十八章 下着その2
おじさんのガレージから、学校に戻り、そのまま低速で駐輪場まで走っていくと、その間だけでかなり人目を集める。
そりゃそうだ。
教師の中でもバイクで出勤する人なんていないのに、学生が、しかも随分クラシカルなバイクに乗ってくればいやでも目立つ。
自転車がいっぱい停まってる自転車用駐輪場の隣にある、今日は1台もバイクが停まっていない駐輪場にバイクを停める。いつもなら何台か停まってるし、さっきも停まってたんだけど、多分学生じゃなくて来校者のバイクなのかな。ナンバーがピンクとか白地に緑字のバイクがほとんどだったから。
ヘルメットを2つ持って、そのまま職員室に向かい、神田先生に帰ってきたことを伝えると、そのまま天文部の部室に向かう。
「あ、西住ちゃんおかえり。」
扉を開けると、斉藤がソファに座って待っている。
「ただいま。はいこれヘルメット。」
ヘルメットを手渡しながら、俺もソファに座る。
すると、隣から斉藤が抱き着いてくる。
「えへへ。こうしてると本当に姉妹みたいだね。」
「いや兄妹か姉弟だろ…。」
「いいんだよ!今は西住ちゃんも女の子だし。それにこんなちっちゃいし!」
ちっちゃい言うな…。
斉藤に抱き着かれて撫でまわされてると、音無と右田が戻ってくる。お土産にたこ焼きを持ってきてくれた。
どうやら出店を片付けて来たらしい。今日は平日ってこともあって、お客さんも少ないし何より来る人が少なかったから、早めに切り上げたらしい。なんでも仮名の手伝いをするんだとか。
早めにって、まだ1時とかだぞ…。
2人にもらったたこ焼きを斉藤と食べてると、音無がニヤニヤしながらこっちを見ているのに気付く。
「……なんだよ。」
「いや、眼福だな~って。まさかむさくるしかった天文部で美少女が2人たこ焼きを食べるところをみれるとは……。」
何か妙に感慨深そうに言ってるけど、一応俺男だよ?いやビジュアルは違うかもしれないけど。
「まぁ確かに、こんなへんぴなところに女子が並んでたこ焼き食べてるところを見ることになるとは思わなかったな。」
右田まで…。
っていうか2人とも妙にたこ焼きを推してない?
「さて、そろそろ仮名の奴にももっていってやるか。」
「そうだな。2人とも、俺たちは上にいるから。」
「了解~。」
「いってらっしゃ~い。」
あ、失敗した。
ここで一緒に行けば斉藤にくっつかれずに済んだんじゃ…。
まぁいいや。
女子にくっつかれるってのもなかなか悪いもんじゃない。
音無達が天文台の方に登って行ってから3時間後。
『これにて、第63回霧ヶ峰高校文化祭1日目を、終了します。学生の皆さん、お疲れさまでした!また明日、お会いいたしましょう!』
校内に響き渡る放送と同時に結局ここを出ることなく学園祭1日目が終了した。
なんかどこかで聞いたことのある気がするんだけど、どこだっけ。
「すごい、コミケみたいな終了アナウンスだね。」
あ、それだ。
コミケの終了アナウンスも確かこんな感じだった。
ってか斉藤コミケ知ってるの!?
