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幻影を纏う刃  作者: ふたばみつき
華族編
37/75

第32話 ひとりでできるもん

「お姉ちゃん出来たよ!」

「うん。よくできてるね!」


 そう言いますと私はミィちゃんの頭を一度だけ撫でてあげましたわ。見ると、ミィちゃんは撫でられているのが堪らないと言う様な恍惚の表示を浮かべてこちらを見つめている。そして、その撫で付ける手が離れて行くと、それを名残惜しそうに眺めながら、向こう側にいる私を上目遣いで見つめてくるのでした。

 まったく、こう言う態度をされると本当に一日中撫でてあげたくなっちゃう。


 でも、それは駄目だ、色々な意味で為にならない。

 私にもミィちゃんにも……


「よし! 次は傷薬。作ろう」

「うん、やる!!」


 今現在、私達は奴隷商人達から掻っ払った屋敷を拠点としてちょっとした薬師として活動している。そう、私はこう見えても薬師として活動してた事があるんです。

 まあ、暗殺の際に身分を隠す為に薬師って言ったりするからだけだどね。それに毒の調合だの実験だのも何回も繰り返して来たから最低限以上の知識もある。むしろ、そんじょそこらの薬師よりは腕利きのつもりではいる。

 て言う訳で、薬師と言うのは私にとって持って来いの隠れ蓑なんです。


 まあ、店構え事態も裏路地の細道を縫って進んだ、その先。そこに隠れる様に構えているので、客の入りはハナクソ以下だけども結構評判は良いみたいでちょくちょくお客さんはやってくる。一体、どこからここの情報を手入れて来るのだろう。


 ああ、そうそう。具体的に客の入りを言うなら一日に二、三人くらい。とても、薬師として生計は立てられないけど別にそれでいい。ぶっちゃけ、客は来なくていい。て言うか、接客が大変だし、緊張するから来ないで欲しい。


 居心地の良い拠点と、入り江洞窟に続く地下道。それだけあれば私には十分なのです。金は元々貯金していた金とカジノからブン取った金で生活には一生困らないらしいから心配は無いらしい。


 因みに今いる場所は入り江洞窟に続く地下道の途中にある小部屋で。現在はそれを改装して実験部屋として活用している。恐らく、以前は商品を一度置いておく場所だったのだろう。


 今は私の製薬の機材が並べられている。


「おやおや、クレアさんにミィさん。勉強熱心ですね」

「あ! クロにぃ!!」


 そんな、実験中の私達の背後にいつの間にかにクロード兄ちゃんが立っていた。一体、いつの間に背後に立っていたんですか。気配を消して近付くの辞めてもらっていいですか……


 まあ、実はと言うと、私は前回の一件で兄ちゃんに、こってりと怒られた。「そう言う、危険な事は私に任せてください。最低でも事前に教えて下さい」とやんわりとではあるが、こってりと絞られた。

 そして、現在も気配を消して背後に立つ。と言う絶賛まだ怒ってますよ、当分は目を話しませんよ。と言う無言の圧力が続いている。


 まあ、兄ちゃんからすれば一番戦闘力の無い私が無茶するのは見過ごせないんだろう。仕方ない判断だ。それに私、弱いし。


 とまあ、そんなこんなで当分私は外出禁止と言われてしまい。当分は薬師として活動する事になりました。それのついでと言っては何なんだだけど、ミィちゃんに薬師としてのい・ろ・は・すを叩き込んでいるのですよ。


 正直、ミィちゃんをこちらの世界に誘うつもりもない。数ヵ月もすればロックが向かえに来るって言ってし、その時にミィちゃんとお別れしてしまえばいい。

 まあ、最終的な判断はミィちゃんに任せるけど、数ヵ月も一緒にいれば私達の実態もわかるはずだし。そうなったら、私達と一緒にいたいなんて夢にも思わないはず。


 そう、きっと私の事なんか嫌いになってしまうはずだ……

 きっと、このふわふわの髪の毛を撫でる事が出来るのも、この数ヵ月だけの話だろう……


「お姉ちゃん!! 傷薬の材料はこれでいい?」


 そう言うとミィちゃんは、実験台の上に傷薬の材料となる物を並べている。


 うん、よしよし。

 間違いはないみたいね。

 

 少しの間だけでも触れ合っていればわかる。この娘はとっても頭がいい。それに素直で好奇心旺盛で勉強熱心だ。最低限の薬の知識を教えてあげれば社会に出ても生きていけるはず。


「うん、偉い。よく勉強したね」

「うん!!」


 大丈夫、この娘は生きて行ける。

 私の力がなくてもやって行ける。


 なら、私がこの娘の人生に介入するのはデメリットでしかない。やはり、後腐れなく別れるべきだ。

 その時、自然と自分の手が彼女の頭へと向かっていたのに気がつきその手を止める。

 果たして、この手で彼女を触っていいのだろうか。そう言った考えが不意に脳裏に過る。この血で汚れた手で……


 しかし、そんな私の考えを打ち砕く様に彼女は自分の方から私の手の中に向かい、その柔らかい髪を押し当てて見せた。 


 その愛くるしさに、思わず頬が綻んでしまう。


「頭、ナデナデして♪」

「……うん。わかった」


 ほんの少しの間だけ。

 そう、ほんの少しの間だけだけど、よろしくね。

 

 この優しい感触を私は忘れないよ。

 絶対に忘れないからね。

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