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死ぬ為に、骨。

 考える事もなく、足が地面を蹴り出す。まるでレールの上を滑るように、視界が流れていく。

「関谷、先輩っ!」

 対戦するなら、関谷先輩は絶対に必要になる。人数が足りない事も勿論だけれど、あの人が本気を出したら、あんなゲームの攻略なんて造作も無い筈だ。

「くっ!」

 初めてラジコンを見せてくれた時の『雷電・次元空斬』。合宿の時のドッグファイト。どれも普通の人が出来るような事じゃ無い。あの動体視力、あのプロポ操作。ほんの一瞬のミスで全てが終わる現実と、現実世界に何のペナルティもないゲームでは、背負っている物の大きさがまるで違う。

「はっ! はっ! はっ!」

 そう、彼は間違いなく天才だ。それも、超一流の。

「関谷先輩っ!」

 勢いよく二年の教室の扉を跳ね開ける。上級生がどうとか挨拶がどうとか、そんなのどうでもいい。今は一刻も早く――

「関谷? えーと……、いない……かな?」

 しまった、もう帰ったのか?

「みんな、関谷見なかった?」

「そう言えば、今日、関谷来てたっけ?」

「うーん、どうだったかな? あんまり気にしてなかったけど」

 何故か、教室に微妙な空気が流れ始める。

「えっちゃーん、今日、関谷来てた?」

「来てたよ~。でも、もうカバン無いから帰ったんじゃない?」

 どうやら彼女は、関谷先輩の隣の席らしい。自分の席に座ったまま、横の机を覗き込むように答えている。

「ゴメンね、何かもう帰ってるみたい」

 応対してくれた先輩は申し訳なさそうに、片手を顔の前に立てて謝ってくれた。

「あ、いや、大丈夫です、すみませんでした」

 そんな先輩に逆に恐縮してしまうけれど、でも、文化祭当日まで時間が無い。今日中になんとしてでも関谷先輩を説得しないと。

「あの、関谷先輩の家って、どこにあるのか教えて貰えませんか?」

 こうなれば直接家に乗り込んで――

「あー、うーん、それはちょっと分からないかなぁ。あいつ、ほとんど誰とも喋らないから、そういうの知ってる人っていないと思う。転校してきてるから、昔の同級生とかもいないだろうし……」

 何か酷い違和感が耳の奥に引っかかる。いや、もしかすると、この人は何か大きな勘違いしているのかもしれない。

「あの、関谷先輩って、航空技研の関谷先輩なんですけど……」

「航空技研……だったかどうかは知らないけど」

 不思議そうに顔を傾け、さも意味が分からないという口調で先輩は答えた。

「二年で関谷っていう名字は、一人しか居ないと思うよ?」

「おーいっ! 杉本、こっち手伝って」

「あ、ごめん、今行く。じゃ、そういう訳だから」

 二年の教室はどこも慌ただしく、週末に向けての仕上げが佳境に入っているように見えた。でも、そんな雑踏の響きが耳に入る事は無く、頭の中はまるで氷のように思考が止まっていた。

「……誰とも、喋らない?」

 あのお喋りな先輩が? あの人懐っこい先輩が? あの、明るい、先輩――が?


 ――――。


 酷く心がざわつく。

「長谷川はそっち押さえてて」

 転校? 誰とも喋らない?

「……長谷川?」

「え? あ、うん、何?」

「だから、そっち押さえててって」

「あぁ、ごめんごめん」

 有り得ないだろ? 関谷先輩が、誰とも喋らないなんて。

「よーし、これで看板は完成だな。後は飾り付けの手伝いか」

 自分の教室に戻ってきても、現実を上手く理解出来ずにいた。記憶に広がる関谷先輩の笑顔と、クラスメイトの冷めた瞳。どう考えても何かが繋がらない。だって、あんなに嬉しそうに喋る先輩、……あんなの、……クラスの人気者にしか、見えないじゃないか。

「長谷川妹ーっ、そっちの方はどんな感じ?」

 どうして? 本当の関谷先輩は、一体……?

「見て見てー! もうバッチグーだよーっ!」

「おっ、良い感じっぽいな。よし、長谷川も見に行こうぜ」

「あ? え? あぁ……」

「っていうか、バッチグーって何?」

 小難しそうな顔をする彼に促され、絵美葉達の作業スペースへと移動する。確か、彼女達のグループは占いの館を飾り付ける班だったか。教室の端に黒いテントを建て、その中で占いをする。そしてその周りには机や椅子を配置して、喫茶店風の待合室を作る。クラス皆で考えた『占い喫茶』。そのメインとなるテントの飾り付けは、とても重要な意味を持つ。この雰囲気一つで、廊下を歩くお客さんが寄っていってくれるかどうかが決まるからだ。

「どれどれ、どんな風……に……、?」

 絵美葉が嬉しそうに手招きするその先には、想像を絶する光景が広がっていた。

「……は?」

 これは、占いと言うより、……魔術?

「絵美葉、これって、……何?」

 いや、確かに昨日の図書準備室の雰囲気を考えれば、これはこれで間違っていないような気もするけど、何かおかしくないだろうか? 無数の刺繍が施された赤や黄色の派手な布地、金銀のメッキが施されたアフリカっぽい装飾品、木彫りの何かや、無数の骨の数々、これは、どちらかというと――

「おいおいおいおい、これ、何か違くない?」

 そう、これじゃまるで、呪術師の館。いや、まぁ、そんなに間違ってないような気もするけれど。

「ちっちっちっ、分かってないなぁ。今のトレンドはネイチャー、アンド、アースなんだよ? そう、自然と共に生きる。あぁ、なんて素晴らしい響き」

 唐突に、そして恍惚に、自分の胸を抱きしめながら妄想をし始める彼女。

「いや、まぁ、自然は良いんだけどさ、それとこの呪いの館みたいなのが、どう関係するの?」

 彼の疑問は至極自然だ。ネイチャーな話題なだけに。

「え? 何言ってんの? 自然と言ったら骨でしょ? そう、時代は骨だよ? 骨。ボーン・トゥ・ダーイ」

 ドヤ顔でラッパーのようにポーズを決める絵美葉。

「いや、それ、何か微妙に合ってるような、豪快に間違ってるような――」


 こっちもこっちで、何だか酷い違和感に苛まれる事になった。


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