第13話 家族の行方
「ああ。やはり、この姿は落ち着く」
執事服を身に纏った兄さんが恍惚の表情を浮かべながら、そう口にした。
その鼻にはこれまた執事が着けていそうな片眼鏡が掛かっている。なんかわからんが、兄さんはこの姿が好きらしい。要はコスプレが趣味なんだ。
コスプレとギルドカードのコレクトが趣味の、ド変態お兄ちゃんなのである。
「しかし、これはいただけない!!」
そして、今まで浮かべていた恍惚の表情を変え。技とらしく頭を抱えて見せ、背中に背負った袋の中身をこちらに見せてきた。
それは折り畳み式のクロスボウだった。
「本来ならば我が愛銃のロカテリーネが私の背に掛けられていたはずなのに。あの騎士さえいなければ、ロカテリーネは失わずに済んだのに、うぅ……」
兄さんはそう言うと一粒の涙を溢した。
こう言う所がちょっと苦手なんだよなぁ、と思う。他はしっかりしたお兄ちゃんなのに…… まあ、ちょっと変態だけど……
あ! そう言えば、気になってたんだ……
「兄。ナンデ、ツカマッタ?」
「ああ、実はですね。少し腕のいい冒険者を殺す依頼を受けましてね。コレクションの為にギルドカードを奪おうと思っていたんですが見つからなくってですね。そのまま、もたついていたら、いつの間にかに騎士団に包囲されてたんですよ」
やっぱりそんな感じか。そんなこったろうと思ったよ……
兄さんが普通に捕まるなんて有り得ないからな……
「いや~ ギルドカードがもっとはやく見つかってれば捕まらずに済んだんですけどね」
「ギルドカード。カワッタ、コレ……」
そう言うと兄さんは驚いた様な顔をして見せた。
俺はそんな顔をしている兄さんに向けて自分のギルドカードを見せてみた。そして、それを見るや否や、兄さんは眉を吊り上げてみせた。
「なんですか? その汚い革っぺらは?」
「私ノ、ギルドカード」
そう言うと、兄さんが眉をハの字にし、とんでもない苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。
これは相当ショックだったらしい。
「それはいただけない!! それはギルドカードでは断じてない!! ギルドカードはもっと洗練されたデザインをしているんですよ!! 契約書を革で包み込み、そこに持ち主の名前と詳しい個人情報!! そして、持ち主の等級に応じた刺繍の変化!! 五等級が糸の刺繍。四等級が銅の糸!! 三等級が銀の糸!! 二等級が金の糸!! 一等級が銀と金、そして白金をあしらわれた美しい刺繍!! それこそがギルドカードと言う物!! そして、そのギルドカードを見る度にターゲットとの蜜月の瞬間を思い出す!! そう、それは……」
あぁ、はいはい、わかりましたよと……
尚もブツブツと呟く変態バカ兄貴を無視して俺は歩き出した。
こんなバカを相手にしてる暇はない。こう言う所さえなければ文句無いのに。
とにかく、今は速く他の家族を助けに行かなければ……
「待ってくださいクレアさん。何処へ行くつもりですか?」
そんな答えのわかりきった質問を投げ掛けてくる兄に俺は呆れた様子で答える。
「カゾク、サガス」
「ですから一体、何処へ? 何か宛でもあるのですかな?」
その言葉に思わず足が止まる。無理もない。宛なんて無い。
冷静に考えれば俺は情報と言う物を全く持っていない。次にどの街に向かえば良いかもさっぱりわからない。
どうすれば良いんだろう……
俺は困った表情を浮かべて兄を見た。すると、兄は薄気味悪い笑顔を浮かべながらこちらを眺めていた。
これは何か考えがある時の表情だ。
「モシカシテ、ナニカ、アル?」
「ええ、少し気になっていた事があるんですよ。確認したいんで少し協力して貰いますよ、クレアさん」
兄はそう言うと、おもむろに歩き始めた。
やはり、頼りになる。
流石、我らが《華族》の長兄だ。




