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幻影を纏う刃  作者: ふたばみつき
新たな街、ホワイト・ロック編
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第47話 ウィザ

「どうぞ、お入りください」

「は、はい……」


 そう言って招かれたのは何とも懐かしき日本家屋の建物だった。見た所、ここが仕事場と言う訳ではないだろう。それに今しがた招かれた建物の横に鍛冶場らしき物があったから、あちらが仕事場なんだろう。

 少し隙を見て横目で鍛冶場の方を見る。そこもやはり和風な建築様式をしている鍛冶場だ。まさか、刀でも打つのだろうか。そう言えば、この世界では、まだ刀には御目にかかった事が無いな。てっきり、存在しない物だと思っていたがもしかしたら、御目にかかれるかもしれないな。


 少し高鳴る気持ちを押さながら、先程招かれた屋敷へミィちゃんと共に上がる。


「ミィちゃん。お靴。脱ぎ脱ぎしてね」

「うん」


 やはり、その中も和風と言うか、“和”その物だった。通路は板敷になっており。時折、障子の隙間からは板の間や畳の敷かれた部屋が垣間見えた。

 そして、この家全体からほのかな木材の香りと畳からするイクザの心地のいい香りが辺りにやんわりと漂っている。


「お姉ちゃん、ここいい香りだね」

「うん、そうだね」


 なんだが落ち着く香りがする。やはり、この魂に刻まれしジャパニーズソウルは未だに俺の中で息づいているのか。


「驚きましたな。我らの文化の作法を御存知で?」

「え?」


 何を言っているかわからないので取り敢えず首を傾げてみる。


「玄関で靴を脱いでくれたではないですか。こちらの大陸では靴を脱ぐ文化が有りませんからね。土足で上がる者も多くいるんですよ」

「ああ、なるほど。良く聞く。話。ですね」


 そんな話が前世の世界でもありました。うんうん、と頷いて見せると、ウィザさんもうんうんと頷いていた。


「まあ、いちいち目くじらを立てる程では有りませんが。そう言った所に気を遣って頂けると大変嬉しい物ですね。では、どうぞこちらで待っていてください。いま、お茶の準備を致しますんで……」

「は、はい」


 そう言って通されたのは、畳が敷かれた六畳程の小さな小部屋だった。部屋は縁側に面しており、障子も開け放たれていて、外の景色が眺められる様になっていた。


「わあ! お姉ちゃん、見て見て!! 池があるよ!!」

「うん、スゴイね!」


 そんな感じの風流なお庭です。しかも、池の中には三匹の鯉まで泳いでおります。


「ほほほ、しがない老人の楽しみですよ」


 その声がして振り向くと、そこには何時の間にかに長盆を持ったウィザさんが立っていた。その盆には人数分の湯飲みが湯気を立てながら乗っており、茶の良い香りがこちらに漂って来た。


 いや、そんなことより気配がしなかったんだが。このジジイ只者じゃないぞ。気配の消し方ならば、クロード兄ちゃんとタメを張れるぞ。

 まあ、元《華族》の人間なんだから当たり前っちゃ当たり前なんだが……


 普通に現役の俺が後ろを取られるのは素直に悔しい。


「お二方、粗茶ですがこちらを飲んで一息ついてくださいな」

「あ、はい。ど、どうも。ほら、ミィちゃんもおいで~」

「は~い」


 とまあ、そんな感じで見事なお手前で。

 見事に一息つかせて貰いました。


「お爺ちゃん、お茶をありがとうございました、ご馳走さまでした!」


 ミィちゃんも、お行儀良くしていて、偉いね。ちゃんと正座もしていて偉いよ! 偉すぎるよ!


「お爺ちゃん。池のお魚見てもいい?」

「ほほほ、良いですよ。くれぐれも池に落ちないようにして下さいね」


 そう言って、ウィザさんが優しい笑顔で微笑んで見せた。それを見たミィちゃんも嬉しそうに頷いて池の方へと向かっていった。


「良い子ですな」

「うん、とっても賢くて。良い子」


 どうもミィちゃんが誉められるのは悪い気がしない。と言うより、凄く嬉しい。

 なんと言うか、最近はミィちゃんの所為で母性をくすぐられっぱなしだ。たまに自分が男だと言う事を忘れてしまいそうになる。


「ほほほ、賢いのは貴女の影響でしょうな……」

「わ、たし?」


 思わず首を傾げてしまう。なんだそれ俺はアホ垂れだぞ。バカが服着て歩いてるとはこの事かと言わんばかりの抜け作だ。その俺の影響? どういうことだ? 反面教師的な意味か?


 それなら納得。


「あれ位の年頃は親の立ち振舞いを見て色々と学ぶ物です。貴方の様に礼儀正しく、知性に溢れる振る舞いを見ていれば。あの子もそれ相応の成長をすると言う物です」


 はぁ? 意味わからないんだが!?

 と言う訳にも行かず「は、はは(満点苦笑い)……」みたいな反応をせざる負えない。


「謙遜せずともよろしいですよ。貴女の立ち振舞いを見ていれば貴女がそれ相応の腕を持つ人間で有る事はわかります。それにギルドの者達には渡していた軟膏も大変出来の良い物でした。そして、それを《華族》の者達を募る為に利用する応用性。敬服に値しましょう」


 ち、違うんだよなぁ。殆どクロード兄ちゃんの案なんだよなぁ…… そんな事を言われても苦笑いするしかないんだよなぁ……


「ほほほ、まあ、老人の勝手な考えと受け取って下さい。さて、それでは本題に入りましょうか……」

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