第48話 ホワイト・ヘッジ
「私は風の噂で《華族》が襲撃されたと聞いてから《華族》の人間の行方を探していました。しかし、それらしい情報は得られませんでした……」
うんうん、やはりそうか。正直、俺がクロード兄ちゃんとアイラお姉ちゃんを見つけられたのは完全に運が良かっただけだし。それに他の《華族》の人間も紛れもない玄人。そうそう簡単には痕跡は残さない。
「ですが。《華族》人間が討たれたと言う話も聞こえては来ませんでした。それは彼等が討ち取られておらず、未だに生きていると考えました。故に私は《華族》の捜索から、襲撃者の情報を探ることに目的を変えました」
「襲撃者は《黒の刃》。後ろには《黒の師団》がいる」
俺がそう言うとウィザさんがその身体事態は動かさなかったが、僅かに眉だけををピクリと動かしてみせた。
「流石ですな。そこまでは判明していたのですね」
「はい」
俺がそう言うと、ウィザさんは湯飲みを手に取り、ひとすすりして見せた。取り敢えず、俺もソレに合わせてお茶をひとすすりしてみる。
ちょうど喉も乾いてたしね。
「ならば、この街の背後にそびえるホワイト・ヘッジで《黒の師団》とおぼしき人間が何やら不穏な動きを見せているのも御存知で?」
ご ……御存知ないです。不穏な動きってなに? ビルパン一丁でスクワットしてるとか? それなら放っておいても良いと思うんだが。恐らく、そう言う事じゃないだろうな……
そんなことを考えていると、ウィザさんは俺の様子を見て静かに頷いた。恐らく、その情報を俺が御存知ないことを確信したのだろう。
まあ、仕方ない御存知ないので……
「そうですか。ならば、私が動いた甲斐もありましたな。奴等が何をしようとしているかはわかりません。ですが、ホワイト・ヘッジは大陸有数の鉱山でして、魔石の宝庫でもあります。これらが目的だとすれば奴等は何をしでかすはわかりません、決して放任しておくことは出来ません」
やっべー。全然、話が読めないや。ビルパン一丁とか考えた所為で頭の片隅でボディビルダーがスクワットしてるよ。
なに? とにかく、危険が危ないみたいな感じ?
「奴等はその組織全体が何をしでかすかわからない際者達ばかり。奴等に魔石が渡ればどれだけの人間が無闇に殺されるか。それに、もし火山を下手に刺激でもしたら。ホワイト・ヘッジが噴火するやもしれません。いや、もしかしたら、それこそが目的なのやも……」
それはヤバい。ちゃんと頭おかしい。
でも、《黒の師団》とはそう言う事をやってしまう組織だったりする。
下手したら、この街がマジでポンペイみたいになっちゃんまうかもしれん。どうせ《黒の師団》の奴等がやることだから、ちゃんと結界もどうにか処理するんだろうしな。
その辺は腹の立つことに抜かりが無いんだよな、アイツ等……
「もし、奴等を捕らえれば《華族》の情報を手に入れる事が出来るやもしれません。《華族》の情報を出汁にするようで申し訳有りませぬがどうか奴等の企みを暴き、それが危険な物ならば止めて頂けないでしょうか。どうか、私に力を貸して頂けませぬか。私はこの街を失いたくはないのです」
そう言うとウィザさんは畳に手を尽き深々と頭を下げた。
何をやってるんだ、このジジイは……
「私が無名の時代からこの街と大地。そして、その住人達には大変世話になったのです。もちろん《華族》にも大変世話になりました。ですが、私には《華族》もこの街も天秤に掛けることは出来ませんぬ。老いたこの身に戦える力は僅かしか残されておりません。無礼を承知で重ね重ね、お頼み申し上げます。どうか、この老いぼれめに力を御貸しください。貴方にこの街を救っていたはだきたいんです」
何を言ってるんだ、このジジイはよ!!
「家族なんだから。助かる!! 当たり前ッ!」
こぉんのクソジジィ!! 引く程長生きしろッ!! そんで息子とか孫とかに囲まれながら「おじいちゃん大好き~」とか言われながら大往生しろ。なんなら、俺が言ってやる「おじいちゃん大好き~」ってな!! だから、任しとけよ、コノクソヤロー!!
家族が大切に思ってる街を助ける。そんなの当たり前のことよ!!
ふざけんなよ《黒の師団》。俺だってギルドの人達と接して短い間だけど、色々とお世話になってんだぞ。黙って見過ごす訳にはいかんじゃろうがい!!
「おお、と言うことはこの老いぼれに力を貸してくれると言うのですね!」
「うん、当たり前!! 任せて!!」
そう言って、俺は宙で握り拳を強く握ってウィザさんに見せつけたた。
そして、それを見たウィザさんは朗らかに笑って見せてくれた。




