第26話 幻影を纏う刃、再び
月が夜空を照らす訳でも、太陽が空を照らす訳でもなく。空は洞窟の土色の岩肌に包まれている。そして、洞窟の切れ間からは彼方へと消えた太陽の残り火が空を深紅に染め。彼方から迫る闇は月の訪れを示しているように見える。
そんな最中、血飛沫が宙を舞う。
「なっ!?」
「ば、馬鹿な!?」
そんなと喧騒と共にドン・ドミンゴと呼ばれた男が甲板に倒れ込んだ。
彼の喉元からは血が次から次へと流れ。当の本人も驚愕しているのか、その目を白黒させなが傷口を懸命に抑えている。そして、必死に息をしようとしているのか傷口からは血の泡が次々と生み出されては無惨にも次々と弾けている。
これは苦しいぞ。
息をしようにも傷口から次から次ぎへと溢れ出る血液の所為で息はまともに出来ず。かといって、完全に息が出来ない訳でもないが故に中途半端に生きながらえてしまう。かなり苦しい死に方だ。
まあ、俺がやったんですけどね。
「ド、ドン!! テ、テメェ、一体どうやって!?」
どうやって?
それはどうやって、縄を抜けたんだって事かな?
まあ、縄で縛られる前に手の中に忍ばせていたダガーナイフで縄を切っておいただけの事。
もろちん、バレない様に切れ目は自分で握ってロープがほどけない様にしていたけどね。
そして、それを今解いた、ただそれだけの簡単な話。
ぶっちゃけ。結構、最初ら辺で縄は切ってた。
因みに補足するならこのダガーに毒は塗ってない、なんかの間違いで自分の指とか切っちゃったらシャレにならないから。
なので、このドン・ドミンゴとか言う奴も毒で死ぬ事はない。何故なら縄を切ったダガーナイフでコイツの喉を切ったから。
担がれた状態から瞬時に縄をほどいて、転がる様に甲板に降りるついでにサクッと殺ってやりましたわ。我ながら見事な通り魔的犯行である。
ただ、これを皆々様に説明してやりたいのだが。悲しい事に、それだけの語彙力がワイには無いんや。すまへんな。取り敢えず……
「これで、やった……」
そう言って、手に握ったダガーを見せてみる。
多分、これで最低限の意味は伝わるでしょう。
すると甲板にいた者達の視線が俺の手に握られたダガーに集まった。
「テ、テメェ!! よくもドンを!!」
チンピラAが両手を広げながら威勢良くこちらに襲いかかり、こちらに掴み掛かって来た。すると、そのチンピラの腕が俺の身体を掴もうとした瞬間、俺の身体が煙の様に消えてしまったのだ。
あんれまぁ、これはビックリ~!!
まあ、種を明かすと「それは幻影だ」って奴である。
いつ幻影を作ったかと言うと、甲板の奴らにダガーを見せつける時だ。その時にダガーをこれ見よがしに見せる自分の幻影を作り、その隙に俺は《透明人間の術》で姿を消して、甲板をのんびりと歩かせて頂きました。
正直、ここまで来ると後はやりたい放題だ。メタルギア○リッドで例えるとステルス迷彩装備したみたいな状態と差して変わらない。あとは一人一人淡々と始末していけば良いだけの簡単なお仕事。
さあ《幻影を纏う刃》の姿をその目でしっかり焼き付けるがいいさ。
まあ、見る事が出来ればの話だけどな……




