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<海に来たれ、海は招く>後編

「亜耶にはこれとかいいんじゃない?」


「ちょ、ちょっと……、奇抜じゃないですかね。地の色が薄いベージュって……、遠目から見たら何も着ていないように見えるのでは……」


 昶が亜耶に勧めた水着はモノキニと呼ばれる前面から見るとワンピースに、背面は背中が大きく空いたビキニのように見えるタイプのもの。

 身体のラインが綺麗に見える効果があって形状としては悪くないのだが――、如何(いかん)せん色のせいで奇抜だ。生地が肌色と似たベージュで、亜耶が言うように遠目から見ると全裸に見えかねない。痴女感待った無しな雰囲気だった。


「あ、それもそうね。それじゃあ、こっちとかどうかな」


「水着といえば水着ですが、用途が泳ぐ向きじゃないかと……」


 次に昶が手に取って亜耶に見せたのは眼帯ビキニである。言わずもがな、トップが四角形の小さな布でできたビキニで、ボトムも履きの浅いタンガ型。よくグラビアアイドルが着ているアレで、ホールド力がほぼ無い実用性に乏しい鑑賞目的の水着だ。

 ここで極小マイクロビキニを選んで来ないのはある種の良心か。そんなことを亜耶は思いながら、「これを機に着せてみたいものを選んでいるな」と内心で吐露した。


 首都ユズリハの領内。海遊びを主商業とした島へ到着した早々に、水着専門店へと足を運んでいた。

 この店は販売している水着の試着が自由にでき、購入後にそのまま水着で海に行ける作りになっている。浜辺の目と鼻の先に建てられた店舗自体が販売コーナーと荷物預り所となる更衣室――、所謂(いわゆる)ロッカールームを併設しているのだ。


 女性用水着を扱うのは店舗の二階。店内は色とりどりでいて様々な形状の水着が飾られており、見ているだけでも気分が華やぐような気がした。

 因みに一階の一角が男性用水着を扱うコーナー――今はヒロが一人でこちらへ足を運んでいる――と、海遊び用品売り場やシャワー設備を有する更衣室があるらしい。

 この手の種類の店舗が多いのが、この島の特徴だった。


「着るだけ着てみてほしいんだけどなあ。――ビアンカちゃんはどう思う?」


「はひっ?!」


 昶からの不意な話題振りで、全く以て構えていなかったビアンカが妙な声を上げた。

 困惑を彩る翡翠の瞳は昶が手にした水着用ハンガーにかかる、布地面積が小さな水着を映す。そこで更に信じがたいと口以上に語る表情を帯びるのだが、これは露出度の高さに物申しているようだ。


*********


 だいたいがビアンカは、水着を着る気はないので興味が無い。あくまでも昶と亜耶が買う際の会計係として、今この場にいるくらいの心つもりだった。

 だので、物珍しげに店内を見回していたが、昶と亜耶の会話は右耳に入った後に左耳から出て行っていた状態。早い話が(ろく)に聞いていなかった。


 だけれど、気の無い返事をするわけにもいかない。どのように返答をすれば失礼が無いだろうか――。さようなことをビアンカは心中で必死に考えつつ、昶の返答を急くような視線に若干の居心地の悪さを感じてしまう。


「えっと……。下着より……、布地が小さいわよね。肌が凄く見えちゃうし、ビックリしちゃったんだけど……」


「そうですよね。これは流石にきわどすぎます」


 ビアンカと亜耶から立て続けに不評を(たまわ)り、昶は渋々と眼帯ビキニの水着ハンガーを棚に戻す。

 黒色の瞳が再び周りを見回して水着を物色し始めるのだが――、逡巡とした混迷を彩っていた。


 兎にも角にも、店内の水着の数が多い。女性用の水着はかように種類があるのかと思うほど、形状から始まって色数も豊富。全てを見ていたら、それだけで一日を費やしてしまいそうな量である。


