第53話 大樹海
「この地域一体にはマグナタイトと言う大地のから溢れ出るマナを纏った磁鉄鉱が大量に含まれております。故に、この樹海の中では方位磁針が効かなくなるのです」
そう私に教えてくれたのはウィザさんだった。と言うより、私が後学の為に聞いたのだ。前世の世界でもマグネタイトと言う磁鉄鉱が存在した。
ぶっちゃけちゃうと、今言ったマグナタイトは私が翻訳の都合上、てきとうに作った造語だけど、そう言うマグネタイトの凄い版みたいなのがこの世界に有るらしい。
原理は多分だけど、電磁石の魔力版みたいな物だと思う。どうしてそうなるのかはしっかり調べてみないとなんとも言えないけど、そんな感じなんじゃないかと思う。
ウィザさんは私に話し掛けながらも、優々と足場の悪い中を進んでいる。
溶岩流が固まって出来た地面はゴツゴツゴロゴロと言った感じで足場がとても悪い。
その上、脆くて踏んだ瞬間に足場が砕けて転びそうになったりする。しかも、生い茂る木々達の影響で苔も多くはえており。今、私が立っている所が岩肌なのか、木の根っこの上なのか、はたまた泥の上なのかも見た目では判断がつかない。
ミィちゃんは流石亜人の子とでも言うべきが、私の手を握りながらも軽々と不安定な足場を移動している。
凄いな、やっぱり天性の才能がある。
私も足場には十分注意を払って移動しなければいけない。それに、周りにも十分注意を払って進まなければいけない。
どこに《黒の師団》がいるかわからないからね。
と言うより……
(ウィザさん……)
(ええ、おりますな。数は一人、恐らく斥候でしょう……)
やっぱりか、気配も視線も随分朧気だと思ったから野生の獣かもと思ったけど、やはりそうか。ここまで気配を消せるのはかなりの手練れだな。
(クレアさん、どうしますかな?)
ウィザさんが私の方を見るとそう口にした。
正直、今の内に始末しておきたい。どうせ、その内バレる事だが。こちらの戦力がバレるのは出来るだけ後にしておきたい。
ただ、そうなると一つ問題がある。
これから、この視線の主を始末するとして、私達がその視線の主の元に着くまで、視線の主は大人しくしてるか? と言う話だ。
答えはNO。普通は自分の存在がバレたとしたら、斥候は直ぐに退く。出来るだけ、生きて情報を伝えるのが斥候の役目だから、退くことも仕事だし、そこで退き惜しみする奴はいない。
そう言う、中途半端な斥候はすぐ死ぬか、そもそも斥候なんてやらない。
それに、この視線の主がそう言った手合いか、と問われればそれもNO。気配の消し方からして明らかにかなりの手練れだ。なら、こちらがアチラの存在を未だに気づかず、接近してくる様子も見せずに相手に近づく必要がある。
そんなこと、出来る奴がいるか?
まあ、私は出来るけどね……
(私が。行きます。私なら。気づかれずに。近づきます)
(ほう、それはそれは。ならば、お手並み拝見と行きましょうかな)
ほほほ、見ておれ、見ておれ。私の妙技である《ドッペルゲンガー》と《透明人間化》の合わせ技。
絶技《幽体離脱ぅ~》
私自身は、自分の身体から自分が飛び出した様に見えるんだけなんだど。実際は私自身も透明化してるから、傍目からは変化は無く、ただただ私が歩いてる様に見えるだけなんだよね。
多分、確実に私と幻影が入れ替わる瞬間を感じたのは、実際に手を繋いでたミィちゃん位だろう。
案の定、ミィちゃんは私の手の感触が無くなったのを感じて不安そうな表情をしている。
「ん? お姉ちゃん?」
(ミィちゃんはここでまっててね)
私がミィちゃんの耳元でそう言うと、ミィちゃんは「わかった」と言った様に一度だけ頷いて見せてくれた。うん、やっぱり、ミィちゃんは賢くていい子だ。
(ウィザさんも、ミィちゃんを、おねがいしますね)
ウィザさんに話し掛けると、その視線が瞬時にこちらを射ぬいた。
驚いた、一瞬で私のいる方向がわかったのか。
やはり、この人、デキる。
(驚きましたな。幻影と入れ替わる瞬間がわかりませんでした。確かにこれならば問題ありませんな。ミィさんは私が責任を持って見ておきます故。気をつけて行ってください)
(はい、お願いします)
そう言うと私は直ぐ様、視線のする方向へと向かって歩き出した。




