第54話 VS斥候
それは、私にとってはじめての経験だった。
自分と同じ系統の者に出会ったのだ……
私と同じ系統の相手であるが故に、姿は見えないけど、何と無く、何と無く気配でわかる。
恐らくアチラも私の存在には気づいてる。
だけど、お互いにお互いの姿が視認出来ない。
それに、お互いに動く様子もない。正確にはお互いに少しずつではあるけど動いてはいると思う、森の木々が擦れる音や枯れ葉や枝が落ちる音に紛れて。
だけど、大きく動く様子は無い……
当たり前だろう、大きく動けば自分の居場所が割れてしまう。
幸いな事に私も攻めあぐねているが、アチラも攻めあぐねているし、逃げ時を失ってしまったようだ。
暫くの間、お互い姿を見せないまま気配の消し合いが続く。
ここだけの話、森の中での擬態はかなり骨が折れる。吹く風にそって自分が纏った背景の迷彩を揺らして相手に見せる。これはかなりキツイ。
その上、ミィちゃん達の元には一体の幻影を残して来てる。これの操作も大雑把ではあるけどしなければならない。
一体、相手はどうやって姿を消しているんだ?
私と同じ幻影魔術を使ってるのか? もし、そうだとしたら、相手は凄い手練れですな……
何が言いたいかと言うと。
「もう頭がパンパンです」と言うことです。
となると、このままでは埒が空かないし、やっぱり短期決戦で行くしかない。
私は自分と少し離れた場所に自分自身の幻影を出現させて見せた。
その瞬間を私の読み通り、アチラ側に動きがあった。
木々が生い茂る風景から突然、ナイフが飛んで来たのだ。
間一髪の所で幻影を操りそのナイフをかわして見せた。正直、幻影なので避ける必要は無いのだけど、後の展開を考えて避けられるものならば避けた方がいい。
これは一種のブラフの掛け合いの様な物なんだ。
私も空かさず、当てずっぽうではあるが今しがたナイフ飛んで来た所を目掛けてプッシュダガーを投擲する。
その瞬間、不思議な光景が目の前で繰り広げられた。
私が投擲したダガーがアチラに届こうとした時、その場所から何かが飛び出して来たのだ。その何かの身体は森の風景がそのまま身体にペイントされた様な不思議な模様をしてた。
その存在に私が驚いていると、その何かの身体の模様が突然黄色や赤色へと変色していった。
そこでやっと合点が言った。
左右の目で違う方向を見ているギョロギョロとした目。蜥蜴の様な鱗は赤や黄と言った派手な警告色へと移り変わっている。そして、その長い尻尾に蜥蜴の様な口からは長い長い舌が伸びその先端にはナイフが巻き付いている。
アレはカメレオンの亜人だ。
いや、もしやカナルさんと同じ竜人なのだろうか。
違う違う、そんな事を考えてる場合じゃない。今は戦いに集中しなくては……
そう思った矢先。カメレオンの舌に巻き付いていたナイフが姿を隠しているはずの私の方向に飛んで来た。恐らく、アチラもダガーの飛んで来た方向から私の場所を計算したのだろう。
咄嗟に身を翻してそのナイフを避ける。
しかし、その際に私の身に纏っていた幻影魔術が解かれてしまい。私はカメレオンの前に姿を晒す事になってしまった。
「なっ!?」
しかし、驚きの声を挙げたのは以外にもアチラの方だった。
無理もない。冷静に考えれば、私が二人いるんだ。意味がわからないに決まってる。
それに相手は種族特有の能力で景色に擬態していたんだ。と、言うことは、アチラには幻影魔術って言う概念が無いんだ。それなら、あの狼狽え様も理解できる。
よし、大丈夫、行ける。
これなら、上手く相手の思考を操れば勝てる。
《幻影を纏う刃》の真骨頂、特と見せてあげる。




