第34話 思惑
クロード兄ちゃんの腕が最後の一人の胸を貫く。そして、その腕をゆっくりと引き抜いた。胸を貫かれた男は声とも咳ともつかない様な声を漏らしながら甲板に頭から力無く倒れ込んだ。
「これで最後ですかね」
「おう、そうみたいだぜ」
「うん、終わり」
総勢、二十人と少しと言った所だろうか。その全てを葬り去った。見事なまでに酷い惨状。結果としてみれば一方的な虐殺でしかない。
「クレアさん。本当にいいのですか?」
不意にクロード兄ちゃんが私に話し掛けて来た。なんの話をしているのか、見当は着く。だけど、自分から話すのはいまいち気が乗らない。
取り敢えず、とぼけておくか……
「何が?」
「ミィさんの事ですよ。故意に私達のやってる事を見せて、我々の世界から遠ざけるつもりなのでしょう?」
全部、お見通しか。流石は我が一家の長男だ。
私は、ミィちゃんには表の世界で生きて貰いたいと思ってる。最終的な判断は本人に任せるつもりではいる。
だけど、この惨状を見て、まだ私達といたいなんて思わないだろう。
そう、それでいいんだ。
そう思いながら、足元に転がった死体を掴み船の淵まで歩み、それを夜の海へと放り投げる。
そして、私は海岸でこちらを見ているミィちゃんを睨み付ける。ミィちゃんは恐怖の表情と共に、こちらを真っ直ぐと見ている。
と言うより、恐怖で目を離せないでいると言った方が正しいだろう。
そう、それでいい。
ミィちゃんの考えは間違ってない。
この世界は怖いぞ、恐ろしくて怖くて痛くて辛い。ミィちゃんはこんな世界に居るべきではない。私達と一緒に居るべきではないんだ。一緒に居ちゃいけないんだ……
「これでいい……」
私の呟いた言葉が聞こえたのか。クロード兄ちゃんが諭すようにして、私の背に向かって言葉を投げ掛けて来た。
「果たして、そうでしょうか。クレアさん、貴方はこの世界に留まった、それは決して強制された事ではありません。ならば、それは何故ですか?」
それは生きる為。
いや、それは世間に対しての免罪符でしかない。ただ居心地が良かったんだ。親父やクロード兄ちゃんやアイラ姉ちゃんが家族として私を向かえ入れてくれて。それが、ただただ嬉しくて心強かったんだ。
身寄りの無い私に取って、それは何よりも大切で、何よりも欲していた絆だったから。だから、私はこの世界に残った。
親父も一人で暮らせる様になったら、好きにすればいい。どこに出ていってくれても構わないと言ってくれた。
でも、私は残った。
表の世界より、家族が大事だったから。好きだったから。居心地が良かったから。ここが自分の居場所だと思ったから。
「ミィさん。彼女も貴方と同じかもしれませんよ」
別にそれならそれでいい。
最後に決めるのは、あの娘だ。
あの娘が自分自身で決めて、自分自身の人生を歩めばいい。それがどんな答えであれ、私はあの娘の判断を尊重する。
それがどんなに短い間でも家族として接して来た、私の出来るせめてもの愛情の形だから。




