第27話 商品
すっかり日は落ち。洞窟の切れ間から見えていた空は夜空に変わり。その夜空には輝かしい星々と月が浮かんでいる。
そんな、神秘的な夜空とは裏腹に甲板は、まさに地獄絵図と化していた。
泡を吹いて倒れた者。首をかっ切られた者。その眉間に何か鋭い針の様な物が刺さった者。皆さん、多種多様な殺され方をしている。
まあ、俺がやったんですがね。
これは我ながら酷い。きっと、俺も良い死に方はしないだろうな。まあ、そんなのこの世界で生きると決めた時から承知している。
そんな事を考えながら、俺は姿を消したまま甲板を降り。船の中へと向かう。
まだ、この船には奴等の生き残りがいるはずだ。
そいつ等には大変申し訳無いがちゃんと死んでもらう。
俺は甲板を降り、辺りをぐるっとを見渡してみた。
成る程ね……
そこにはこの船に乗せられた大事な商品達が鉄格子に入れられて並べられていた。エルフや亜人の女や子供。これまた色々と種類がいらっしゃる。皆さん、一様に不貞腐れた様な表情や諦めの表情を浮かべている。心根しか、この場の空気も淀んでいる様に思える。
まあ、普通はそうなるよな。俺だって、同じ境遇になったらそうなるよ。取り敢えず、辺りの見渡すがここに奴らの生き残りはいないみたいだ。
さて、どうするか?
コイツ等を……
助ける ←
助けない
いや、まあ助けるでしょ。
別に奴隷売買とかを始めたい訳ではないし。
そうと決まればさっさとやってしまうおう。コイツ等を逃がしたら、この船の一味も混乱するはずだ。それに乗じて悪い事してやればいい。
取り敢えず、幻影魔術を解き。その場に姿を見せる。
突如現れた俺の姿を見て、一瞬だが顔を挙げる者もいたが、その殆どが無関心だ。もはや、ヤル気無しだ。果たして彼等は大丈夫なのだろうか? 植物か何かではないのか? 幾ら、不貞腐れてるとは言え、この反応は如何な物だろうか? まあ、いいか。いいのか? まあ、いい。取り敢えず鉄格子の鍵でも開けてやれば勝手に逃げるだろう。もし、それでも逃げないなら勝手にしていればいいさ。
そう言う奴は個人的には大嫌い。
もう知らないと言った感じである。
「お姉ちゃん、誰?」
不意に小さな声が耳に届いた。鈴を鳴らす様な小さく透き通った少女の声。その声のした方向に目をやると。そこには一人の亜人の女の子がいた。
年は五、六才だろうか。とても幼い可愛らしい女の子だ。
少し緑がかった金髪をしており、その髪の毛は肩辺りで無造作に切り揃えられている。そして、顔を飾るのは好奇心の強そうな大きな緑色の瞳。
そして、その顔の横からは垂れた犬の耳の様な物がくっついている。恐らく、犬の亜人だろう。彼女はこちらを見て尻尾をゆらゆらと揺らしている。うん、犬の亜人だろう。
「お姉ちゃんは…… 魔法使い…… 助けに来た…… よ」
そう言って、彼女の入った鉄格子まで行き膝をついてみせる。
「今、出してあげる……」
「本当ッ!? ありがとッ!!」
そう言うと彼女は尻尾をブンブンと振り回しながらニッコリと笑みを浮かべ喜びの感情を露にした。どうやら、この子はまだ感情を失っていないみたいだ。
それに、とっても素直で良い子そうだ。素直に助けてあげたいと、そう思える。
俺はスカートの中から一本の小さいナイフを取り出だす。
スカートの中には夢が一杯なのだ。主に太股辺りに一杯夢を携えてる。そして、その取り出したナイフを鉄格子の鍵穴に無造作に突っ込む。
この時代の鍵はそこまで精密ではない。鍵穴に入るサイズのナイフをズッポシぶっ混んでゴニョゴニョっと斜めにしたり上に押し付けたり下に押し付けながら斜めらしたりすると空いちゃったりする、て言うか空く。
「ほら、空いたよ」
「本当だ!! 凄い!! 魔法みたい!!」
因みに、前世の世界でもこの方法で開く鍵が結構ある。十徳ナイフの小さいハサミに少し細工をすると結構簡単に鍵を開けられてしまう。我ながら、悪戯小僧だった過去世の記憶は色々な所で役に立つな。
まあ、ちゃんといけない事だし。鍵穴が潰れて開かなくなっちゃったりもするから、オススメはしないけど……
「テメェ!! ふざけんじゃねぇぞ!! これ以上好きにさせるか!!」
突然の怒号が俺の耳を貫いた。咄嗟にその方向に目をやる。すると甲板から一人の男が降りて来ている最中だった。
そして、その身体には大層な甲冑を纏っている。
咄嗟にベルトからプッシュダガーを抜き、その甲冑男目掛けて投擲する。投擲したダガーは甲冑の切れ目に目掛けて飛んで行った。しかし、飛んで行ったダガーは何かに阻まれて弾かれてしまった。
「でぃや!! 下には何重にも鎖帷子を着て来たぜ!! これならテメェのナイフも恐くねぇ!! どうだ!!」
どうだって、うわ~ こりゃまいった。
シンプル故に普通に困る。
いつもなら、煙にキョウチクトウの毒とかを混ぜて動けなくなるのを待ってから殺したりするんだが。今、この場所には沢山の人がいるからそれは出来ない。大人ならまず大丈夫だろうけど……
「貴方。名前は?」
私がそう言うと、彼女がこちらを不安そうな瞳で見上げながら呟いた。
「私? 私はミィ……」
「ミィちゃん。可愛い名前。大丈夫。後ろに、隠れてて……」
そう言うとミィちゃんは私の足にしがみついて、不安そうに私と相対している甲冑男を交互に見つめて見せた。
そう、子供は下手したら、中毒症状でそのまま死んでしまうかもしれない。だから、毒は使えない。
一応《華族》の掟で「いかなる場合でも子供は殺すべからず」ってのが有るんだよね。まあ、あと純粋に子供は殺したくないって言うのもある。
さて、そうなるとどうしますかね……
 




