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幻影を纏う刃  作者: ふたばみつき
眠る大火山、ホワイト・ヘッジ編
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第61話 破滅の研究:上

 坑道の中、何の変哲も無い脇道の奥に彼の研究室はあった。


「ミィちゃん。ここで待ってて。ね……」

「うん、わかった」


 ミィちゃんを研究室の入り口と思われる所で待機させて、私は疲弊した身体を引っ張る様に動かす。

 何時の何倍も重い脚を上げ、私は研究室の奥へと脚を踏み入れた。


 しばらく歩くと土壁を削り出して作ったであろう本棚と机らしき物体が目に入った。

 そして、その机の上には実験器具らしきガラス瓶やフラスコやビーカーの数々が置かれていた。

 そして、床一面には羊皮紙や質の悪い紙が大量に散乱している。

 色々と物色しながらその奥へと更に進んで行く。


 すると、不意に声が響いた。


「驚いたな。もう動けるのか……」


 そう口にしたのは地面に広がった大量の紙の上に立つ、一人のエルフだった。

 その手にはロールになった羊皮紙が幾つか握られている。

 そう…… 確か、コイツはバーガーバーガーとか言ったけ?


 多分違うけど、もういいや。


「あまり道草を喰っている暇はないぞ。この研究資料を持ち出したら、直ぐにでもこの坑道を潰すつもりだ。君達も早く逃る事を進めるぞ」

「駄目ッ!! 仲間いる!!」


 その言葉に僅かに眉を吊り上げたが、直ぐ様その眉を下げ。コチラを見下ろすかの様に睨み付けて来た。


「悪いがコチラの都合もある。事態は急を要する。君達の仲間の事まで責任は持てん。自分の命だけでも助かった事を幸運と思うんだな」


 やっぱり、そうなりますか。


 しかし、そうはさせませんぞい。申し訳ないけど話が通じないなら、無理矢理にでも言う事を聞かせるしか有るまい。

 その瞬間。勢いよく走り出し、私は彼の手に握られた羊皮紙に手を伸ばした。


 と言う感じの幻影を彼にけしかけた。


「愚かな、私の研究をそう易々と渡しはしないぞ」


 エルフは呆れた様にそう呟く。


 すると、彼の手から閃光が放たれ、私の幻影が瞬時に消え去ってしまった。しかし、当の私はと言うと彼の背後へと回り込み。そのまま彼の手に握られた羊皮紙を難無くもぎ取ってみせた。


「く、小賢しいな」


 エルフのしかめっ面がコチラを睨んでくる。


「仲間。助かるまで。これ、返さない」

「ふん。何を戯れ言をそんな紙切れ一枚や二枚。私には別段関係無い物だ。どうなったって構わない」


 嘘つきめ、こんな緊急事態とか言っといて大事そうに持ってる物が重要じゃない訳無いでしょ。

 私はこれ見よがしにロールになった羊皮紙をエルフに見せつけ。両の指で摘まんで見せた。


「じゃあ、破るッ!!」

「まて!! なるほど、君が闇雲にソレを狙った訳では無いのだな。ならば話は別だ。それは貴重な研究資料だ、少なくとも破かないでくれると助かる」


 少し狼狽えた様子は見せたが、思ったよりエルフは慌ててはおらず。冷静に落ち着いた様子でこちらを眺めている。


 何だろう、何か腹立つな。


「先ずは私の話を聞くんだ。そうすれば考えも変わる」


 面倒臭いな。


 私は難しい話はわからん。取り敢えず話は聞くけど、出来る限り簡単には頼むぞ。


 と言うと視線でエルフを睨む。

 すると、エルフは一度だけ頷くとその口を開いた。


「私が研究していた内容は星の魔力を自らの魔力として利用すると言う内容の物だ。ソレにはその術式が記されている」


 そう言った、エルフは私の指に摘ままれた羊皮紙を指差して見せた。


 なるほど、なるほど。それは、つまり魔力を無限に等しく運用する研究って事だな。素晴らしい研究ですね。

 でも、大概、そう言う理論はどっかで破綻する物なんだよね。て言うか、何かしら破綻したから慌ててるんでしょ。

 そんな私の頭の中とは裏腹にエルフは満足げに講釈を垂れ流し始めた。


「私は大気中の魔力を取り込んで、自分自身の魔力を回復する全生物が有するの能力に目をつけた。私は術式により、それら発展させ、星の魔力が大量に集まる……」

「そういうのいい!! だいたいわかるから!!」


 まあ、わかんないけど。

 まあ、要はa=b、b=c、よってa=cみたいな奴でしょ。


 つまり、自分の魔力=大気の魔力、大気の魔力=星の魔力。よって自分の魔力=星の魔力みたいな事でしょ。だから、そうなると、ええと…… 大量の魔力を使えて大魔術を誰でも行使出来る様になる訳だしょ…… でも、あれでしょ、大魔術を行使し続けると、最終的には、あれ……

 

「それだと。星の魔力。いつか、無くなる…… でしょ?」

「む、その通りだ……」


 む、その通りだ…… じゃねぇよ。

 馬鹿たれじゃねぇか。


 禁忌中の禁忌だぞ。


 この世界の生物に取って魔力は酸素の次くらいに重要なモンなんだぞ。

 それをバカスカ使って挙げ句の果てに枯渇するなんて理論の術式を産み出すなんて、論外でしょ。頭の中身が御花畑としか言いようがない。


 少なくとも、もっと他の研究が進んでからするべき。

 今、この段階の世界では速過ぎるし、危険過ぎる。


 よし、決めた。


「これは。この世界から。消すべき!!」

「な、何をするつもりだ!?」


 私はそう言った瞬間、指で摘まんだ羊皮紙を思いっきり引き裂いた。


「なッ!!」


 そのままビリビリにしてしまおうと思ったが、以外と破りにくいので、隠し持っていたダガーナイフを取り出し、それでビリビリに引き裂いて見せた。


「これで、大丈夫ッ!!」

「大丈夫な訳があるか!! 君は自分がした事を理解しているのか!!」


 失礼なちゃんと理解しておりますがな。

 なんな、今度は私が講釈を垂れ流してやろうか?

