第50話 てんやわんや
「おうおうおうおう!! てやんでぇぁいッ!! テメェら、ウチの御嬢様を囲って何のつもりでぃ!!」
いや、だからなんでべらんめえ口調なんだ?
ロックの言葉にレックスさんが、さも不思議そうな声で「御嬢様?」と口にした。
御嬢様って誰だっけ? ああ、俺だよ、俺、俺。俺、御嬢様って設定だったんだよ。
そう言や、クロード兄ちゃんがロックとカナルさんに俺の護衛も頼んでたんだっけ? そうなると、二人の行動は一応筋の通った物ではあるのかな?
まあ、もし、そうだとしても。俺がウィザさんの家に行ったり好き勝手やってた時も側に居るべきだったんじゃねぇの? と、心の中で言ってはみるが、実はウィザさんが嫌らしくもロックとカナルさんの監視の目をスルスル擦り付けて俺と接触して来てたのは俺も気づいてるから。そこは突っ込まないでおく。
そこに関してはウィザさんの死角を突く能力が高過ぎた。
だから、俺もウィザさんをひと目で只者じゃないと思った訳だし。そのお掛けで《華族》の関係者同士で話も出来たんだし。結果オーライで良いんじゃねぇの?
「御嬢様とは、クレアさんの事ですかな?」
「おうよ、あったりめぇよ!」
ロックがそう言うと、ウィザさんを睨み付けて見せた。
いや、その人、仲間なんだよなぁ……
「ほほほ、成る程。クレアさんの護衛と言った所ですかな。しかし、それにしてはいささか心許ない護衛ですな」
「あぁん!? おめぇさん、好き勝手言ってくれるじゃねぇか?」
え? なんでウィザさんが挑発してるの?
そう言う、タイプには見えなかったんだけど? 実はそう言うタイプなの?
て言うか、二人とも仲間同士なんですけど?
「ちょっと、二人とも落ち着いて下さい。先ずはお互いに話し合いましょう」
何故か睨み合っている二人の間に入る様にしてレックスさんが割って入って来た。そうそう、先ずは落ち着いて話そうではないか。
俺は片言しか話せないから、落ち着いて話を聞いて貰えないと、まともに会話も出来んのだ。現に俺はさっきから「あう…… あうぅ……」しか言えてないぞ。しかも、誰も聞いてくれないし。
なんだろう、この気持ちは、凄くソワソワするぞ。
「みんな、クレアちゃんが何か言いたそうだよ。聞いてあげてよ」
そう言ってくれたのはリアナちゃんだった。
リアナちゃんだけが俺の声にもならない声を聞いてくれました。本当にありがとう、こんなにも嬉しい事はないよ。みんなも見習ってくれよな。
と、気づけば皆の視線が俺に集中していた。
え? なにこれ? やだ、凄い恥ずかしいんですけど。
なんだこの視線は今はまでに味わった事の無いタイプの視線だな。視線ソムリエの俺でも形容しがたい何かがあるな。
皆が俺の言葉を待っている。
こ、これは端的に尚且つ理解しやすく一言で皆を纏めなければいけない状況なのではないか? え? 結構、難易度高くないですか?
アタイ、片言しか喋れませんよ?
ああぅ、まあいい、もう、てきとうにやってしまえ。
「みんな!! なかま!! このひと、おやじん、ともだち!! このひと、いのちのおんじん!! このひと、ごえい、で、しごとなかま!!」
よし!! いつも以上に片言だけど。もう、これでいいや!!
今わかった。完全に確信した。俺は現在の状況を自分でもよくわかってない!!
「で、クレアちゃんは何で御嬢様って言われてるの?」
そう言ったのはリアナちゃんだった。
リアナちゃんは疑問の言葉と共に疑問の視線をこちらへと向けて来た。
「あ、ああうぅ、あの、そのぉ…… この、たいりく、でない、ところので、いまは、かぞくの、あつめて、て、いま、ウィザさん、あって、それでね、えっと、あのぉ……」
あぁ、もうグチャグチャだぁ……
自分で言ってて何言ってるかわかんねぇや!!
頼む、誰か助けてくれ!!
ああ、こんな時にクロード兄ちゃんが居てくれれば一発なのになぁ……
暫く、ワチャワチャと言語にもならない言葉を連呼し、余りの意味不明さに半泣きに成りかけた矢先。余りのグチャグチャな様子を見て、ロックが堪り兼ねた様子で声を挙げた。
「あ、ああ、クレア落ち着けって。取り敢えず仲間なのはわかったからよ。後は俺達に任せてくれ。な?」
うう、申し訳ねぇ。馬鹿でごめぇん。
ロックの事、ちょいちょい馬鹿って心の中で言うけど、一番の馬鹿は私だよねぇ……
ごめんねぇ……
「うぅ…… ばかで、ごめぇんねぇ。おねがいぃ、みんな、なかよくしてぇ……」
もう、これしか言えましぇん。言葉が通じないってこんなにも不安なんだね。知ってたけど久し振りに味わったよぉ。
何かわかんないけど怖かったよぉ……




