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幻影を纏う刃  作者: ふたばみつき
ひとつなぎの大秘宝編
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第41話 楽園の上

「お姉ちゃん!! はやくはやくぅ~~!!」

「ちょっと待って。すぐ行く!」


 ミィちゃんがぴょんびょんと跳ねるのを他所に、私は荷物から軟膏容器を取り出して、それを肌に塗り付ける。


「お姉ちゃん、何塗ってるの?」

「日焼け止め。これ塗らないと。大変」


 まあ、そんなことを言った所で残念な事に、この世界に日焼け止めなんて上等な代物は無いんですよね。

 だから、自作である程度の物を作るしかない。これは、石灰にオシロイバナに小麦粉とかを適量とかして馬油に混ぜた粗悪品だ。だけどこれでも無いよりマシマシなんだよね。これを塗らないと本当に日焼けとかで私の身体は凄い事になっちゃうから。

 そうそう、よく亜鉛とか使うのもあるけど、それは身体にめちゃ悪いから極力避ける。ぶっちゃけ、御化粧が目的じゃなくて日除けが目的だから、それで十分。


 そう、女の子はお肌が大事なのよ。

 大事だから……


「ミィちゃん。おいでおいで~」


 そう言って、私はミィちゃんに向かって両手を広げて見せる。


「ん?」


 すると、ミィちゃんは嬉しそうな顔を浮かべ私の所へとすり寄って来てくれた。

 その余りの愛らしさに思わず抱き締めてしまう。


「うん。ミィちゃん。いいこ」

「えへへ~♪」


 私の胸の中にいるミィちゃんにも日焼け止めを塗ってあげる。少しくすぐったそうな顔をしているが嬉しそうにニコニコ笑っている。


「ん、おっけー じゃ、行こうか!」

「うん!! 速く行こっ!! 行こっ!!」


 ミィちゃんがどこに行こうと言っているのかと言うと。船の甲板である。そう私達は今、船の中の一室に居るのだ。そんな事を考えているとミィちゃんが部屋から飛び出して早足で甲板へと向かって行ってしまった。


「ふえ~ すご~い!!」


 ミィちゃんの感激の声がこちらまで届いて来た。それに連れて、私も甲板へと向かう。


「うん。凄い」


 甲板へ出ると船は既に洞窟の切れ間に差し掛かっており。その切れ間からは突き抜ける様な青空に燦々と輝く太陽。そして、一面に広がる青い海。そして、その空を時折飾る白く巨大な入道雲。

 今が夏かどうかは知らないが、見事なまでの夏空だ。


「おう、クレアか!! 丁度、沖に出る所だぜ!!」


 ロックの声が船の後ろの方から聞こえる。見ると船尾と言うのだろうか、船の後ろ辺りで舵輪をその手に握り立って立っていた。

 いいなぁ~ それ、私もやってみたいな~

 ミィちゃんもロックのその様子を興味深そうに見つめている。私達二人の様子がさぞかし面白いのか、ロックは笑顔を浮かべながら語りかけて来た。


「ほれ、お見送りがいるぞ。当分会えなくなるんだ。最後にちゃんと顔を見ておけよ」


 そうだ、お兄ちゃんやお姉ちゃんが見送りに出てるはずだ。


「うん、ミィちゃん。行くよ!」

「うい!」


 すぐにミィちゃんの手を握って船尾へと向かう。そこには入江からこちらを見詰めるクロードお兄ちゃんとアイラお姉ちゃんがいた。


「クレアちゃ~ん!! 日焼けには気を付けてね~!!」

「大丈夫~!! 日焼け止め、塗ったから~!!」


 私がそう言うと、アイラお姉ちゃんは一度だけ頷いて笑顔をこちらに向けて、手を振ってくれた。


「クレアさん!! 家族の為とは言え、決して、無理はしないで下さいね!!」

「うん、大丈夫!!」


 クロードお兄ちゃんは優しく微笑みながらこちらに手を振って見せてくれた。


「うう~ ミィも~ ミィも~」


 ミィちゃんを見ると、ぴょんびょんと飛びはねているが、背が小さ過ぎて船の縁に阻まれ向かいの様子がわからないようだ。

 まあ、そうだよね。

 私はミィちゃんを抱き抱えて見せた。


「ほら、これで、見えるヨ」

「ふわ~!! お兄ちゃ~ん!! お姉ちゃ~ん!! 行ってきま~す!!」

 

 ミィちゃんが二人の姿を見ると満面の笑みで手を振って見せた。その姿を見た岸にいる二人も満面の笑みを返してこちらに手を振って来た。私も二人に向けて笑顔を見せた。


「クレアさん!! ミィちゃんを頼みますよ~!! ミィさんも御元気で~!!」

「うん!! まかせて~!!」


 すると、船体は洞窟の切れ間を抜け沖へと出た。

 洞窟を抜けたからか、今までは感じられなかった風が吹きはじめた。恐らく、この風ならば直ぐに速度も乗るだろう。

 遂に本当に出航する様だ。これで本当のお別れだ。

 でも、前みたいに安否不明の不安に包まれた別れじゃない。二人とも笑顔で私達を見送ってくれてる。


 大丈夫、きっとまた皆会える。


「絶対、皆、見付けるからね~!!」

「ええ、でも無理はしないでくださいね~!!」

「風邪引くなよ~!!」

「お姉ちゃんお兄ちゃん!! またね~!!」


 お互いに目一杯の大声を出し合って別れを告げた。


 すると船は思った通り、あっという間に大海原へと出て、海岸にいた二人は小さな点となり、すぐに見えなくなってしまった。


「もう見えなくなっちゃった……」

「そうだね……」


 なんだか、涙が出てきそうになった。

 でも、泣かないぞ。だって、悲しい事じゃないんだから。


 次に会う時は家族が皆揃って笑顔で会うんだ。

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