まぁ俺も行ったことないけど。
天文台に登ると、3人はもう少し作業してから帰るらしいから、そのまま放置して帰る。
「じゃぁ西住ちゃん、行こうか。」
斉藤は、屈託のない笑顔でこっちを向いてくる。
「ああ。行こうか。今更なんだけどさ、男の俺を西住ちゃんって呼んでも違和感ないの?」
「え?西住ちゃんの一人称の俺の方が気になるけど?」
あ、そうですか。
そりゃそうですよね。
幼女の見た目で男言葉でしゃべってるんだから、そりゃ違和感だろうな。
2人で駐輪場に行くと、やっぱりバイクは停まっない。
別に帰りのホームルームがあるわけじゃないから、そのまま直帰してかまわないのだが、まぁ学園祭の後なんてそんなすぐに帰りたくないだろうな。
駐輪場でバイクに跨り、エンジンをかける前にタンデモステップを出してからエンジンをかける。
「乗っていいよ。」
「うん。」
俺がOKを出すと、ゆっくり後ろに乗り込み、タンデモステップに足をかけて後ろに乗る。
「俺の腰にしっかり掴まった方がいいよ。」
「わかった。」
すると、後ろから斉藤が俺の腰に手を回して体を密着させる。
あ、やっぱりちょっと胸あるわ。
「西住ちゃん、胸無いね。」
あ、こいつむかつくかも。
「うるさい。俺は男だから胸何て必要ないんだよ。」
「でも西住ちゃんぐらいの体格なら胸無い方がバランスいいかもね。」
「うるさいなぁ。発進するよ。」
「うん。」
1速に入れてエンジンを吹かしながらクラッチをゆっくり戻していき、半クラで速度が上がって来たタイミングでクラッチを戻し切る。
ゆっくり校内を走り校門まで行くが、やっぱり下校する生徒は少ない。
そのまま校門を出ると、加速していき、ユニクロへ向かう。
「斉藤!何か嫌な予感がするんだけど、どうだろう!」
「西住ちゃん!それ私も思ってた!と言うかなんか忘れてる気がする!」
そう。
俺も何か忘れてる気がするんだよ。
そんなこんなで、案外すぐにユニクロについた。
駐車場の奥にある駐輪場に向かおうと駐車場に入ろうとすると、ロープが張って合って入れない。
あ、俺思い出したわ。
「西住ちゃん!思い出した!今日ユニクロ臨時休業だ!」
店内の清掃かなんかで今日は休みらしい。
前にチラシかなんかで読んだ気がする。
仕方ないから近くの路肩に停めると、後ろから斉藤が話しかけてくる。
「どうする?この辺だと他にしまむらかイオンぐらい?」
確かにその2つだけだと思う。
仕方ない。
しまむらはなんとなく子供服しかなさそうだし、イオンなら小さいサイズの大人向けな下着もあるだろう。そろそろキッズは卒業したい。
もう一度走り出し、今度はイオンに向かう。
この町のイオンは、学校とかから行こうと思うと結構遠いいから、霧ヶ峰高校の学生は行きたがらない。バスを使っても遠いいからだ。
この前10時間以上こいつに乗ってた時から感じてたけど、SRってのは凄い乗りやすいんだな。速度も出しやすいしパワーもある。それに何とも言えないこの走り。個人的に気に入った。
そんなこんなでイオンの駐車場に入り、そのまま駐輪場にバイクを停めると、斉藤が先に降りる。
サイドスタンドを立てると、俺もおりて、斉藤から鞄を受け取る。
「あると良いね。子供用の下着。」
「子供用じゃないもん!」
さすがにあるよな。天下のイオン様。
ここは霧ヶ峰高校のある町に比べると、かなりにぎわっている街だから、イオンもそれだけに大きい。一応隣の市だから違うのは当たり前だけど。
始めて来たイオンに入り、案内掲示板を見ながら婦人物の下着コーナーに行って、店員さんに俺の体に合いそうな下着はあるか聞いたら、子供用の下着コーナーに案内された。
なんでだよ!
なんでなんだよ!
いまならカイジが叫ぶ理由もわかる気がする。いや、藤原竜也か?
まぁそんなのはどうでもいい。
問題は、俺に合うサイズが子供用しかないってのと、後ろで腹筋が限界を迎えそうになってる斉藤だ。
「……斉藤?」
「は、ひゃい!」
笑いをこらえながらも、こっちを向き直る斉藤にまっすぐ向き合うと、改めて身長差に驚く。
あれ?俺と斉藤ってこんな身長差あったっけ。
何か前よりも身長差が開いた気がする。
ふと周りを見ると、売り場の奥の方に身長計が置いてある。
「…斉藤、ちょっと身長測って。」
「え?ああいいよ。」
2人で身長計の所に行き、靴を脱いで身長計に立つ。
「…あれ?西住ちゃん……。」
「ん?どうした?」
「西住ちゃん、140センチ無いよ。」
「え?まじで!?」
ゆっくり身長計から降りてメモリを読むと、137センチを指してる。
おっと!?
