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アイアンメイデン

「今日は何にしようか……カレーにしようか……」

 戸棚に並んでいる新鮮な野菜を見ながら長考する。今日は人参が安くなっている。カレーにはピッタリだ。

 うむ、そうだな、カレーにしよう。ちょうどお隣さんにじゃがいもを貰っている。カレーは一人暮らしには最適な料理だ。そのまま朝ごはんにも派遣でき、夜戦の間に美味しくなって帰還してくる。

 こうして僕はカレーに必要な材料や日用品を買い、スーパーを後にした。


 家への帰路の広い交差点に差し掛かる。

 信号が変わると、人が波のように交差点に広がっていく。そして僕もその波の一人だ。

 だが波は反対の岸に着く前に動きを止めた。なぜ動きを止めたのか、それは懐かしくも憎らしい音が聞こえたからだ。それは僕の心を縛り付ける鎖の音だ。その音はビルの電子看板から聞こえてくる。

 慌ててその方向に視線を飛ばす。


 それは……戦場だった。


 けたたましく戦地に響く銃声、共に飛び交う銃弾。


 そこには命知らずが大勢。


 信じられない光景だ。僕が求めている物は、思ったよりもすぐ近くにあったのだ。


 だがそれも人混みとともに通り過ぎていく……


 あれはゲームの宣伝だった。だが戦地が中継されているのではないかと、それほどまでに、僕が見た光景には見覚えがあった。


 背中を預け仲間と戦う光景(すがた)、僕が求めていた物だ。


 あのゲームはファイナルバレットというらしい。ファイナルバレット……最後の銃弾……か。


 僕の頭の中からはカレーの記憶は交差点に落としてきたように消え、かわりに一つの弾丸を拾ってきた。


 これが僕とファイナルバレットの出会いだ。

 出会いによって人生は大きく左右される、いや、人生は出会いでできていると言っても過言ではない。

 両親との出会い、友達との出会い、様々な出会いが重なって、人生となっていく。

 そしてまた、このゲームとの出会いも僕の人生を大きく変える出来事となることを僕はまだ知らない。



 家に帰るとお湯を沸かし、食パンが焼けるのを待ちながら、リビングにあるパソコンをいじりだす。


 ファイナルバレット……半年前に発売したゲーム、電脳世界(VR)初となるファースト(F)パーソン(P)シューティング(S)ゲームで、莫大な人気があるらしい。


 電脳世界(VR)が発売したのは一年前で、その時は大きくニュースになった。


 手で触る感触や、大地を踏みしめる足、料理の匂いや味。


 そこでは全ての願いが叶った。


 それゆえ、現実世界の問題が増えていった。


 それこそ()()()()というやつだ。


 ある者は現実と電脳世界を混同させ、またある者は電脳世界へひきこもってしまった。どこかの国では電脳世界禁止条例があるくらいだ。


 だが、夢があるのも事実で、子供がなりたい職業ランキングではゲーム製作者が一位になっている。皮肉な話だ。


 そんなことを考えながら沸かしたお湯で珈琲を作る。透明な水が茶色に染まっていく。まるで今の日本のようだ。濁っている。まあ、そんなことを考えても現実はどうにもならない。学生時代のディベートのようなもので、変えたくても変えられない。


 一個人の力はそんなものだ。戦争でもそうだ。一人では何も出来ない。まあ、食パンにイチゴジャムを塗ることくらいは出来るが。

「うん、おいしい」















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