十二章 面接
図書室で神田先生にバイトの募集要項を受け取った30分後、俺は《モトガールズ》から指定された住所に向かってバイクで向かっていた。
募集要項に書いてあった電話番号に電話したところ、『履歴書はいらないから、すぐに来てほしい。』と言われた為、そのまま学校を出て《モトガールズ》に向かう。かなり焦っている声だった。
指定されていた住所に向かうと、そこは倉庫の様な所で、大きな出入口の隣に、小さなん通用口の様な扉があり、そこの上には《バイク便 モトガールズ》と言う看板が掛かっている。
とりあえず、開いていたを通って、通用口の前にバイクを停め、中に入ってみると、広くない倉庫に、数台の黄色い箱が付いたバイクと、箱が付いていないバイクが停まっていて、他にもいくつか棚が置いてある。そこには工具箱や作業服がかけられているほか、ヘルメットが置いてある。床を見れば、いろんな種類のエンジンオイルやミッションオイルのペール缶が置いてある。
奥の方に事務所みたいな部屋があり、灯りが付いている。
ゆっくりそこに近づき、扉を開けて中に入ると、奥で女性が誰かと電話をしている。
「はい、はい、承知いたしました。では明日、ライダーを向かわせます。では、失礼いたします。」
受話器を置き、パソコンに何かを打ち込んでいる。
「あの、すみません。」
「ん?あなたは?」
パソコンから一度目を離して、すぐに画面に目線を戻す。
「あ、霧ヶ峰高校1年の西住 涼です。今日すぐに来るように言われたんですけど…。」
「あなたが西住さん!?」
打ち込みをやっていた女性が、向かい合わせになっている事務室の机の横を速足でこっちに走り寄ってくる。立ち上がって分かったが、彼女はジーンズに上は黄色いジャケットを着ている。
「初めまして!私は《バイク便 モトガールズ》の代表を務めてる矢代 美緒です!今後ともよろしく!早速で悪いんだけど、配達に行ってほしいの!」
「え!?どこに行けばいいんですか!?」
唐突に言われたから、とっさにOKをしてしまった。
「配達先はこのタブレットで見れるから!あと集荷はここで荷物を受け取って!あ、タブレットの使い方はこうね!あとバイクの鍵!【2】って書かれてるバイクで行って!乗って来たバイクはガレージの中に停めていいから!あ!ジャケット!」
そう言いながら、矢代さんは壁際に置いてあったロッカーの中から黄色いジャケットを1着持ってくる。
「あとはズボンか!」
矢代さんが走り出そうとしたとき、鞄にジャージが入ってるのを思い出す。
「あ!自分ジャージ持ってます!」
そう言いながら、急いでジャージを履いて、鞄を床に放置したまま、事務所を出て、俺が乗って来たバイクをガレージに入れて、ヘルメットをかぶると、【2】と書かれたバイクにまたがりエンジンをかける。エンジンがかかると、すぐにタブレットで集配先を確認して、シフトを握りながら一速に入れてアクセルをふかし、半クラで走り出す。
しばらく走り、もうすぐ集荷先と言った所で、なんで俺普通に走ってるんだ?って思った。
よく考えたら面接に行ったはずなのに、なんでバイクで走ってるんだ?
