第68話 黒い魔力
「勝機は一瞬。私が奴の魔術と防壁を切り裂きます。その隙に、皆さんは奴を……」
そう言うと、ウィザさんが刀を構えた。
濡れたように輝く刀身がガルバディアスに向けられる。
「あぁ、頼むぜぇ、じいさん!」
ウィザさんの言葉にロックが力強く答えて見せた。
そんなことが出来るの? 思わずと聞きたくなったけど、ロックのその様子からして、恐らく出来るんだろう。
多分、私達が来る前の戦闘でやったのだろう。
その瞬間、ウィザさんが突如その姿を消した。
「どぉせぇぇぇぇええぇい!!」
凄まじい怒号と共にウィザさんがガルバディアスの眼前に現れ、凄まじい斬撃を繰り出してみせた。
完全に示現流のそれです、本当にありがとうございました。
個人的には静かに居合いとかやるタイプかと思ってました。
しかし、その威力は本物でガルバディアスへと切りかかった瞬間、何かが割れる音が辺りに響いた。
ガルバディアス、奴の張っている防壁が破れた音だ。
しかも、ウィザさんの刀はその勢いを止めることなく、ガルバディアスへと降りかかり、そのままガルバディアスの身体を切り裂いてしまった。
その威力もまさに示現流である。
「ふん、老いぼれが良く動く!」
しかし、ガルバディアスは自分の身体が引き裂かれた事など、お構い無しと言わんばかりの様子である。
そして、引き裂かれたまはま、その指先でウィザさんの肩に触れた。
「!!」
その瞬間、ウィザさんが爆発した。
小さな爆発であるが。人一人が死ぬには十分過ぎる爆風だ。
「ウィザさん!!」
思わず、声を挙げてしまう。
しかし、そんな私の感情とは裏腹に戦況は目まぐるしく進んで行く。
破れた防壁の合間を抜い、レックスさん、ザルウォーさん、カナルさんの三人が一斉に襲いかかる。
「ふん、死に損ないが良く足掻く」
三人が雄叫びにも似た声を挙げながら自らの武器をガルバディアスに向けて振り下ろす。
しかし、三人の武器がガルバディアスに食い込むか否か、その瞬間にガルバディアスが杖で地面を打ち鳴らした。
その瞬間、突風が吹き荒れ三人を吹き飛ばしてしまった。
「でぇりぁぁぁぁ!!」
突然、ロックの声が上空から響く。
その方向に視線を向けると、拳を振り上げたロックが今まさに、その拳をガルバディアスに向けて振り下ろさんとしていた。
湯気とも魔力ともつかないオーラがロックの拳を覆っている。
「ふん。中々の使い手だが、所詮は常識の範囲内の力。この杖の力には到底及ばんぞ!!」
「うっせぇぇえぇぇ!! いくぜぇぇえぇ!!」
ガルバディアスが自らの頭上に防壁を生み出した。
それは先程、ウィザさんに破られた防壁の様に、目に見えない物ではなく、確実に盾の形を取っており、見た目からもその堅固さがうかがえる物だった。
しかし、そんなのお構い無し、と言わんばかりの勢いでロックはその盾に拳を振り下ろした。
私も好機と、ナイフを投擲する。
投げられたナイフは、ガルバディアスの治りかけの肉体に一つ、二つと突き刺さった。そのナイフの存在に嫌悪感を感じたのか、ガルバディアスが苦い顔を浮かべながら舌打ちをした。
「ちっ! アバズレめ!! 無駄だと言うのがわからんのかッ!!」
その時、僅かな隙が生じたのか、ガルバディアスの盾が砕け、ロックの拳がガルバディアスの顔面へと襲い掛かった。
「でぇりゃぁぁぁぁぁぁ!!」
ロックのその力強い拳は、ガルバディアスの半身を削り取るかの様にして振り抜かれた。
その瞬間に誰もが勝利を確信した。
しかし、私はガルバディアスの眼が死んでいないことに気が付いた。
これは不味い……
「この、死に損ないどもがぁぁ!!」
その瞬間に、ドス黒い魔力がガルバディアスから吹き出した。
「あ、あれは……」
アレは闇属性の魔力。
人や生物の肉を腐らせ、血を濁らせる魔力。
生命その物を侮辱し害を及ぼす魔力。
アレをもろに喰らえば、死ななくとも呪いを貰う可能性が……
そんな、私の憂いを他所にロックはその魔力が吹き出すや否や、直ぐに後方に飛び退いて見せた。そして、その腕にはウィザさんを抱いている。
「うわ、あぶねぇっ!! なんだあれ!?」
「あれ。闇の魔力。まともに。受けたら。やばかった」
私は咄嗟にウィザさんに視線を向けた。
オルドさんがやってくれた、水の加護のお陰で火傷はしているが比較的軽傷だ。よかった……
だけど、安心出来る訳ではない。速く手当てをしないと。
そう思ったのも束の間、直ぐにオルドさんがウィザさんに駆け寄り、回復魔術をウィザさんに施してくれ。
思わず、オルドさんに聞いてしまう。
「ウィザさん!! 助かる!?」
「ええ、問題ありません。ですが、戦いに戻るには少し時間が掛かるかと……」
それを聞いて、私はもう一度胸を撫で下ろした。
「おい!! クレア!! ありゃ、なんだ!!」
ロックが私の肩を叩いてて、ガルバディアスの方を指差した。
その光景に私は血の気が引いた。
ドス黒い魔力が霧の様に立ち込め、ガルバディアスを包み込んでいるのだ。
そして、その中央からは魔力の躍動を感じる。恐らく、アイツはアレを炸裂させるつもりだ。不味い、そんなことされたら……
「皆ッ!! 逃げてッ!!」
私のその叫び声も空しく、ドス黒い魔力は破裂し辺りを駆け巡った。




