような形相のなつみが仁王立ちしていた。

「絵美? いい加減にしなさいっ!」

「んがっ、くっ――、んぃーっ!? 痛いっ! 何すんのっ!」

「何じゃないっ! そういう恥ずかしい事しないでって、いつも言ってるでしょっ!」

「だって、勝負が――」

「もう訳分かんない事言わないでっ。ほら、離れて離れてっ! あんた達もさっさと起きなさい!」

「へーい(×3)」

 あの異様なテンションはどこへやら、皆、一瞬で現実に戻っていった。この切り替わりの激しさは一体どんな特殊能力なのだろう。正直、色々とついていけんでござるよ。

「翔太も、何へらへらしてんの?」

 そう言って、なつみは俺の二の腕を思いっきり絞り上げる。まるで犯罪者を組み伏せるかのような勢いで。

「いででででっ! やっ、やめっ! 痛い痛い痛いっ!」

「ほら、ごめんなさいは?」

「ゴメンゴメンゴメンっ! ごめんなさぉぅえででででっ!」


 だから言ったじゃん、もう。


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