まぁいいや。
会社に戻ったらさっきの人に聞いてみよう。
集荷先につくと、そこはただの民家だった。
インターホンを押し、社名を言うと、玄関が開く。出て来たのはただのおじさん。
おじさんが手渡してきたのは小包で、なかなかに重い。
料金を受け取り、バイクの後ろについてる箱に小包を入れて、タブレットで行先を見る。
案外遠かった。
隣県の町工場の様だ。
バイクにまたがり、どうやって行こうか迷っていると、バイクのスマホスタンドについていたスマホが鳴る。
とりあえず出てみると、さっきの矢代さんだ。
矢代さん曰く、とりあえず荷物を届けてほしいとのことで、その後に事務所で面接をするとのことだ。それと、バイクにはETC搭載で、カードも入ってるから県外への配達では高速道路を使っていいらしい。
それを聞いて、すぐに高速の入り口に向かい、そのまま高速に乗る。
久しぶりに400㏄のバイクに乗ったけど、高速で他の車に並んで速度を上げられるのは凄いと思った。
何か乗り覚えがあると思ったら、多分教習所のバイクと同じバイクだ。タンクの横にはホンダの翼が書かれていて、400㏄だし、加速の感じとかギア操作の感覚がそっくりだ。
よく見たら、教習所で乗ってたバイクと同じだ。名前が書いてある。
CB400で、ネイキッドってことはスーパーフォアかな。じゃぁ教習車とおんなじだ。サイドプレートに小さく書いてあるが、CB400しか読めない。
そうこうしてたら降りるべき出口が見えてくる。
そう言えば、さっきからマジェスティとホーネットがちょくちょくミラーに見えるけど、気のせいなのかな。2台とも俺と同じ出口から出たけど。
高速を降りて配達先の町工場に向かうが、住宅街ってのはどこでも変わらないな。
町工場につくと、受付に荷物を持っていき、受取書にサインをもらう。
気が付くと、後ろを走っていたマジェスティとホーネットは周りを見渡しても見当たらない。
これで取り敢えず初仕事が終了かな。
そのまままっすぐ会社に戻る。帰り道は来た道をそのまま戻る。
会社につくと、門が開いていて、そのまま乗り込むと、さっきまでいなかったバイクが増えているが、どれも黄色い箱をつけていて、箱をつけていないのは俺のカブとPCXだけだ。
並んで止まっていた黄色い箱が付いてるバイクの横に乗って来たバイクを停めて事務室に入ると、中では矢代さんが誰かと電話している。
「はい。もうすぐ帰ってくると思います。面接はそれからと言う形で…。あ、はい。承知してます。わかりました。では失礼します。」
矢代さんが受話器を置くと、俺の方を向く。
「お、西住さんおかえりなさい。ごめんなさいね。急に行ってもらっちゃって。こっちにどうぞ。」
矢代さんに促されて、奥のソファに案内される。
ソファには、さっき放置してきた俺の鞄が置いてあって、ローテーブルには何枚か書類が置いてある。
「そこ座って~。」
矢代さんに促されるがままにソファに座る。
「さて、霧ヶ峰高校の西住さんだったね。」
「あ、はい。改めまして、霧ヶ峰高校1年の西住涼です。」
「じゃぁ西住さん、最初に、うちの募集要項では中免、正確には普通二輪の免許を持っている事が条件の1つですけど、ちゃんと持ってますよね?」
「じゃなきゃスーパーフォア運転してこなかったですよ。」
そう言いながら財布から免許証を出して差し出す。
「へ~。免許取ってからあんまり時間たってないですね。」
「3ヶ月か4か月くらいですかね。」
「なんで中免を取ろうと思ったの?」
「バイクに乗りたかったからです。今乗ってるカブは昔父が乗ってたもので、小学生の頃、後ろに乗せてもらったときはいつもいつか自分で運転したいと思っていました。」
普通に乗りたいと思ってたから1ヶ月以内に教習を終わらせたし、バイクの乗り方は親父とかおじさんに教えてもらったから、教習所の技能教習はかなりスムーズに終わった。
「じゃぁ、なんでうちに応募したの?この辺なら、霧ヶ峰高校に募集を出すところもおおいでしょ?そんな中で、給料もそこまで高くなくて、事故と隣り合わせのバイク便を選んだの?」
「接客はできる気がしないので。それにバイクに乗るのが好きなので、そこで丁度ここのバイク便を見つけたので応募しました。」
そう言えば、めっちゃ普通に面接してるけど、俺一応男だよ?
あれ?女なのか?
一応免許証とか戸籍とかも女子になってるけど、一応男なんじゃないの?
いやでも女子なのかな。この前記憶がなかったときなんか、完全に女子だったし。
あの時は今思い出してもかなり女子だったな。
「なるほど。じゃぁ最後に、あなたはここでどれくらいの間働けそう?」
あ~どこでも聞かれるよな~。
「そうですね…。取り敢えず、高校生の間は働けると思います。」
まぁ他の仕事をしようにも、服屋とかは嫌だし、コンビニなんかは普通に嫌だ。
つまりは他の所に変える予定はない。
「そうですか…。なるほど…。」
書類を読みながら、矢代さんが悩んでる。
これは何を悩んでるんだろう…。
まぁ採用か不採用を決めるんだろうけど。
「……よし!」
おっと不採用かな。
さすがに身長が足りなかったかな。
「あなた採用!」
……へ?
今採用された?