これはダメなんじゃないか!?
「う~ん。でも身長は下がることもあるって聞いたことあるから、あり得るんじゃない?」
少し笑うのをこらえながら斉藤がうんちくを垂れる。
「いや笑い事じゃないよ……。」
身長下がるって何!?
しかも3センチ!
さっき斉藤と身長差がある気がしたのはこれが原因か!」
………。
……。
…。
よし。
仕方ないからこのまま行こう。
サイズも1つ下のサイズ買えば問題ないだろうし。
「仕方ないからこの身長に合いそうなやつ探して買うよ。」
「わかった。じゃぁ下着見よっか。」
斉藤に促されるままに下着コーナーに行くが、子供向けだけあってかわいいデザイン多めだ。ユニクロ以上にかわいらしいガラしかない。今どきイチゴパンツなんて履く奴いるのか?
「あ、西住ちゃんこれいいじゃん!イチゴ柄!」
こいつふざけてんのか。
「それ自分で履きたい?」
「だって私に合うサイズないし…。」
「うぅー…。」
「……西住ちゃんその顔かわいいよ?」
「うるさい…。」
これからしまむら行くのも嫌だし、仕方ないからこれを買っていこう。イチゴは嫌だから買わないけど。
そう言えば、ユニクロではヒップハンガーとかいうのが売り切れだったけど、ここにはあるな。
まぁユニクロではレギュラーってやつ買ったから、ここでもその形のやつ買うか。
イオンでは2枚だから、3セット、いや、4セット取ってかごに入れる。なんとなく色は全部違う奴で。
「斉藤ありがとう。会計行こう。」
「うん。」
2人で会計に行って、店員にレジ打ちしてもらう。
「そう言えばさ、音無君が、明日は店番をお願いしたいって言ってたよ。」
「え?店番って言われても、何すればいいか分かんないし。」
「普通にいればいいんじゃない?どうせそこまで人来ないだろうし、右田君もいるし。」
「なんだ。右田いるならいいや。あれ?じゃぁ音無は?」
「なんか仮名君の手伝いらしいよ。音無君の頭でできるのかは知らないけど。」
「できないだろ。計算じゃなくて何かの雑用じゃないか?」
「お客様、こちら5点すべて130サイズでよろしかったですか?」
「あ、はい大丈夫です。」
「ではこちら5点2640円でございます。」
斉藤と話している間に、レジ打ちが終わってたらしく、すぐに支払いをして、商品が入った袋を受け取る。
そのまま駐輪場に向かって、バイクに跨る。
「斉藤、帰りは送るよ。」
「お、ありがとう。」
斉藤が跨ったのを確認すると、1速に入れて走り出し、家の方にむかう。
約束通り、斉藤を家まで送る。
「西住ちゃんありがとうね。」
「いや、俺こそお礼を言いたい。一緒に買い物行ってくれたし。」
「そっか、じゃぁそう言う事にしとくよ。」
「じゃぁね。また明日。」
今度は自分の家に向かって走り出す。
初めて知ったけど、斉藤の家って俺の家から結構近いんだなぁ。
SRのままだけど、もうバイクを変えに行くのも面倒だし、今日はこのまま帰ろう。おじさんにはあとで連絡してくことにする。
家について、駐輪場にバイクを停める。日の光は随分と傾き、もはや夜の趣だ。
「…夜は何食べようかな。」
そんなことを考えながら、自分の部屋に入って荷物を置き、夕食の準備を始める。まぁ1人だし、手軽に食べれるものでも、いや、久しぶりに牛丼が食べたい。牛肉もあるし、作ろう。
鍋やら食材やらを用意して、エプロンをつけると髪を縛る。そのままでは邪魔になるし、まぁ簡単なポニーテール風ってやつだ。
まぁ小難しいことはない。
食材を切って炒める、調味料やら水やらを入れて煮込むだけだ。
煮込み終わり、盛り付けようとしたら、米を炊いてないことに気づく。
まぁいいや。
弱火で放置し、米を炊きにかかる。煮込めば肉も柔らかくなるし。
米が炊けるまで、今日買った下着を出してみる。
あれ?
