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幻影を纏う刃  作者: ふたばみつき
プロローグ
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プロローグ2 -裏と表が交差する日-

 月明かりが夜空を照らし。満天の星々がその夜空を飾っている。それらに照らされた街並みは、暖かみのある街灯を頼りに、ささやかな賑わいを見せていた。

 レストランの透き通った窓ガラスの向こうからは、綺麗な身なりをした紳士淑女達が、ワイングラスを片手に柔らかい笑顔を向け合っている。


 そして、道行く人々も穏やかな表情で月明かりに照らされた街並みを歩いている。


 手に杖を持つ者。腰に剣を携える者。その胸に紙袋の様な物を大切に抱く者。無造作に片手に持った林檎をかじる者。一様にして様々な人達が道を行き来している。ふと、視線を向けると、その中に少しばかりの集団を築いている者達がいた。


 不意にその一党の中の一人が声を挙げた。


「いや~!! 今日は大漁だったねッ!! 大漁大漁ッ!!」


 一党の中にいた少女が嬉しそうに声を挙げた。


 わんぱくそうに跳ねた金髪のクセッ毛に丈の非常に短いパン。これまた丈の非常に短いノースリーブのシャツからは肩とほっそりとしたくびれとおへそを丸出しにしている。そして、それらの露出の多い格好を一応と言った様子で隠す様にマントを羽織っている。


 そんな少女が嬉しそうに跳び跳ねながら歩く。


 その振る舞いに露出の多い自分の格好を隠そうと言う素振りは全く見えない。恐らく、そのマントはしょうがなく羽織っている、と言った所なのだろうか。何故、しょうがなくなのかは謎だが……


 そんなことより、その手にあるズッシリと硬貨が入った袋を手に持っているのが目についた。


「そうですね。今日は質の良い魔物の素材が沢山取れましたからね」


 そんな彼女を見守る様に大人びた雰囲気を漂わせる青年が喋り出した。

 ほのかに青を帯びた様な白い髪に、自らを魔術師と誇示していると言わんばかりのローブに青い宝石をあしらった柄のステッキを手に持っている。


「あぁ、そう言えばそうだなぁ!! 魔物も中々デッカイのが多かったからなぁ!!」


 そう馬鹿デッカイ声で話し出したのは、毛皮のジャケットに毛皮の腰巻きを纏った、これまたデッカイ男だった。

 そして、その肩にはやはりデッカイ斧を担いでいる。なんかもう、この男は色々とデッカかった。


 見るからに脳筋である。

 多分、脳筋である。

 いや、間違いない、脳筋に違いない。

 お願いだから、脳筋であってくれ。


 そして、それら一連のやり取りを見守っていた。もう一人の青年が朗らかな笑みを浮かべながら口を開いた。


「そうですね。今日は思ったより収入もありましたし。一杯、やって行きましょうか」


 短く大人しめに跳ねた金髪に革の鎧を身に纏っており。その背中には一本の長剣を背負っている。

 その立ち振舞いからして。恐らく、彼がこの一党のリーダーであろう。彼の先程の言葉に反応して、デッカい男が嬉しそうに答えた。


「おうおう!! いいねぇ!! そうこなくっちゃ!! 今夜は宴だぁ!!」

「いいですが。程々にしてくださいね。折角の臨時収入が無くならない程に……」


 魔術師めいた青年とデッカイ男が笑いながら言葉を交わす。そして、その様子を見ていたわんぱくそうな少女は、不意に何かを見つけたのか戸惑いながらも声を漏らした。


「ん、あれ? あれって、もしかして、人?」


 彼女の言葉を聞いた一同が少女を見る。そして、少女が視線を向ける先へと視線を移した。


 建物と建物の狭間。

 狭く細く暗い裏路地へと続く通路。


 街灯の灯りが届くか届かないかと言ったその通路は、薄暗い帳が下りており。その夜の暗さを一層深い物へと変えていた。

 しかし、その通路には間違いなく、何か人影の様な者がおり僅かに動いたのが見えた。


 果たして、そらが事実かどうかは定かではないが、少なくとも彼らの目にはそう見えた。


「人か?」

「人ですかな?」

「酔っぱらいじゃねぇか!?」


 一同が人影の様な物を認識すると各々が自分の考えを口した。しかし、それとほぼ同時に少女はその影の正体を言い当てて見せた。


「違うよ、女の子だ…… 女の子だよ!!」


 その瞬間少女はその路地へと向かって駆け出して行ってしまった。残された者達も、その少女の後を追う様にしてその路地へと駆け出した。


 そして、その場につくと少女は戸惑いながらも声を漏らした。


「……コレって、ヤバくない?」


 駆け寄った彼等の足元には、一人の少女が地べたに横たわって倒れていた。


 少女の脇腹からは赤黒い血が流れ、小さな血溜まりを作っている。更に、その後ろからは、ナメクジでも這ったかの様に血の跡が長々と続いていた。

 その様だけで、少女が出血しながらもこの地べたを這って来たかのがわかる。

 

「おいおいおいぃ!! こいつぁは不味いんじゃねぇかぁ!!」


 そう声を挙げたデッカイ男を他所に、魔術師の様な格好をした青年が少女の元に片膝をつき、首元と手首に手を当てた。


「……い、生きています!! まだ、間に合うかもしれません!! 直ぐに医者と治癒魔術を使える者を読んで来て下さい!!」


 青年が声をあげると直ぐ様、デッカイ男とリーダーと思われる青年が答えた。


「おうよぉ!! なら、俺は医者を呼んでくるぜ!!」

「僕は魔術師を連れて来るよ」


 そう口にすると双方は各々別の方向へと向かって駆け出して行った。


「わ、私は何をすれば良い?」


 少し、遅れて残された少女が不安そうに魔術師の青年に話しかけた。魔術師の青年は一度だけ頷いて口をおもむろに開いた。


「この人の身体を仰向きにしたいので手伝って下さい。いいですか、ゆっくりですよ」

「う、うん。わかった!」


 そう言うと、二人は地面に倒れていた少女をゆっくりと仰向きにさせた。

 その瞬間、なんの偶然か倒れていた少女の顔に月明かりが差し込み。その姿を月明かりの元、露にした。


「わあ、凄い綺麗な娘」

「こ、これは……」


 それを目の当たりにした、二人が思わず感嘆の声を漏らした。


 月の様な白銀の髪。白く染み一つ無い新雪の様な白い肌。

 月明かりに照らされたその美しい姿。それでいて触れれば溶けていなくなってしまいそうな儚く淡いその姿。


 二人はその美しさに思わず息を飲んでしまった。


「ま、まさか、エルフか?」


 そう驚きの声を魔術師の青年が挙げると、少女の頬へと腕をおもむろに伸ばし、耳を覗いた。


 その少女の耳はごく普通の綺麗な耳をしていた。


 それは、彼女がエルフではないと言う事を示している。そして、それと同時に彼女は、そのエルフと見間違える程。いや、それ以上と言っていい神秘性と美しさを兼ね備えている事を示していた。


「ね、ねぇ、この娘。助かりそう?」

「……わかりません。私も治癒魔術でなんとかしてみますが。専門ではないので上手く行くかどうかわかりません。可能性は五分五分と言ったところですね」


 そう言うと魔術師の青年は少女の傷口が有るであろう腹部を覗き、そこに手を当てた。


 すると、緑色の光が青年の身体から滲み出るかの様にして溢れ。その光はやがて身体から青年の手へと集まり。光が青年の手を覆うと、次には地面へと倒れ込む彼女の身体をゆっくりと包み込んだ。

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