「うーん。沢山ありすぎて選びきれないわね」


「流行りの色とか形とかがあれば、それに絞るのもいいかも知れませんよ」


「流行り……、と言ってもねえ。何が流行っているのか……」


「――今季は白ベースが流行(トレンド)ね。ワタシが着ているようなのとかが売れ筋だけど、形に関しては好みで選ぶと良いんじゃないかな」


 目移りしていれば、不意と気さくな声を掛けられた。はたと視線を声の(ぬし)に向けると、そこには水着を着用したにこにこ笑顔の女性店員が一人。どうやら昶と亜耶の会話が耳に入り、助け舟を出してくれたようだ。


 かく言う女性店員が身に着けるのはバンドゥビキニで、腰に巻くのは透け感のあるマキシ丈のパレオ。色は白地に光沢のある白糸でボタニカル調の草花柄が織り込まれた上品な作りだ。

 焦げ茶かかった黒髪を一纏めに結って片方の肩へ垂らし、薄紅色のプルメリアを象った髪留めを飾って南国っぽさを演出して様になっている。


「へえ、なるほど。あっちに白い水着が纏まってるのって、流行りだからなのね」


「うんうん。そういうことだから、是非見ていって。――それと奥のコーナーには髪飾りとか履物とかも置いてあるから、そっちも併せて見ていってね」


「ありがとうございます。行ってみますね」


 選びあぐねるなら、流行りに乗ってしまうのも悪くない。なんだったら女子()()が白い水着で揃えるのも、仲が良い感じがして良いだろう。


**********


 モノキニ・タンキニ・ホルターネックビキニ・クロスホルタービキニなどなど。その中でも背面の形が違ったりボトムの形が違ったりと、様々な形状の水着が並べられている。

 だが、これならば先ほどのように目移りしすぎることも無いだろう。なにせ色は白を基調にしたもので統一された一角なのだから。


「ほら。ビアンカちゃんも選ぼう」


「どれが良いか選びづらいなら、似合いそうなものを見繕いますよ」


 手持無沙汰にぼんやりとしたビアンカへ声を掛けると、その肩がビクリと揺れた。翡翠の瞳が「何を言っているのだ」と物語り、昶と亜耶を唖然と見やる。


「あの……、私は、大丈夫だから……。海に入る気も無いし、水着の代金も無駄になっちゃうし……」


「せっかくなので楽しまないと損ですよ。海も綺麗な場所なのだし、ここは満喫しないと」


「そうそう。ビアンカちゃんも亜耶に負けず劣らずで可愛いんだし、可愛い水着で着飾って楽しみましょうよ。せっかくヒロ君も誘ってくれたんだから、羽目を外して楽しんだ方が喜ぶわよ」


「え。いや……、肌を晒すのはちょっと……無理だから……」


「露出の少ない水着もあるから大丈夫だいじょうぶ」


「あまり肌の出ないものを選びましょうか」


「あ、あの……、私、泳いだことも無いし。楽しめないと……」


「「問答無用っ!!」」


 ああ言えばこう言う宜しく。拙く切れ切れに断りを述べていくビアンカだったが、その様子に痺れを切らした昶と亜耶の声が重なった。――や否や、ビアンカの腕が左右から昶と亜耶にがっしりと拘束される。


「えっ?! なになにっ?!」


「色々と着てみれば気も変わるわよ。こっちにいらっしゃいな」


「最初はちょっと抵抗があるでしょうが、試着している内に慣れてきますって」


 悪い顔(いい笑顔)を表情に作った昶と亜耶は、焦るビアンカを引っ張っていく。――向かう先は試着室だ。


「ちょっ、待って待ってっ!!」


 ビアンカは抵抗しようとするが、両脇から「まあまあ」などと楽しそうな(たしな)めが聞こえる。そのままズルズルと連行されるように引かれ、あっという間に試着室の中に連れ込まれてしまった。


***********


 狭い個室の中で身体を隅に寄せて逃げ道を探っていれば、亜耶が退路を塞ぐようにして目の前に立ちはだかり、その間に昶が水着の物色をしだす。なんとも息の合った連係プレイである。