そう言えばさっき店員さん、5点って言ったか?
俺4セット買ったよな。なんで5点?
その疑問は、袋から買ったものを出して理解した。
かごに入れた覚えのないイチゴパンツが入ってる。
あ、斉藤か。
まぁいいや。
今日は付き合ってくれたし、ちょっとぐらいのいたずらは許すか。
それに、少し気になってたし、このイチゴパンツ。
まぁ履く機会はないだろうけど。
とりあえず買った下着をタンスにしまって、買い物袋をたたんでいると、米が炊ける。
米をほぐして、どんぶりに米をよそい、弱火で煮込んでいた具たちを米の上に乗せると、箸と水の入ったコップをもってちゃぶ台に置く。
「いただきます。」
牛丼をかき込みながら、これまでの日々を思い出す。
気が付けば、食事を用意する量も少ない量で慣れ、今となってはかなり少ない量での目分量もしみついてる。
この牛丼も、男の頃なら間違いなく足りないだろう量だが、女子ならではの、この体格ならではの量だ。今ではこの量も気に入ってる。
夕飯を食べ終わると、エプロンを脱いで台所の引き出しの取っ手に掛けると、風呂場に入ってシャワーを浴びる。
風呂を出ると、洗濯かごにタオルを放り込んで、寝巻に着替えて床に座ると、本棚に置いてあった本を手に取り、読み始める。
『片山 敏彦訳 ハイネ詩集』
何度か読んだ本だけど、まぁ暇つぶしにはちょうどいい。
これは、ハインリヒ・ハイネと言うフランスの詩人の詩集だ。確か18世紀のぐらいの人だったと思うけど、よく覚えていない。
俺はこの詩集の中で、『問い』と言う詩が好きだが、もともと『ハイネ詩集』自体がマイナーなため、俺の友達には共感してくれる人も否定してくれる人もいなかった。
詩集を読んでいると、だんだんと眠気は勝るようになってきたため、灯りを消して布団に入る。
布団に入れば、眠気はさらに強くなり、目を閉じればすぐに睡魔に負ける。
…明日は、音無達の手伝いしなきゃな……。
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昨日はあんなに気持ちよく眠れたのに、今、俺は、硬いマットレスの上で縛られている。
そう。
監禁ってやつだ。
ハイツ&マジックって2期来ないんですかね。
そんなことを考えてる作者、雪村鶴音です。
またもや予告をむしりました。
申し訳ない!
爆睡したんです!
許してください!
昨日教習所で修了検定と仮免学科受けてきて普通に疲れてるんです!
しかも愛車のカブ壊れたから予備車のレッツで行ったら、普段乗り慣れないスクーターってこともあって教習所までの道のりだけで精神擦り切れそうでした。
…カブのメーターケーブル注文して3日経つのに届きません……。
でも、ドラクエ7で大好きなフォズ大神官に会えたからテンションは高めです。
さてどうでもいいことはこれぐらいにして、今回の章楽しんでもらえたでしょうか?
多分楽しめてないですかね(笑)。
でもCV:悠木さんで想像してください。
自分はそれで悶えました。
深夜テンションで。
まぁそれはさておき、前々から、次回は萌えるエピソードをって言ってたんですけど、申し訳ない。次回は最後の言葉から見て取れるように涼ちゃん監禁されちゃいます。
まぁ詳しくはわかりませんが(おい作者だろ!)、次回作をお楽しみに!
ではでは~。




