第39話 大冒険が始まっちゃう
「……と、言う訳で。ミィちゃん。こちらで預かります。お騒がせしました」
「お騒がせしました!!」
そう言って、私は待ちぼうけを喰らっていたロックとカナルさんに向かって頭を下げた。
いやはや、本当に申し訳無い事をしてしまった。ジメジメとした洞窟の中の海岸に待たせしまして。その上、待った意味もありませんでしたと。いやはや、本当にお騒がせしました……
「あっはっは、良いって事よ!! むしろ、俺はその方が良いと思ってたからな!!」
そう言うと、海賊の格好をしたロックがその大きくはだけた胸を張りながら笑い声をあげた。なんて、さっぱりした人だろうか。一言くらい文句を言ってくれても良いのに。
だけど、ロックのその人となりにはとても助けられている。
「すいません。本当にありがとうございます」
もう一度、色々と感謝の気持ちを込めて頭を下げる。
「止めろって!! そんな頭を下げて貰うような事はしちゃいねぇんだからよ!!」
「いえ、ですが……」
そんなこんな色々とモジモジしていると、ロックは堪り兼ねたのか思いっきり私の背中をひっぱ叩いて来た。
痺れる様な力強い痛みが背中から胸に突き抜ける。
「ぐ、ぐぇ……」
「そんなこたぁ良いんだよ!! それより、お前ぇさんには一つ頼みたい事があるんだ!!」
ん? なになに? 色々と御世話になったし出来る限りなら話を聞きますよ? なんなら、今なら出血大サービス。殺しも半額で引き受けますよ?
「実はここを貿易の拠点の一つにしてぇんだ。まあ、倉庫みてぇなモンだな!!」
そう言うと、彼は手を広げながら洞窟と入江、そして地下道への道をぐるりと見渡して見せた。なるほど、ここを貿易の橋渡し、あるいは中継地点にしたいと……
まあ、悪くない考えじゃないのかな?
ここを貿易倉庫にすれば、その後に色々な街へと海路に陸路で運搬出来るだろうし。そもそも、この街での取引も可能だと思うし。それに地下道を倉庫に改造すれば良い保管場所になる。
ただ、それをやるかどうかの判断を私にはつけられないな……
「良い考えですね。是非とも協力させて頂きたい」
そう言ったのは何時からか私の背後に立っていたクロード兄ちゃんだった。その存在にロックもカナルさんも気づいていなかったらしく、ギョッと目を見開いている。
因みに私も目を見開いています。見ると、ミィちゃんもその大きな瞳を真ん丸にして見開いている。
「お、おう。と、ところで、アンタは一体何者なんだい?」
「私はクロードと申します。エクレアお嬢様の…… そうですね、身内と思っていただいて結構かと……」
う!? こ、これは、お兄ちゃんが何か企んでいる!! それに何かよくわからない設定が繰り広げられている。エクレアお嬢様? お、お、お、お嬢様!? まあ、クレアより少し距離を置いた感じの愛称がエクレアなんですけど。わざわざ、それを持ち出したと言う事は、今、お兄ちゃんはそう言う立場を演じていると言う事だろうか?
正直、どうしたらいいか全然わからないよ。ど、どうしよう。
でも、確かな事は一つに、今さら態度が急変したら、凄くおかしいのでそのままの態度で進行するのが最適解だろう。
「じゃあ、ここを、倉庫にしても、いい?」
「ええ、最終的な判断をするのはお嬢様ですが。私は良い考えだと思いますよ」
そう言う、お兄ちゃんの顔を見る。その顔に何か他意はない。恐らく、本当に良い考えだと思っているのだろう。なら……
「うん、じゃあ、ここは倉庫にしよ」
「ええ、ならば後の細かい事は私にお任せください」
そう言うと、お兄ちゃんがロックとカナルさんの元に歩みより商談を始め出した。
「倉庫の管理費。場所代込みで取り敢えずですが点一と言った所でどうですか? お二人はお嬢様と知らない仲ではないらしいですから、これぐらいで取り敢えず契約としましょうか?」
「お、おう。それで良いならこっちは構わねぇぜ。俺達は最悪一割まで出す気でいたんだが、そっちがそれでいいなら大いに助かるぜ」
ええと、点一と言うことは0.1%って意味だと思うから多分出た利益の0.1%が私達のポッケに入ると言う事だろう。相場が全くわからないからなんとも言えないが一割が10%だから、そこを0.1%で良いって言うのは破格の契約なのではないか? そこん所、どう言う事なの?
そんな考えを巡らしている所に端を発したのはロックだった。
「いや、待ってくれ。やっぱり、納得いかねぇな。本当に点一で良いのか? アンタを疑う訳じゃないが何が狙いだ?」
いや、まあ、そうなるよね。明らかに倍率がおかしいもん。私も疑問の顔をお兄ちゃんに向ける。
「いえ、私達はこの大陸に来てから日が浅いものですからね。この大陸の方々と広く交流が持てる事。それは金以上に重要な事なんですよ」
それっぽい事を言ってはいるが、バチコリウソっぱちじゃないか!! なんだその設定は!? 風呂敷を広げるにしても、その内容は少し教えてよ!! 話を合わせるコッチ身にもなってよ!
「いや、もしそうだとしても点一は流石に納得しかねるね」
ロックさんが明らかに警戒心を露にしている。ぶっちゃけ、私も警戒心を露にしている。何を考えてるんだろうお兄ちゃんは……
頭おかしくなっちゃったかな?
「もちろん、それだけではありません。貴方の貿易船の旅にお嬢様を連れて行って貰いたいんです」
はぇあ!?
本当に頭がおかしくなってしまったんじゃないか!?
誤字報告ありがとうございます!!
本当に助かっております!!