 翡翠の瞳が困惑に泳ぐ最中で金の瞳と視線がぶつかる。すると、亜耶は器量の良い顔立ちで満面の笑みを見せた。


「とりあえず、試着するにあたって服は脱いでおきましょうか。その外套(コート)を着っぱなしも暑いでしょうし」


「き、きき気を遣わなくっても……、あっ! ほんと待ってっ!!」


 亜耶が手を伸ばしてきたため、ビアンカは自身の身を掻き抱いて捩る。しかし、抵抗虚しくも黒い外套(がいとう)のみならず、有無を言わせずに赤い表着まで脱がされてしまう。

 レースの襯衣(しんい)と膝上丈のスパッツという心許ない格好にされてしまい、逃げるに逃げられない状態になり、ビアンカは戸惑って更に縮こまっていく。


「ねえねえ、ビアンカちゃんにはこれとか似合うと思うんだけど。どうかな?」


「あ、いいですね。フリルが可愛くてビアンカさんに合いそうです」


 試着室へ顔を覗かせた昶が手にするのは数着の水着で、水着ハンガーに掛かったままで持ってきているので水着自体の形状がよく分かる。それを目にした瞬間にビアンカの頬が引き攣った。


 先ほど『露出の少ない水着』『あまり肌の出ないもの』と口出されていたにも関わらず、持ち込まれた水着は『少ない』や『出ない』とは何を示すのだと思わせるものばかり。

 確かにフリルで可愛らしいデザインではある。しかし、随分と肩や胸元・背中が開いており、あまつさえ(へそ)が出る上下セットのものまであった。


 露出しているにもほどがある、とビアンカは思いつつ。――もちろんのことながら、これはビアンカから見ての感覚だ。

 恐らく昶と亜耶から見れば、この程度では露出らしい露出といえないのだろう。ここで異世界人との価値観の違いを垣間見てしまった気がする、などとも思う。


 そんなことを引き気味に考えていれば、いよいよ襯衣(しんい)に亜耶の手がかけられてたくし上げられる。「ひゃひっ?!」と意図せず変な声が口をつき、思わず裾を押さえるのだが――、その両の手は昶の手が阻んだ。


「ヒロさんも待たせてしまうでしょうし。手早く色々と着せ替えて遊んで――うぅん、試着してみましょう」


「そうね。あたしと亜耶の水着も決めないとだし。――ところで先ずはこの胸元フリルでワンピースのやつから着せてみたいんだけど」


「いいですね。フリルの裾にスカラップ刺繍がしてあって綺麗で可愛いじゃないですか。その次はそっちのフリルが花みたいに盛ってあるバンドゥタイプのを着せてみたいです」


「おお、お目が高い。これ可愛いし()えるデザインよねえ」


「――というか、ビアンカさんってば着込み過ぎ。これでよく今まで暑くなかったですね」


「あ。下着は可愛いの付けてるのねえ。こっちの世界の下着ってあたしたちの世界のと殆ど変わらないわね」


「ひゃあぁぁぁっ!?」


 やたらとウキウキした会話を取り交わす昶と亜耶の声と、ビアンカの悲鳴じみた声がカーテンの閉められた個室から響く。

 華やかを通り越した賑やか――否、騒々しさで女性店員と店に居合わせた客たちを驚かせつつ、水着の試着会が取り進められていくのだった。


<いきなり次回予告>

眩い太陽も下にある白い砂浜に碧い海原。

水着を身に着けた少女たちは海原の人魚のようでいて――。


亜耶「思っていた以上にヒロさんがにこにこでしたね」

昶「凄いグッジョブ顔だったよね。まあ喜んでくれたなら何よりだわ」

亜耶「その代わりにビアンカさんが死にそうな顔でしたが……」

昶「諦めてとしか言いようがないわ。ほんとに恥ずかしがりなんだねえ」



次回:<海原の人魚と珊瑚礁>

※次話はまた執筆完了次第、更新していきます。

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