第25話 最高の物件
こりゃ、サイコ~だぜ~!!
いや、キマッて最高だぜ!! みたいな意味ではない。あとタートルトーク的な感じでもない。こりゃ、サイコーに良い物件だぜっ!! て意味での最高だぜである。
路地裏の細い細い道を縫う様に進んだその先で小さめの屋敷が姿を表した。路地裏の隠れ家的、隠れ家。て言うか、隠れ家である。
その屋敷はそれはそれはカビ臭くて、泥臭くて、糞尿が垂れ流しである。人が近づかなそうでもう最高!!
道中でチンピラBが俺のお尻を触ってきたり服とか髪の毛のニオイを嗅いできたりしたのが、自分でもビックリする程、気持ち悪かった。
だがしかし、これならそれだけの嫌悪感を味わった甲斐があると言う物だ。
それに後でちゃんと殺すしね。
覚悟しておけよ、このスケベ野郎。
「へへへ、コイツはとんでもねぇ上物だぜ。それに、今からなら昼の取引にも間に合う!」
「え!? じゃあコイツは直ぐに売り飛ばしちまうんですかい、兄貴!? せっかく、楽しみにしてたのに……」
チンピラBがさぞかし楽しみにしていたのか、残念そうな声色で伝わってくる。安心しろって、後でしっかりと遊んでやるからよ。ちゃんと、あの世まで昇天させてやるぜ。
それにしても、この会話からして俺を売り飛ばすつもりらしいな。奴隷売買とかそんな感じの事をしてるのかな? いけない人達だな。
ブッコロしてちゃうんだから♡
そんな事を思っている間に俺は屋敷の中へと担ぎ込まれ、そのままま奥の部屋へと運び込まれた。
取り敢えず、薄目で回りの様子をバレない様に見渡してみる。
少し薄暗いがシックで大人びた雰囲気の部屋だ。壁には鹿や熊の頭の剥製が掛かっている。かなり儲かっているんだろうな。そして、床にも大きくて赤い高級そうな絨毯が引かれている。すると、チンピラAがおもむろにその赤い絨毯をめくり上げた。
バッ、馬鹿な!! ま、まさか!!
そこには地下へと続く隠し扉があった。なんか…… あの…… 床下収納の蓋みたいな奴。それをチンピラが開き、地下へと飛び降りた。そして、チンピラBも俺を抱えながら地下へと降りた。いやはや、まさか地下付きの物件とはな。
これは、なおさら見逃せない物件だな。
地下は所々に松明が灯されており、一定の明るさを保ってはいるが薄暗く、かなり広く長い様だ。薄目で見る限り地下にも何やら部屋がいくつか有るようだ。倉庫か何かだろうか? それにしても、良い物件ですね!!
そして、担がれたままの状態で地下を歩く事数分。突如、チンピラBが俺のお尻に顔を埋める様にして顔を押し付けて来た。
こいつ、本当、マジで覚えてろよ。ブラッ殺すからな。
その時、不意に潮風が俺の鼻を刺激して来た。
再び、薄目で周りの様子を確かめる。すると、そこには驚きの光景が広がっていた。
洞窟の中なのだろうか? 大きな洞窟の中に入り江広がっているのだ。そして、その目の前の入り江には大きな船が停泊している。こ、これは一体?
恐らく、あの屋敷の地下の道がこの入り江洞窟に繋がっていたのだろう。偉く手の込んだ作りになっている。元々、そう言う作りをしていたのか、後からそう言う作りにしたのかは知らないが、人身売買には持って来いの作りをしている。
「ドン!! ドン、ドミンゴ!! 上物の商品を持ってきやしたぜ!!」
ドン・ドミンゴ。誰だ、ソイツは……
見たことも、聞いたこともない。だが恐らく、ソイツがこの商売を取り仕切っている元締めだろう。ドンって言ってるし。はてさて、一体、ドンはどんな奴だろうかねぇ? なんちゃって!!
「今、小舟を出す。それに乗ってこい!!」
「へい!! わかりやした!!」
とまあ、そんなこんな、なんやかんやで、俺はあっという間に船の上に担ぎ込まれたました。目をつむっているが、ゆらりゆらりと地面が揺れる感覚でそれはわかる。
因みに、俺は船酔いはしないタイプらしい。昔、二日間船に揺られた事があるけど普通に平気だった。むしろ、その後の陸酔いの方が凄かった。え? なんで、そんな事があるかって? まあ、こう言う事が一度や二度じゃないんですよって事。
要は拐われ慣れてます。こんな見た目をしてると、直ぐに売られそうになるし、襲われそうになる。まあ、それだけ上物と言う事でしょう、知らんけど。
「ほう、これは上物だな……」
「へ、へい!!」
ほら、やっぱり。いっつもこんな感じ。アタシは上物らしいですよっと。
その時、何者かの手が俺の頬に触れる。俺は薄目でバレない様に触れて来た者を見る。
撫で付けた白髪に険しい顔つきに深く刻まれたシワ。襟元に何かの動物の毛皮があしらわれた高級そうなコートを纏っている。いやはや、儲かってそうですね~
ただ、残念な事にそれもここまで。
悪い人達は成敗せにゃ。
さあ、月に代わってお仕置きよ☆
まだ夕方だし、洞窟の中だから月は見えないけどね……




