第10話 幻の様な少女
ほんの少し間、僕のパーティーには一人の少女が加わっていた。
幻の様にどこか儚げで、どこか朧気で。それでいて、触れれば消えてしまいそうな程に可憐な少女。
だけど、不思議とそこには芯の通った力強さを感じた。
翼を失った天使。
月の妖精。
彼女を示すなら、そのんな言葉達がピッタリだろう。
月夜に栄える銀色の長い髪。新雪の様に染み一つ見当たら無い白い肌。アメジストの様な神秘的な虹彩を放つ紫色の瞳。
そして、高貴で美しいその姿とは裏腹に、彼女の纏っていた服はボロボロで何処かの戦場から命からがら逃げて来たかの様な姿をしていた。
言葉も片言で上手く喋れてはいなかった。
それでも、彼女がとても誠実で、その瞳の奥には深い知性。あるいは気品の様な物がある事は手に取る様にわかった。
恐らく、なにかしら事情を抱えているのだろう。
それも僕達に話す事が出来ない様なほどの……
彼女が自分の素性を隠す理由も何となくわかる。
恐らく、僕達が弱い底辺の冒険者だからだ。僕達を自分の抱えている問題に巻き込まないが為に多くを語らなかったのだろう。
それがわかってしまうだけに悔しくて悲しくて。それでいて空しくて堪らない。
言葉だってそうだ。もしかしたら、この国の以外の言葉を僕達が喋れていたら。彼女ともっと意思疏通を計れたかもしれない。
彼女程の人間が片言しか喋れないはずがない。
きっと、この国ではない。どこかの国の出身なのだ。
ギルドカードの手続きの時だって。細かい所はわからなかった様だが、少し説明しただけで手続きは難なく済ませていた。
識字率もそう高くないこの世界で、そこら辺を滞りなくこなせる一般人はそうそういない。
いや、もしかしたら一般人ではないのかもしれない。
今頃、彼女は何をしているのだろうか。
あの後、彼女が仕留めたオークの売却資金を元手に彼女に新しい服を買ってあげたが気に入ってくれただろうか?
似合っていたとは思うが、気に入ってくれれば幸いだ。
もしまた会えたとしたら、彼女は僕達の買ってあげた服を着ていてくれるだろうか。そして、次こそは僕達も彼女の助けになることが出来るだろうか。
正直。今までは、ただのほほんと生きているだけだった。その日を生きて行ければそれで十分と……
それ以上のことは望まなかった。
だけど、今回でそんな考えは大きく変わった。それは皆も同じだろう。
目の前に何か問題を抱えている人がいて、それに手を差し伸べる事が出来ない不甲斐なさを身に染みて味わった。
味わってしまった。
本当に、この数日は物語の様な日々だった。彼女に会った瞬間の衝撃も、共に過ごした日々も、別れの時も……
そして、自らの未熟さも痛いほど味わった……
なんだか彼女のお陰で、自分の生きる目標が定まった様な気がした。
僕は、彼女の様に困っている人や、問題を抱えている人に手を差し伸べられる様な。助けを求められる様な強い人間になりたい。
いや、なるんだ。
次に彼女に会うまでに、彼女が助けを求めてくれる程の凄腕の冒険者になるんだ。
そして、再び物語の続きを始めるんだ。




