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幻影を纏う刃  作者: ふたばみつき
拠点探し編
36/75

第31話 海の王子様

 大海原を一隻の船が浮かぶ。空には丸く輝く太陽登り、その船をさんさんと照らしている。そして、船が進む大海原の空は白い入道雲が飾る。

 悠然と大海原を進む船の周りには、海鳥にも似た鳥が船の回りを飛び回ってる。やがて、その中の一匹の鳥がその船に止まった。


 船の舵輪を握る一人の男がその海鳥を見て少し微笑んで見せた。すると男は船員達とおぼしき物達に視線を移しながら大きく息を吸う。そして、今しがた吸い込んだ空気を一斉に吐き出すかの様な勢いで大きな声を挙げ、船員達に呼び掛けた。


「いやはや、良い天気だなぁ!! なぁ、お前らもそう思わねぇか!?」


 そう大声で言い放ったのは先日、クレアと共に大立回りを演じたロックだった。

 しかし、そんな彼の全力の問い掛けに答える者はいなかった。全員が、ただ黙々と船を進める為の作業に邁進している。


「ったく。これじゃあ、俺がお前らを奴隷にして働かせてるみたいじゃなねぇかよ。これを見られたらと思うと、アイツに会わせる顔がねぇぜ……」

「まあまあ、ロックさん。全員が私や貴方、或いはあの小さい亜人の娘の様に物事を切り替えられる訳じゃありませんよ……」


 そう、言いながら彼の元へと歩み寄って来たのは一人の竜人だった。


 その外見を一言で表すなら、二メートルを裕に越える身長の二足歩行のトカゲだ。しかし、その立ち振舞いには間違いなく深い知性と気品と言える物が感じられる。

 彼が話し掛けて来たのを見てロックは少し胸を撫で下ろし。苦笑いを浮かべながら呟いて見せた。


「カナルか。いや、アンタが居てくれて助かったよ。俺一人じゃ到底、コイツ等をまとめられなかったぜ」

「まあ、彼等からしたら御主人様が変わっただけ。それとなんら変わりませんからな」


 そう言うと、カナルと呼ばれた竜人が顎らしき所に手を当て、複雑な表情を浮かべた。そして、それを横目で見ていたロックが溜め息を吐き言葉を続けた。


「まあ、そうだけどよ。ちっとばかしは信じても欲しいぜ」

「ははは。まあ、無理もありませんな。そこら辺は少しずつ信頼関係を築いて行けば良いでしょう。時間は幾らでも有りますしね」


 するとロックは「だな」と一言呟いてみせた。それを見たカナルが空を見上げ太陽を眩しそうに眺め、不意に言葉を吐いた。


「私には貴方が太陽に見えます。そして、彼女が……」

「クレアが月か? そりゃ、ピッタリじゃねぇか?」


 ロックがおかしそうに笑う。それを見ていたカナルは少しは肩をすくめて呟いた。


「大陸一の強国と呼ばれるレイム・ロックの王子。自ら戦場で先陣を切りレイム・ロックを勝利へと導き、大陸一の強国へと導いた男。私は一度、戦場でその姿を見た事があります」

「へえ。そりぁ。すげぇや」


 カナルはロックの投げやりな態度を見て再びやれやれと肩をすくめて見せた。しかし、それも仕方なしと言った様子で溜め息を吐いた。


「まあ、とぼけるならそれで構いません。何か理由が有るのでしょう。ですが、一つだけ聞いてもよろしいですかな?」

「まあ、好きにしな。答えるかどうかは別の話だけどな」


 そう言うとロックが伏し目がちな目で海を眺めながら答えた。


「何故、祖国に留まらず旅立ったのですか? 貴方ならば、王座に収まる事など容易かったでしょうに……」

「ははは。もう完全に決めて掛かってんじゃねぇかよ。まあ、いい。なに深い理由なんてありゃしねぇよ。俺は戦う事しか出来無い戦乱の時代の大将だ。太平の世の政治だのには俺みたいな存在は邪魔なだけだ……」


 そう言うとロックは少しは寂しげにではあるが、それでも朗らかに笑いながら答えて見せた。その表情は何処か誇らしげにすら見えた。カナルはロックのその答えを聞いて思わず眉を吊り上げてみせた。


「自分の存在が国の為にならないと。そう思ったから、国を離れたのですか?」

「そんな深い理由なんてないって言ってんだろ? 俺は好きに生きたいだけだ。太平の世の政治だの貴族社会だのそう言うのに全く興味が持てなかったんだよ。あのまま居ても無駄に暴れまわるだけだからな。だから、そうなる前に旅に出ちまったんだよ」


 カナルはその答えに満足したのか、一度だけ呆れた様な笑みを浮かべた。そして、ロックに向かって一度頭を下げて見せた。

 その姿を見たロックが嫌悪感を帯びた様な表情を浮かべながら口を開いた。


「止めてくれ、頭を下げられる様な事は何もしちゃいねぇ」

「ええ、では。私は作務に戻ります」


 そう言うとカナルはそそくさと持ち場へと戻ってしまった。


 そして、その彼の後ろ姿を見ているロックの顔は何処か不満げな表情を帯びていた。


(まったく。いつまで経っても人に頭を下がられるのは慣れないもんだな。戦争の時は全員肩を並べて戦った。頭を下げてる暇なんて無かった。それよりも全員が同じ方向を見て、同じ道を進んでいた。俺はそれが心地良かった)


(だってのに、戦争が終わったらやれどっちが偉いだの、どっちの手柄だのと言い出す始末。挙げ句の果てには肩を並べたはずの戦友も俺に胡麻を擦り出す始末)


(そんなの見たくなかったてのによ。俺達の絆ってのはその程度の物だったのかよ)


 思わず、ロックの口から溜め息が漏れ出した。


(そうだな、そう言う意味では、もう長らく戦友と呼べる様な奴に会えていないな ……いや、そう言えばアイツは間違いなく。あの瞬間、あの場所では戦友だった、間違いなく俺と肩を並べて戦った)


(だが、アイツは女だ。戦友なんて言っちゃならねぇよな。それにしても物好きな女もいたもんだ、俺と肩を並べて、背中を合わせて戦う女がいたとはな……)

 

 その時、不意にロックの表情が緩んだ。 

 そして、その顔には優しい微笑みの表情が現れた。


(そうだな…… 楽しみだな、またアイツに会えるのが)


 不意にロックの頬を潮風が撫でた。

 その風に身を任せたままロックは瞳を閉じた。


「なんだよ、結構良い風が吹いてるじゃねぇか……」

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