第20話 囮
俺は薬草を摘みに雑木林へと足を運ぶ……
フリをしながら追っ手が襲い掛かって来るのを待つ……
…… ……
…… ……
…… ……
しかし、薬草を摘めども摘めども追っ手は襲ってはこない。もしかして、ただのストーカーさんかな?
いや、そんな筈はない。ストーカーにしては殺気がビンビンに伝わって来る。むしろ、気付けよ気付けよ、と言わんばかりである。言うならば、かなり自己主張の激しい視線だ……
全く、仕方がないな……
「出て来て!! 気づいてる!!」
「へへへ、やはり気付いていたか……」
俺が言葉を発すると、待ってましたと言わんばかりの早さで視線の正体が姿をあらわした。
三つあった視線の一つ。
その正体が今、目の前にあらわれなすった。
なるほど、線は少し細いが筋肉質な身体をしている。そして、身体中を斑模様の毛が覆っており。その瞳の周りに黒い隈の様な模様が浮かんでいる。
そして、その口からは肉食獣特有の大きな犬歯がぬらりと怪しく光っている。こいつは……
「ハイエナ、の獣人……」
「ほう、お嬢ちゃん以外と博識じゃなぇか。てっきり知恵遅れかと思ったぜ……」
失礼な、片言しか喋れないからって知恵遅れ認定は失礼過ぎるだろ。まったく、まあいい。
取り敢えず。一旦、冷静になる為にここで獣人の特徴でも復習しておこう。
この世界には獣人と言う種族がいる。
よくアニメとかにいる猫耳尻尾の美少女とかは亜人と言う種族に分類される。
そして。今、目の前にいる獣人は一言で言ってしまうと二足歩行をする獣と言った感じだ。この世界の定義的には獣の姿で二足歩行をし、知識や言語を操るを種族を獣人としているらしい。
そう、俺も思ったが凄く紛らわしいのだ。
人狼は魔獣に分類されるけど、人語と知識を有していたら獣人です、みたいな感じ。カバ定義である。しかし、その反面、性能は一変して見た目通りでとてもわかりやすい。
亜人は人間よりは身体能力が高く、鼻も効く。そして、その特性を一回り極端に獣よりに強力にしたのが獣人だ。身体能力はより高く、鼻もより鋭く敏感に牙も爪も強靭な物を持っている。3000倍である。
しかし、腕が肉球になってしまっていたり。足が逆関節みたいになっていたりで流通する装備が付けられなかったりする。と言ったデメリットも存在する。
ゲームとかで良くある『この装備はこのキャラは付けられない』的な奴。まあ、そんな感じの人達が獣人だったりする。
冷静になって状況を見れば「非戦闘型のひ弱な美少女VSバチバチ戦闘系の肉食系獣人」と言った所だ。多分、なんかの数値とかで換算したらダブルスコア位の差がつく組み合わせと言ってもいいだろう。
こっちが美少女だったからダブルスコアで済んだが、下手したらトリプルスコア位の着がついていてもおかしくない。
とまあ、冗談はさておき。
暗器よろしく。ベルトに忍ばせていたプッシュダガーナイフを引き抜く。
皆さんご存知の通り、ベッチョリ毒を塗ってる奴ですよ。
「へ、そんなオモチャで俺を殺せると思ってんのか?」
「思う……」
たりめーよ、とんでもねぇ毒がベッチョリ塗ってるだからよ。一滴でクジラとかが動けなくなる的な奴。
因みにアタイ自身はこの毒を作る過程で色々と実験した所為か、ギリギリ死ななかったりする。でも、ちゃんと生死の境はさ迷うから解毒薬は常備している。
どう、エライでしょ!?
もはや、エロいと言っても過言ではないでしょ!!
「ふん、お得意の幻影魔術か?」
「む?」
もろちん!! そうだが!?
じゃなかった。勿論、そうだが!? なにか文句あるか!? て言うか、知っとるんか!? 予習復習はバッチリか!? もしや、ワイの負けフラグか!?
「俺はハイエナの獣人だぜ? お前が魔術で姿を消した所でニオイでテメェを見つけりゃいいのさ!! つまり、俺にはテメェの幻影魔術は効かねぇってこった!!」
そう言うと、獣人はさも楽しそうに大声を挙げて笑い出し。嫌らしい笑みを浮かべこちらを睨んで来た。
そして、その歪んだ口元からはぬらりと怪しく牙が光った。
「テメェのニオイはわかりやすいぜぇ。《香り纏う幻影》なんて二つ名もあったな? その名の通り。クチナシみてぇな甘い良い香りがするぜぇ!! こりゃ、たまんねぇな!!」
あら~ そうですか~
ちゃんとキモいですね~
ケダモノさんですね~
まったく、驚かせんなよ。てっきり、とんでもない必勝法でも持参して来たのかと思ったよ。その程度の輩は今まで星の数程相手をして来たからもう沢山だよ。まったく。
「はぁ……」
溜め息混じりにワンピースの胸元に手を突っ込み瓶を取り出し、素早くそれを宙へと投げる。
「な、なにする気だ!?」
自然と視線が宙へと投げられた瓶へと注がれる。空かさず、ベルトに忍ばせてある予備のダガーを抜きそのビンに向かって投擲する。
その刃により、瓶は空中で割れその中身を宙へと振り撒いた。
そして、俺はすぐに幻影魔術を発動させ、辺りに霧を充満させる。これで準備は完了。
今回は《幻影を纏う刃》ではなく。
もう一つの方の二つ名《香りを纏う幻影》の方でお相手しましょう。




