第8話 事後処理
「まさか、これを君がやったのか!?」
そう言ったのは、オークの鳴き声を聞いて顔を真っ赤にしてやって来たレックスだった。
遅いよ全く、アンタが早く来てれば。ワザワザ私が危険な目に会わずに済んだのによぉ……
「凄いんだよ、兄貴!! クレアちゃんがミャ~ンんて三人に分身して、それでナイフでグサガサグサってオークを倒しちゃったんだよ!!」
「ナイフでだって!?」
レックスが驚きの声をあげると同時にこちらを見る。
まあ、毒なんですけどね……
それはまあ、言わんとこ……
そんな事を考えているとザルウォーとオルドが遅れてやって来た。そして、その現場の状態を見るや否やザルウォーが声をあげた。
「うひゃ~ こりゃすげぇ!! なんだ、リアナがやったのか!? それとも……」
そう言いながら、ザルウォーがこちらに熱い視線を向ける。その視線を気づきはしたが思わず目を背ける。そんなザルウォーの疑問に答える様にレックスが口を開いた。
「ああ、彼女がやったそうだ……」
「はっはー!! ひー マジか、こいつはぁ、いいやぁ!!」
そう言うとザルウォーが大声を挙げて笑って見せた。その隣にいるオルドは若干引いた顔をしてこちらを見ている。
そら、そうですわな……
そんなこんなで、あーでもないこーでもない、どうやったんだ、あの分身はどうなってたんだ。等と質問攻めにされたが申し訳ないが答えられないのだよ。
企業秘密とかじゃなくて、普通に言語能力がない。
なんなら、皆が何を言ってるか半分以上聞き取れなかった。
「アウ…… アノ…… ウゥ……」
とかしか言えない。我ながら情けない……
そんな、受け答えにもたついていた俺を見守っていたオルドがやがて手を叩きながら口を開いた。
「ほら、クレアさんが困っています。質問は後にして、このオークを解体してしまいましょう」
「うん、それもそうだな」
「おおう!! そうだそうだ!! これはいい素材が取れそうだぜぇ!!」
そう言うと、三人はナイフを片手にテキパキとオークを解体し始めた。
うわ~ やべ~ どうしよ~ 毒使ったから、その肉とか食べられないんだよね~ 焼けば大丈夫かもしれないけど…… て言うかオークの肉とか食べるのかな? どうしよう、言った方がいいかな?
しかし、しばらく様子を見ていると食肉用の肉を解体してる様子とは少し違っていた。頭蓋骨。両腕の骨。両足の骨。背骨。といった感じで分別しその他の部位は無造作に山積みにしている。主に内臓とか皮とか肉とか……
俺がまじまじとそれらをみていると、ザルウォーが語りかけてきた。
「ああ、それは食べらんねぇぞぁ!! 寄生虫とかもいるし、何より臭くて固くてギトギトで溜まったもんじゃねぇぞ!!」
そうザルウォーが骨に付いた肉を削ぎながら声を出した。
やっぱり食べないんだ、よかった。
て言うか……
「カタイッテ。タベタ?」
「はっはー!! 駆け出しの頃に一度だけな!!」
ザルウォーさん。アンタ、ヤバイ奴だな。
ワイルド通り越して馬鹿だろ!! これを食うとか気合い入り過ぎだろ!! て言うか、寄生虫とか大丈夫だったのか!? 変な病気とかになってねぇのか?
完全に引いている様子の俺を横目に、オルドが同じ様に若干引いた様な、それでいて呆れた様な笑みを浮かべながら口を開いた。
「この人は特別身体が頑丈なんで何故か平気でしたけど、普通の人が食べたら変な病気になります」
「ウエェ……」
思わず嗚咽にも似た声を漏らしてしまう。
て言うか、駄目じゃん。そんな物食べちゃあ。
こちらの様子を笑いながら見ていたオルドが、更に情報を付け加えた。
「なのでオークの肉や内臓は全て廃棄して土に返してしまいます。ですが、骨はとても頑丈でナイフや装飾品として加工されるんです。なので結構高値で取引されるんですよ」
「フ~ン」
思わず、溜め息が出る。
もしかして、転生してから初めて真っ当な稼ぎをしたのではないか?
「クレアちゃん!! 見て見て、この骨!! こんなに太くて大きくて長い!! きっと、高値で売れるよ!!」
「本当ダ! 太クテ大キクテ長イッ!!」
太くて大きくて長い……
うん、そうだね。
男の子も女の子も太くて大きくて長いのが好きだからな、きっと高値で売れるよな!!
見ると、男性陣が気まずそうな表情をしていたので、この手の下ネタは万国共通なのだろう。
いや、ここは異世界なので、三千世界共通と言った方が良いだろう(てきとう)。
そんなことを思いながら、私はオークの解体を見守った。