【剣の国の魔女】


 第四話 毒


 二人の激しく乱れる息遣いが聞こえる。


 既に彼等は一時間近く走り続けている。


 追っ手の気配はないが、今も刻一刻とその魔の手は迫っているのだろう。


 だが、本来ならばすでに追っ手に捕まっていても、なんらおかしくない。

 ウェイド先輩。彼がこの時間を稼いでくれたんだ。


 なんで、私なんかの為に……


「アイリス! ジェット! もう一時間もすれば国境沿いの橋につく。それまで耐えるんだ!」


 アズラン隊長が全員に言い聞かせる様に声を挙げた。その声は自らを奮い起たせる様ですらあった。


 私は何も出来ないのだろうか……


 抱えられた自分の身体を確かめるかの様にして動かしてみる。


 ……痛い。


 指の爪は全部剥がされている様だ、指も所々折られている。足の爪も剥がされている。

 目隠しをされていてよくわからなかったが、かなり手痛くやられた様だ……


 喉は勿論の事を潰されている。

 これでは声を出すのもやっとだ……


 やはり、魔術の連発は不可能だろう。

 出来たとしても、今の精神力ではまともに制御出来ないかもしれない。


 あの時、私が魔術を使っていたら。魔術が暴発して皆の努力を無にしていたかもしれない……


 でも、もし。私があの時、上手く魔術を発動させていたら。ウェイド先輩は死ななかったかもしれない、あんな事をしないですんだかもしれない。


 私が殺したんだ。

 私の所為で死んだんだ。


 私が……

 私が……


「くっ……」


 今までで押さえていたはずの涙が、頬をなぞる感覚がする。

 泣いてる場合じゃ無いのに……


 くそッ!! くそッ!!

 情けないッ!!

 悔しいッ!!


 悲しみに身を任せ、折られた指達を無理矢理元の形に戻していく。


 間接から砂を擂り潰した様な音と共に激痛が身体中を駆け巡る。


 こんなの痛くない。ウェイド先輩はもっく痛くて苦しくて怖かったはずだ、それなのに……


 それなのに、ウェイド先輩は最後まで優しい笑顔を私に向けていた。

 絶対にあんな死に方をして良い人ではなかった。なのに、私のせいで私を助けたばっかりに……


 その感情に身を任せ、足の指も元の形へと戻して行く。


 腕程ではないが痛みが身体を駆け巡る。


 もし、何かあった時の為にせめて、せめて剣だけは握れる状態にしておかなければ……

 いざという時に動けなければ、ウェイド先輩の死も無駄になってしまう。

 それだけは絶対にさせない。


 ……その時、馬の蹄を打ち鳴らす音が後方から響いた。


 追っ手だろうか、それともウェイド先輩が追い掛けて……


「隊長、後方から追っ手が来ます」

「そうか。あと僅かだと言うのに……」


 じゃあ、ウェイド先輩は……


「隊長、僕もウェイド先輩と同じ様に時間を稼ぎます。その内に国境を抜けてください」

「ジェット君。なにを言ってるんだ! あと僅かなんだ、君も一緒に行くんだ。それは最後の賭けだ今やるべきことでは……」


 そうだ、それは本当に最後の手段だ。

 今はまだ……


「そうか、わかった。ジェット君、後は頼むぞ……」

「はい。アイリス先輩の事を頼みます」


 え!? な、なんで、どうして!?

 どうしてそうなるの!?


「ま゛……まっで!! な゛……なんでッ!!」

 

 アズラン隊長と並走する、ジェット君に視線を向ける。

 

 ジェット君も身体の節々に矢が刺さっているが、どこも急所は避けている様に見える。決して、今が命の捨て所ではない。なのにどうして!?


 その疑問を答えたのは他ならぬ、ジェット君だった。


「毒、みたいです……」


 そう言って、私に矢が刺さった腕を見せた。


 彼の腕は矢が刺さった箇所を中心に黒にも似た紫色の斑点が広がっている。


 そんな……


 毒は、毒は違うでしょう。

 なんで、彼の様な誇り高い騎士が毒で死ななきゃ行けないんだ。


 間違ってる、間違ってる。

 私の所為だ、私を助けたばっかりに彼は……


 涙がこぼれ落ちて頬をなぞる。


 その涙をジェット君が優しくぬぐって、笑ってみせた。


「泣かないで下さい、先輩。僕は見ず知らずの誰かの為に死ねるような騎士ではないんです。臆病で弱くて、だから、必死に強くなろうとしました。誰かの為に死ぬなんて御免ですからね」


 なら、なんで……


「そんな僕でも大切な人の為ならば、この命の惜しくありません」


 貴女は僕にとって大切な人でしたよ、アイリス先輩……


 そう言って、彼は私達に背を向け走り出した。


 まって、どうして。どうして!!

 出ない声を振り絞るがその声は決して彼には届かなかった。

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