第65話 破滅の祭壇
何か地面の底から揺れる様な地響きが聴こえ、それと共に弱い揺れが私達の身体を揺らした。
私達は祭壇へと進む足を止め、思わず坑道の天井を見渡していた。もしかしたら、この揺れで坑道の天井が崩れるのではないかと……
そんな考えが頭を過ると同時に、また違った考えが頭の中に生まれた……
この揺れはもしかして……
「間に合わな。かった?」
「いや。これは単なる強大な魔術を発動した事による余波だ。祭壇を通して発動する大魔術はこれの比にならない。恐らく、何者かが戦っているのだろう」
何者って、もしかして……
「みんな……」
「心当たりが有る様子だな。君達の仲間か?」
わからない、確証は無い。
でも、そんな気がする。
私はこちらを見るエレイン・フィッシュバーグ……
取り敢えず、エレインさんとでも呼ぼうか……
私はこちらを見ているエレインさんに向けて一度頷いて見せた。それを見たエレインさんは私に一度頷いて返答してくれた。
「そうか、ならば急がなければ。祭壇まではもう少しだ。きっとそこで事が起きているのだろう。行くぞ」
「うん」
私が答えるとエレインさんは坑道の奥へと向かって駆け出し、私とミィちゃんもそれに続いて駆け出した。
エレインさんは先程の懺悔以来、かなりコミュニケーションが取りやすくなった。
多分、心理的な壁が取っ払われたんだろう。正直、かなりやり易くて助かる。
ただ問題は山積みだったりする。
先ずは私が絶賛絶不調だと言う事。平気そうなツラをしているが実際の所かなりヤバイ。ちょっと前に今の自分の状態を100をマックスとしたら20くらい。みたいな事を言ったけど、実際は10とかそんなとこかもしれない。この状態で何処まで戦えるか……
……いや、これはもうどうしようもない。考えるだけで時間の無駄だ。それよりも、他の問題について考えなければ……
「大丈夫か?」
「え?」
突然掛けられた声に気が付いて、意識をそちらの方へと戻すと、前方を走っていたエレインさんがこちらを心配そうに眺めている。
「大丈夫かと聞いているんだ。いくら魔術で傷を癒したとしても。失った気力や体力、血液までは戻らない。だから、君は今かなり無理をしている筈だ……」
「だ、大丈夫。心配。いらない!!」
実際の所は大丈夫じゃないけど。そんな事を言ってる場合じゃないので大丈夫って言っておく。
さっきも言ったけど、これに関しては本当にどうしようもない。血液を操れたら話は別だけど、それは吸血鬼とかの固有魔術みたいな物だから、私達にはどうしようもない。
エレインさんもそれを勿論理解しているからだろう。ただただ私の返答に頷いて答えて見せた。
そう、この問題については仕方がない。
だから、他の問題について考えよう。
エレインさんが産み出してしまった杖と祭壇、これらをどうぶっ壊すかだ。
恐らく、エレインさん程の魔術師が術式を練り込んだ杖と祭壇だ、とんでもない力を持ってるのは間違いない。それを所持した相手をどう倒すか。
あるいは、どう杖を奪って破壊するか。
何時もなら、ここでIQ五億万の私の脳味噌が瑠璃色に輝いてスマートでクールなウルトラ解決法をドカンビューんと導き出すんだけど……
今回はマジで頭が回らにゃい。
なんなら、二十秒に一回くらいのペースで意識が跳んでる気がする。魂が抜けかけておる。
もしかして、このままでは私は足手まといでしかないのでは?
いや、きっと私にも何か出来る事が有る筈だ……
自分の両頬を叩いて、意識を集中させる。
「着いたぞ、この広間に祭壇がある! そして、恐らく奴もいる筈だ!!」
エレインさんがそう言うと同時に坑道は途切れ、大きな空洞の様な所に私達は出た。
「こ、ここは……」
そこには辺り一面を海の様に溶岩が流れており。しかも、その溶岩の海の真ん中に一つの大きな切り立つ様に聳える岩場があると言う驚愕の風景が目に飛び込んで来た。
私達が今来た道も、細い足場でその岩場へと続いている。
「見ろ、あれが祭壇だ。あの岩場から伸びる一本の細い足場、あの先に有る物が祭壇だ……」
そう言うとエレインさんは、岩場から伸びるいくつかの道の一つを指差した。
人一人がギリギリ通れる程の細く高い足場、落ちたら溶岩の海に真っ逆さま、恐らくひとたまりも無いだろう。
そして、その先には何か机の様な大きさの箱の様な物が置かれている。
よく見ると何か文字がその箱には刻まれている様に見える。
恐らくアレに術式がミッチリ組み込まれているのだろう。
それより、なんでこんな危険度マックスな場所に祭壇を設置したんだ。溶岩が飛んだり跳ねたりしたら火傷じゃ済まないだろし、落ちたら勿論だけど、この世からさよならバイバイしなきゃだろうし……
その時、先程の地震の様な揺れが私達を襲った。
しかも、さっきよりも近くて強い。
「お姉ちゃん!! アレ見て!!」
ミィちゃんがそう言うと大きな岩場の方を指差して見せた。
私はミィちゃんの声に直ぐ様反応して、その方向に視線を向けた。
その視線の先には、なんと……
「み、みんな……」
驚くべき事に、そこにはパーティーの皆が一同に集まっていた。
なんだ、私とミィちゃんだけ迷子になって馬鹿みたいじゃないか……
なんて、冗談を言う余裕は無く。彼ら全員がボロボロで満身創痍と言っても過言ではない状態になっていた。
だけど、全員が心までは折れてはいないらしく、全員がある一点を睨み付けていた。
その見詰める先へと視線を移すと同時にエレインさんが口を開いた。
「アイツだ。アイツが我々が下さなければならない相手。《黒の師団》第五師団、師団長ガルバディス・ブラックモア……」
「し、師団長……」
そう、つまり《黒の師団》の大幹部の一人だ……
分かりにくくてすまへん。
そのうち、添削させて貰いますわ。