「おめでとー!!」
矢代さんの採用告知と同時に、後ろから誰かに抱き着かれる。
「菜々美、西住さん驚いてるから。」
「あぁごめんごめん。」
そう言いながら、抱き着いてきた人物は俺から離れる。
振り向くと、俺に抱き着いていた背と胸が大きい女性と、身長はそこまで高くない長髪の女性が立っている。
「紹介するわ。先輩ライダーの松島 菜々美と津島 琴。ほかのライダーからは島コンビって呼ばれてるわ。」
「よっす!松島だよ~。さっきはごめんね~、新しい子って聞いてみてみたらすごいかわいい子でびっくりしちゃって。」
「菜々美はいつもそう。西住さん、初めまして。さっきはあなたのすこし後ろから走ってたけど、気づかなかった?」
菜々美さんは、元気に挨拶をする一方、琴さんは物静かに挨拶をする。
…そう言えば、さっき後ろから来てるバイクが2台いたけど、あれなのかな?
「もしかして、マジェとホーネットですか?」
「お!正解!私がマジェで、琴がホーネット。」
「ボスから、あなたの事を監視するように言われたの。」
「ちょっと!ボスって呼ばないでよ!」
「昔はボスって呼べって言ってたじゃないですか。あ、姐さんの方がいいっすか?」
「その頃のことは忘れろ!」
え?姐さん?極道なの?
「西住さん、気にしないでね!」
「そうそう。単に私たちはもともと走り屋で…。」
「やめろー!!」
矢代さんが菜々美さんにプロレス技を決めていると、琴さんが説明を始める。
「昔、私たち3人と、あと2人のライダーでツーリンググループをやってたんだけど、どちらかと言うと暴走族って言われるものに近いグループで、リーダーの呼び方がボスとか姐さんでね。あ、私はリーダーって読んでたけど。」
「こら琴!勝手にしゃべんな!」
菜々美さんにプロレス技を決めていた矢代さんが、今度は琴さんに襲い掛かろうとするが、するりと逃げて俺の後ろに隠れる。
「……えっと、すいません。取り敢えず入社に際して色々説明をお願いしたいんですけど…。」
「あ、ごめんごめん。そうだったね。」
そう言いながら矢代さんは、机の上に置いてあったファイルから書類を何枚か取り出すと、それを差し出す。
「これとこれとこれ、あとこれね。こっちが……。」
書類の説明を受けると、今書けるものは書いて提出して、家に帰って確認しなきゃいけない給料を振り込む口座番号などの書類はファイルに入れてもらう。
その後は仕事用のガラケーと1枚のカードが渡される。どうやらこのカードをカードリーダーで読み込めばいいらしい。読み込むのは、荷物を受け取りに行く時と、帰って来た時。つまり出来高制らしい。でも出社した時にリーダーで読み込んで、出社している間も給料が出るらしいから、時給プラス出来高給って事らしい。
かなりいい給料になりそうだけど、それだけ儲かってるらしい。
そして、バイクについてるスマホは通常通話用に使用しないで、社用連絡とかはさっき手渡されたガラケーで行うらしい。
「とりあえず、火曜と木曜と金曜、あと日曜出れる?全部夕方から終業まで。あ、終業は10時ね。」
「全部大丈夫です。部活とかは入ってないので。」
今日が日曜だから、次は火曜か。
「了解。じゃぁ火曜に会いましょう。あ、そうだ。腕時計とか持ってる?できればつけてほしいんだけど。」
「持ってますけど、どうしてですか?」
腕時計は1個しかないけど、あの時計は男子の時使ってた時計だから、ベルトが長いんだよな~。時計屋にでも行って変えてもらうか。
「時間厳守ってところもあるから。スマホで見てもいいけど、右手はスロットだし、左手はクラッチ操作があるから、できれば腕時計の方が望ましいんだよね。」
「了解です。」
「じゃぁ、気を付けて。」
矢代さんは、あいさつをすると同時に右手を上げる。
「?」
俺が首をかしげていると、菜々美さんが教えてくれる。
「ハイタッチだよ。うちのルールみたいなもんだ。配達に出る前とか、帰る時とかに手近な人とハイタッチ。まぁルールって言うか儀式みたいなもんだよ。安全を祈る適な奴。」
「なるほど。」
それを聞いてから、改めて矢代さんの手に右手をあてる。
「よし!火曜日にね!今日はリーダー通さなくていいよ。」
「わかりました。ではさようなら。」
事務所を出て、自分のバイクにまたがる。
鍵を回してニュートラルを確認するとキックを蹴ってエンジンをかけてガレージを出る。
外はまだまだ明るい。
これから家に帰って時計屋に行こうかな。
家に帰ると、机においてあった時計をもって近くの時計屋を探す。
近くの時計屋で調べると、1件だけヒットする。
