第21話 香り纏う幻影
「へへへ、やっぱりただの幻影じゃねぇか。驚かせやがって。無駄だって言ってんだろ!! 俺の鼻は惑わせやしねぇぜ!!」
そう言うと、ハイエナの鼻がクンクンと動く。そして、不敵で不気味な笑みを浮かべる。
そして、その笑みを見せると同時にその口からは肉食獣特有の牙がぬらりと怪しく光った。
「見つけたぜぇ!! テメェの居場所、見破ったぜぇ!!」
そう叫ぶと筋肉質な腕を振り上げ、その鋭い爪を凄まじい勢いで振り下ろした。
力強く風を切る鈍い音が辺りに響く。
「はずれ。お馬鹿……」
「は、はぁ?」
そう疑問の声を口にした獣人の背中にはナイフがしっかりと根元まで刺さっていた。て言うか、俺が刺したんですけどね。
「え…… な、なんで……」
では、種明かしと行きましょう。
幻影魔術で造り出した霧を消し去る。そして、そこで初めて獣人は自分の浅はかさと愚かさを知る。
「はっ!!」
そして、それと同時に自分の余命があと僅かである事も自覚する。直ぐに獣人は膝を付き。ゆっくりと地面へと倒れ込む。
その獣人の鼻先にクチナシの花が舞い落ちる。
「こ、これは…… クチナシの…… 花か……」
「押し花……」
そう言うと、獣人の視線がこちらを向く。しかし、すでにそれが限界の様で獣人は力無く瞳を閉じようとしている。
これは俺がニオイで居場所を察知するタイプのターゲットを想定して作ったクチナシのポプリだ。
はじめは自分のニオイ消す事を考えたが、そんな事は到底不可能で生きていれば何かしらのニオイが付く。それで考えたのが今回のポプリだ。
ニオイで居場所がバレるなら、自分のニオイをあらかじめ作っておいて、然るべき時に辺りにばらまいて自分がどこにいるかわからなくすれば良いんだと言う戦法だ。木を隠すなら森の中に、と言う奴だ……
まぁ、毎度の事ながら只の騙し討ちなので誉められた物ではない。だが、こう言った戦法は自分の鼻に自信がある奴程、簡単に引っ掛かる。今回はそれの典型だ。
先ず、肉体的に完全に圧倒しているんだから有無を言わさず飛び掛かって来て殺せば良い物。それなのに、わざわざマウントを取る為にひょいひょい出て来て、鼻の自慢をするなんて絵に描いた様なヌケサクだ。
囮にしたポプリだって、冷静に香りを嗅ぎ分ければ、ニオイの元が複数有る事くらいわかったはずなのに、一番近くにある香りに釣られて攻撃するなんて、浅はかにも程がある。
それに獣人程に肉体的な才能に恵まれていたなら、油断さえしてなければ、背後から飛んでくるナイフも避けられた筈なのに……
そんなんだから、なんの取り柄もない俺に殺されるんだ……
「せめて。その花を手向けに。安らかに眠って、下さい……」
そう、これが《香り纏う幻影》からのせめてもの弔いだ。
そして、これが俺のもう一つの戦い方だ。




