第57話 潜入、ホワイト・ヘッジ探険隊!!
なるほど、普通だったら幻影に触れちゃったら、その幻影は煙みたいに消えちゃうけど。この幻影は少し違うみたいね。
幻影自体が物体を避ける仕組みになってるみたい。
なんだろう。私の幻影が煙や霧に近い性質だとするなら。この幻影は水、それも流水とかに近い性質なんじゃないかな? だから、この幻影は何か物体が触れればその物体を自然に避ける。
う~ん。私も出来なくはなさそうだけど。その性質をオプションとして追加するには少し私の脳内メモリーが足りないかな。そこまで欲しいオプションでもないし。
「クレアちゃん、どうしたの? 何か気になる事でもあった?」
声のする方向に視線を向けると、直ぐ隣でリアナちゃんが私の顔を眺めていたみたいだ。どうやら、幻影を観察している私にリアナちゃんが声を掛けて来たんだろう。
「ううん。だいじょぶ」
実際はこの幻影自体が何か侵入者を感知するセンサーの役割とかしてんじゃないか、とか探ってたけど。この雰囲気からしてそれはないかな。
ウィザさんも言ってたけど、近くで見ると岩肌の再現度とかが結構甘いし。幾つも幻影を出してる所を見るとそこまでの効果は付属させて無いと思う。と言うより、それが出来る程の術者ではないと思う。
私は振り返って、皆に視線を向けた。
皆は一応にして坑道の奥の方に視線を向けてる。これから進まんとする方向を皆で観察していると言った感じだね。それにしても……
私も皆に習って坑道の奥に視線を向ける。
坑道とは言ってはみたけど、早急に作ったのか、かなり作りは荒い。正規の坑道は木の枠組みで補強されてたけど、この坑道はそんな親切な事は何一つしていない。一言で片付けちゃえば「人工の洞窟」ただそれだけって感じだ。
普通に崩れそう。
「たっくよ。無茶な仕事しやがる。ちゃんと他の坑道の事を考えて掘ったのか? これじゃ、いつ崩れたっておかしくねぇぞ」
そう言ったのはザルウォーさんだった。ザルウォーさんはそう言うとおもむろに岩肌に耳を近づけて見せた。
「ザルウォーさん。何やってるんですか?」
レックスさんが訝しげな表情でザルウォーさんの背中に声を掛けてみせた。一同も訝しげにザルウォーさんを見守る。
「いや、音を聞いてんだよ。正規の坑道で作業してる音とか、水が流れる音とかしねぇかなって……」
そう言うとザルウォーさんは一層耳を岩肌に近づけた。その様を見ていたオルドさんが思い出したと言う表情で口を開いた。
「そう言えば、ザルウォーさんは若い頃は炭鉱夫だったんでしたっけ?」
「炭鉱夫とは少し違うが、ガキの頃少しな。その後は石切場で働いてた……」
超ガテン系じゃん。
格好いい。
「まあ、文句を言っても仕方ねえ。慎重に進むしかねぇな。まったく、《黒の師団》はこんな所で何やってんだかな」
そう言うとザルウォーさんは岩肌をぺちぺちと手のひらで叩き歩き出した。その様に見ていたリアナちゃんが素早くザルウォーさんの隣に並んで見せた。そして、その後ろにレックスさんとロック。その更に後方にオルドさんにウィザさん。そして、私とミィちゃん。
恐らく、これが陣形なんでしょうね。
それにしても、本当に《黒の師団》は何をやろうとしてるんだろう、こんな所で……
生き埋めになったら大変だろうに……
とまあ、ここまでフラグがビンビンに立つと警戒せざる負えない。絶対に落盤事故が起きる。私わかるもん。ここまで言って何も起きない訳無いもん。
そんな事を考えながら進むと幾つかの脇道に遭遇した。私達はそれを皆で手分けして見て回ったがその全てが行き止まりだった。
そうつまり。
「出口がねぇな……」
そう口にしたのはまたもやザルウォーさんだった。
じゃあ、ここはハズレの道だったんだね。とはならない。恐らく、皆を同じ事を考えてると思う。
幻影で出口、あるいは正しい道を隠してる。多分、これは正解だと思う。しかし、これがわかった所でどうしようもない。
「じいさん。すまねぇが今来た所で怪しそうな所あったか?」
「申し訳ありません。薄暗い所為もあって良く見れておりませんでした。ですが、注意深く見れば見落としはしないはずです。もう一度、確かめましょう」
ザルウォーさんとウィザさんのやり取りを聞いて一同は頷いて見せた。私達は再び手分けして脇道をもう一度確認しに行った。
私はその中の通路の一つをミィちゃんと一緒に確認しに向かった。
「やっぱり、行き止まりだね。幻かな?」
「そうだね、たしかめよ」
さっきは行き止まりだって見た瞬間に録に確認もせずに引き返しちゃったから、今度はちゃんと確認しなければ。
と、その瞬間、身体が宙に浮き上がる様な感覚に襲われた。
それと同時に自分の余りの浅はかさに呆れにも似た感情が降って来た。
そうだ、何で気づかなかったんだ。幻影で道を隠してるとは限らないんだ。例えば落とし穴か何かを幻影で隠せば体の良い罠が出来上がるじゃないか。
そして、私は自分の視線を下に向けてみた。
そう、悲しい事にこの考えも正解だった。
私の視線の先は暗い暗い奈落だった。




