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幻影を纏う刃  作者: ふたばみつき
眠る大火山、ホワイト・ヘッジ編
60/75

第55話 幻影を纏う刃、三度!!

 ホワイト・ヘッジがこちらを見下ろす樹海の中。二人の私とカメレオンの亜人が睨み合う。


 少なくとも、第三者から見ればそう見えているはず。


「なるほど、魔術で幻影を造り出しているんですねェ」


 不意に口を開いたのはカメレオンの亜人だった。それと、なんだか彼の放った言葉は僅かに冷笑の様な声色を秘めている様に感じた。


「その、とおり……」

「ケケケ、これは驚きましたよ。貴方は正直者なんですねェ。態々、自分の手品の種を明かすとは……」


 そう言って、彼はさも可笑しそうに笑い声を挙げて見せた。そして、別々の方向を向いていたカメレオンの目が突然、私の方をギョロリと睨み付けて見せた。


「私も侮られた物ですねェ。ですが、貴方のニオイは覚えました。その手品は二度と通用しませんよ!」


 まあ、そうだろう。私自身もここまでの手練れに何時までもさっきの様な事が通じるとは思もってない。


 私は胸元に入れていたクチナシのポプリを宙へと投げて見せた。     

 そして、空かさず、それを投擲で撃ち抜こうと構えた。


 しかし、その瞬間、クチナシのポプリが入った瓶が何かに撃ち抜かれた。そして、それと同時にクチナシの花弁が辺りに広がった。


「ちっ。なるほど、これでニオイ撹乱させる訳ですね」


 見ると、カメレオンの亜人はその口を大きく開いている。

 いや、違う。アレは全ての動作が済んだ後の体勢だ。


 私は視界の端で捉えていたぞ。


 カメレオンの口が大きく開くと同時にその口の中から舌に巻き付かれたナイフが飛び出し。そのまま彼の舌は器用に動き、ナイフを凄まじい勢いで投擲しポプリの入った瓶を撃ち抜いて見せたんだ。


 とんでもない、速業だ。明らかに純粋な能力では私が負けてる。

 それにナイフが口の中から出てきたのも驚いた。まさか、腹の中にでも仕込んでるか……


 いや、今はそんな事より速く場を整えねば……


 私は直ぐ様、辺りに幻影魔術で造り出した霧を張り巡らせて、相手の視野を撹乱して見せた。


「なるほど、なるほど。これは一筋縄では行きませんねぇ」


 カメレオンは何やら一人で納得した様に頷いて見せた。

 

 私はそんなカメレオンの様子も関係無しに先程、造り出した自分自身の幻影を相手にけしかけて見せた。


 私の幻影は直ぐ様駆け出し、カメレオンへと向かって飛び掛かって見せた。しかし、その瞬間、私の幻影の胸元に大きな風穴が空いた。


「やはり、幻影ですか。もしかしたら、本体かと思ったんですがねェ」


 そう言った、カメレオンの口からは長い長い舌が私の幻影に向かって伸びていた。そして、その舌の先にはナイフが巻き付いていた。

 

 そして、その瞬間。カメレオンの長い舌がムチの様にしなりだして、私の方に目掛けて飛んで来た。

 私は余りの出来事にろくな反応も出来ず、その舌をまともに受けてしまった。


 幸い、ナイフの部分が私に当たったのでは無いらしいが。私はそのまま勢い良く地面へと投げ出される様に倒れてしまった。


「ケケケ。どうやら、当たったの様ですね」

「くぅ……」


 思わず、声に成らない様な声が漏れてしまう。

 

 すると、空かさずと言わんばかりにこちらに向かってナイフが飛んで来た。不味い、こちらの位置が割れてしまった。


 間一髪の所で飛んで来たナイフを避ける。

 空かさず、もう一度私自身の幻影を造り出し、けしかけて見せる。


 幻影は真っ直ぐとカメレオンへと向かって飛び掛かって見せた。


「そう何度も同じ手にはかかりませんよ」


 そう言うと、カメレオンは私の幻影を見事なまでに無視して見せた。すると、私の幻影はカメレオンに飛び掛かり触れると同時に煙の様に消えていなくなってしまった。


「幻影なのはわかっていますよ!!」


 すると、カメレオンは幻影がやって来た所に私が居ると考えたのかその大きな口を開き、長い舌をこちらに向かって放って来た。


 ただ、狙いは定まっていないらしく、その長い舌は私の少し左へと通り過ぎて行った。


 しかし、それでもカメレオンの猛攻は終わらず。先程と同じ様に舌はムチの様にしなりながらこちらへと飛んで来た。


 咄嗟に私はムチの様な挙動をする舌を切り着けてやろう、とダガーを構えた。そう、この舌はあのカメレオン野郎の身体の一部なんだ。傷をつけられさえすれば、毒で私の勝ちなんだ。


 しかし、そんな考えは余りにも浅く、ムチの様にしなる様な動きを見切れる筈もなく。私は再び、その舌の攻撃をまともに受けてしまった。


 何とか、ナイフの部分が当たらない様には出来たが、私は地面に無様に投げ出された。そして、それと同時に僅かに意識が跳んだ気がした。

 

 ま、不味いかも……


 私は直ぐに体制を立て直してカメレオンいる方向へと視線を移す。カメレオンは幻影で造り出した霧の中からもある程度こちらの位置を掴んでいるらしく、こちらをの方向を見詰めている。


 私は、今の自分自身の幻影を造り出し、カメレオンに向かってけしかけた。そして、それと同時に私も自分自身に少しの魔術を施して駆け出した。


 大丈夫、これでいい。

 場は完全に整えた。


 ほんの少しだけど、足に力が入らない気がする。

 攻撃を食らったのは脇腹と肩だろうか、その当たりが痛む様な気がする。


 いや、今はそんなことはどうでもいい。

 今はただ、走るだけ。


 もうすぐ、カメレオンの視線に入るはずだ。

 その時に、必ず決める。

 大丈夫、殺れる。


「私が幻影と本物の違いを見切れないとでも思ってるんですか?」


 そう言うとカメレオンは大きな口を開き狙いを定めた。


「本物はねェ、私の攻撃を受けて負傷してる方なんですよ!!」


 カメレオンが大きく開けた口からは舌が凄まじい勢いで飛び出して行く。そして、それは私の胸元にめり込み風穴を開けて見せた。


「な!? そんな……」


 そう驚きの声を挙げたのは私ではなく、カメレオンの方だった。

 そう彼が実体だと思い込んでいたのは実は幻影だったんだ。


 だって、私も言ったでしょ「今の自分自身の幻影」って。

 まあ、心の中で言っただけだけなんですけどね。


 勿論、それだけじゃ、相手を騙せない。だから、私自身も傷とか汚れを幻影で隠して見せた。


 そう、何も見せないだけが幻影魔術じゃないのよ。

 見せる事も幻影魔術の真骨頂なのよ。


 その瞬間、カメレオンの目がこちらを捉えた。


 しかし、その時には既に私の刃は彼の首元に深々と刺さっていた。

 

「み、見事……」


 彼は一言そう呟くと地面へと倒れた。

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