《巡音時計店》。
確かそんな名前のボカロが居た気がする。
とりあえずバイクでそこまで向かう。
5分くらい走ると、すぐに時計屋が見えてくる。こんな近くに時計屋があったんだな。しかも結構古そうだ。店構えはきれいで、ショーケースには何本か時計が飾られていて、茶色い木が多用されているが、窓から見える店の中は、ショーケースが並んではいるが、置いてある本数はそこまで多くなさそうだ。
少し中を観察してから、扉を開けて中に入る。
「いらっしゃいませ。」
扉を開けたときのベルで、奥から20代後半くらいの女性が出てくる。
「すみません、腕時計のベルトを交換してほしいんですけど。」
「あ、はい。オリエントの時計ですね。どちらのベルトになさいますか?」
店員さんに案内されて、ベルトが置いてある売り場に案内される。
「金属の物と、革製の物、他にもレザーやゴム製の物などが御座いますが、どの様なものになさいますか?」
「あ、革かレザーで。できれば、これのベルトの幅を変えずに対応してほしいんですけど。」
「あ、でしたら、今ついているベルトを短くするという手段もありますが、交換なさいますか?」
「じゃぁベルトのカットでお願いします。」
「かしこまりました。ではしばらくお待ちください。」
手渡した時計をもって、店員は奥に去っていく。
そう言えば、ここの店主ってどんな人なんだろう。
店を見回していると、カウンターの内側の壁に、何枚かの証書がかけられていて、左から、《三級技能検定合格証書》《二級技能検定合格証書》《一級技能検定合格証書》と書かれ、その隣には英語で書かれた証書と、その右隣に、英文の証書と同じ紙に日本語で書かれた証書があり、《日本時計師会》と書かれ、証書の真ん中に《公認高級時計師》と書かれている。
何よりも気にとまったのは、その証書すべての名前が、《巡音 鈴》と書かれ、俺の名前と同じことだった。それに、一番右に飾ってあった証書の日付が半年くらい前だ。
「…すみません。」
「はい?」
「オーバーホールをお願いすると、どれくらいかかりますか?」
「そうですね…。今ですとそこまでお時間かかりませんけども、ひと月は頂きたいです。オーバーホールいたしますか?」
「去年オーバーホールしたんですけど、した方がいいですかね。」
「去年なさったのなら、まだ大丈夫だと思いますよ。」
その後、少しの雑談をしながら、待っていると、ベルトが短くなって時計が戻ってくる。料金は1500円だった。
つけてみると、とてもしっくり手になじむ。それに丁度いい長さだ。
「ありがとうございました。」
「あ、こちらをどうぞ。」
女性は、カウンターに入っていた名刺をもって来る。
「次回またこちらにいらした際に、この名刺を持ってきていただければ割引いたします。修理内容によって割引額が異なりますので、割引額はその時にお伝えいたします。」
「わかりました。では失礼します。」
店を出て名刺を見ると、《巡音時計店 店主 巡音鈴》と書かれている。
「……。」
世の中には、若くても優秀な人っているんだな~。
店に飾ってあった証書に書かれてた資格とかがどれくらい凄いものなのかは知らないが、自分もこれからさっきの女性くらい丁寧な仕事をしていきたいと、心底考えた。
今回は書いてる本人的に結構早めにかけたと思ったんですけど、やっぱり1週間ぐらいかかっちゃいました(笑)。
今回の作品は、まぁ涼ちゃんがバイトに受かって、身近にすごい時計技師が居たって内容でしたけど、まぁ時計技師さんは今の所再登場する予定はありません(笑)。だって時計の事は多少しかわかりませんもん(笑)。資格だって、他の資格と同様特級があるのかと思ってたら、時計修理技能士って一級までしかないんだって初めて知りました(笑)。
さて、今回から更新できそうだなってなったら前話のあとがきの一番最後に《―追記―》と言う形で掲載していこうと思ってます。いつ公開されるのかお待ちの方々は、最新話のあとがきをチェックしてみると、更新日が分かるかもしれません。
では、次回は何を書こうかな~。
次回もお楽しみに!
ではでは~。
―追記―
2020/8/11 22:35
一か所文字を入れ忘れた為、加筆いたしました。
―追記―
本日中(8/13)に更新できるように頑張ります。
…あと3分だけど……。
―追記―
2020/8/27 23:50
句読点を間違えて打っているところを見つけましたので、修正しました。
―追記―
2020/9/28 14:36
句読点などの変更や、一部文の修正を行いました。




