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Musketeers

 カチャリと鍵を開け、ガチャッと扉を開く。意識していなかった温かい空気が外へと吸い込まれ、肌を切り裂く冷気が頬を掠める。少しの戸惑いを振り払い、大きく扉を押し広げると、綺麗な月明かりに照らされた石畳が目に飛び込んでくる。そこから少し目線を上げれば、透き通るような蒼い夜空が広がっていて。まだ目が慣れていないせいか、星明かりはほとんど見えないけれど、きっと、いつものように。

「……」

 ひやりとした空気を掻き分け、ゆっくりと門を抜けると、壁にもたれかかる彼女の姿が視界の端に入ってくる。何だか気まずくてそちらを向くことは出来ないけれど、彼女も又、こちらを向いていない事だけは分かった。

「……」

「……」

「……」

「……」

 あぁ、しまった、そう後悔した。どうして俺は、門を出た時に声を掛けなかったのだろう? もう今更、このタイミングで、何て声を掛ければいいのか。

「……」

「……」

 な、何かこう、ほら、その、何か、あれ。

「……」

 ……何か、話があるんじゃ、ないのか?

「……あのさ、買い物頼まれちゃったんだけど、コンビニまで付き合ってくんない?」

「……行く」

 語尾が上がる訳でもなく、優しく微笑むでもなく、何の感慨もなく、彼女は答える。その無機質さに、思わず身構えてしまう。彼女は、何を伝えようとしているのか。彼女が、……分からない。


 ――――。


 街灯もまばらな田んぼ道。枯れ行く草木の囁きや香り、虫たちが奏でる美しい音色。子供の頃はもっと近くに聞こえていたような気がするけれど、今はもう、見上げる星空の方が近しいような気がする。見上げれば見上げる程に吸い込まれていくような、無限の残光。

「……」

「……」

 あの日々に映っていた景色は、今は、もう。

「……ごめんなさい」

「え?」

「だ、だから、その、……病院で。……叩いて」

「あ、あぁ」

「……ごめんなさい」

 隣を歩く彼女は俯いていて、その表情を見ることは出来なかったけれど。

「……俺も、ゴメン。その……、電車で色々言っちゃって」

「それ、あたしも、ゴメン。あの時は、何かカッとなっちゃって」

「うん……」

「……」

 彼女もあの時を思いだしているのか、二人の間に気まずい空気が流れる。辛うじてお互いの存在を感じ取れるぐらいの、微妙な距離感。ほんの半年前まで、お互いの体温まで感じられる距離だったのに。

「で、でも、あんただって悪いんだからねっ! あたしに何も言ってくれないし」

「な、何にもって?」

「合宿の帰りの時とか色々! 聞いたって教えてくれなかったじゃんっ!」

「あ、いや、あれは、なつみには関係無いかなーって思って」

「はぁっ!? ……あのさぁ、それって酷くない? あんただけの友達じゃ無いんだよ? みんな、あたしの友達でもあるんだよ? もう全然関係あるじゃん」

 友達、その言葉を聞いた瞬間、ストンと何かが腑に落ちた。

「そう……だよな」

「そうだよ」

 俺は、どうして関係無いなんて思ったんだろう? いつも三人で相談しあってきたじゃないか。クラスメイトの恋愛やイジメ、終わらない夏休みの宿題、なんてことのない、日々の溜息。

「それに、あたし達って親友じゃなかったの?」

 その言葉には何も迷うことは無かった。条件反射のように応える。力強く。

「親友」

「でしょ?」

 突然、小さい頃のヒーローごっこを思い出した。結衣姉がレッドで、なつみがピンクで、絵美葉はイエロー。そして、俺がブルー。

「一人は皆の為に」

「皆は一人の為に」

 まるで三銃士のようにオモチャの刀を交えていた、懐かしい日々。俺までスカート穿かされていたけれど。

「ぷっ」

「あははっ」

 ほんの少しだけ、あの日の香りが鼻先を掠めたような気がした。服越しの二の腕には、懐かしい温もり。忘れかけていた、彼女の笑顔。その瞳に、その頬に、俺は、全てを曝け出す。

「もう、隠し事はしない。だから、聞いてくれないか?」

 それが……、一番自然な事だと思ったから。

「聞くよ。いつだってちゃんと聞いてたでしょ?」

「ここ最近を除いて」

「あーはいはい」

「……ぷっ、あははは」

「あははは」


 どうして、最初からこうしておかなかったのか――。


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