第12話 ミラン・クローリード
クロード兄さんは今、現在もこちらの存在を認識しておらず。アホ面を浮かべながら欠伸をしている。
なんて、ふてぶてしい姿だろうか。間違いなく牢獄に捕らえられている人間の態度ではない。まあ、仲間なのだから、その肝っ玉に関しては心強い。
俺は牢の周辺に《マジックミラー》を展開し、その風景を投影する。
これで視覚的にはバレないはず……
ただ、音が出るとバレるのでそこは気を付けなければならない。
あとは既に《透明人間の術》に加え、合鍵の隠蔽に使った《ミラー》と現在牢に使った《ミラー》で既に頭がパンパンだ。このままだと頭が壊れちゃう。
取り敢えず《透明人間の術》を解き、牢の前に姿を表す。
これで、少しは頭の方も楽になる……
ふぅ……
「あ……」
コチラの姿を見ると兄さんは驚いた様な表情を作り、声にもならない声を挙げそうになった。直ぐ様、人差し指で唇を押さえて静かにするように兄さんに伝える。
すると、コチラの意図が伝わったらしく、一度頷いて見せた。俺もすぐに鍵で錠を開け、牢を扉を開けた。すると、兄さんがコチラに近づいて来て耳元で囁いた。
(クレアさん。まさか、貴女が助けに来てくれるとは思いませんでしたよ。来てくれるとしたら親父辺りが来てくれるとは思ってましたから……)
(ソトデイロイロアッタヨ。ハヤク、ソトニデヨ)
俺がそう言うと兄さんは同意と言った感じで頷いて見せた。
(ハナレナイデネ……)
(ええ。幻影の範囲から出ない様にですね、わかってますよ……)
ここら辺のやり取りは何度か一緒に仕事をした事もあるので問題なく済む。
そのまま、俺達二人は今来た道を戻り。合鍵も元の位置へと戻し《ミラー》を解除する。これでなんとか脳のメモリーは維持出来る。危うく、壊れちゃう所だったぜ……
よし、あとはここから出るだけだ……
「いや~!! 数ヵ月ぶりの御天道様は眩しいですね~!!」
そう言った兄さんは腰巻き一丁のまま大きく手を広げ力一杯伸びをして見せた。気持ち良さそうだ、羨ましい。俺も男だったらやりたいぜ。とそれは良いとして……
現在、俺達二人は街を出て近くの森林までやって来た。
恐らく、街の途中辺りで牢に残して来た兄さんの幻影は消えて。脱獄は露見しただろうが。ここまで来れば大丈夫だろう。その時、既に遅しって奴である。
「所でクレアさん。外で色々あったとはどう言う事ですか?」
「《黒の刃》ウラギッタ。アジト、オソテキタ」
「なんですって!? 《黒の刃》が我々のアジトを!?」
俺は黙って頷いてみせる。その様に兄さんが驚いた表情を見せた。どうやら牢屋の中まで、この情報は伝わってなかったのか……
「《黒の刃》…… 奴ら、そんな事を…… 許せません!! 必ずこの手で皆殺しに……」
「デモ、ミンナ、ドコイルカ、ワカラナイヨ」
「なんと、状況はそこまで悪いんですか!?」
兄さんに向かって一度頷いて続ける。それを見ていた、兄さんは難しそうな表情を浮かべた。
「アジト。ダレモイナイヨ。ワタシモ、シニカケタネ。ダレモイナイ。オッテモイナイ」
「貴女も死にかけたんですか!?」
一度頷いて、パンティが見えない様にワンピース裾をめくり、脇腹にあるキズを見せてみた。
兄さんはそれを見た瞬間、顔がみるみると赤くなり眉間に深い皺を寄せ、怒りの表情を顕にした。
「絶対に許せませんね。私の可愛い妹を傷物にしてくれた罪。死を持って償って貰いましょうか」
「ウンー、デモ、ヘンヨ……」
そう、変なのだ。
リアナちゃん達と別れてから裏路地や裏通りをウロウロしてたが追っ手の一人も襲って来なかったのだ。これは余りにもおかしい。
《黒の刃》からしたら、俺は生かして置けない存在の一人だ、報復を防ぐ為に絶対に始末しなくてはならない。姿を見たら絶対に襲いかかってるはずだし、血眼になって探しているはずだ。
なのにそんな気配は微塵も無かった。
「それは追っ手がいなかったことですね」
「ソウ……」
兄さんもその違和感を察したらしく、俺の感じている事をズバリと言い当ててくれた。やっぱり、流石はクロード兄さんだ。かなり頭が回るし。裏の世界での経験も豊富だ。ここで仲間に出来たのはかなり心強い。
なんで、ここまで頭が回るのに捕まってたんだ?
「《黒の刃》が《華族》の人間を見過ごすはずがありませんからね。もし、みすみす見過ごす理由があるとすれば《華族》の人間を見過ごさない為に行っている行動が結果としてクレアさんを見逃す事になってしまっている。それしか考えられませんね」
「ドユイミ?」
ヤベェ、どうしよう全くわからない。
兄さんはわかってるみたいだけど、どういう事なんだろうか?
「恐らく、私達の家族の誰かがこの街から出て。逃げおおせてみせたのだと思います。それで《黒の刃》は組織総出でその逃走者に追っ手を差し向けているんだと思います」
なるほど、そういう考えもあるのか、となると……
「《華族》ガ、オワレテル、ナラ、タスケル!!」
「ええ、その通りです」
そんな、悠長な事は言ってられない!!
速く、速く助けに行かなければ!!
「ハ、ハヤク!! タスケル、タスケルヨ!!」
「ええ、ですが。その前に私の服を買わなくては……」
そう言うと兄さんが腰巻き一丁の身体をこちらに見せつけて来た。
……ああ、忘れてた。
確かに先ずは色々と準備をしなければいけないか……




