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<変態と変人は紙一重?>後編

 昶がすっと息を吸い込む。――と思えば、次には勇ましく声を張った。


「生憎だけど、あんたに従う気は一切無いわっ!」


「私もお断りします。それと、花冠の少女を引き渡すつもりもありません」


「なに……?」


 昶と亜耶が放った拒絶は、イリエの整った眉を跳ねさせる。端正な顔立ちが束の間だけ怪訝に歪み――、彼にとっては予想外な返答だったのだろう。困惑を雄弁に表した。


「ね、ねえ。ふたりに怪我をされても困っちゃうから、やっぱり捕まえちゃった方が……」


「大丈夫だいじょうぶ。()()なら問題無いわ」


「あなたは手出しをせず、動かないで座っていてください」


「ええ……、本当に困るわ……」


 なにもするなと言われ、困窮してしまう。昶と亜耶が被害を受ければ、異世界(ここ)に招いた自分にも責任があるし、ヒロが間違えなく黙っていないはず。憂慮だらけなのだが、聞き入れてもらえない。

 どうしようかと考えて昶と亜耶の背を通り過ぎ、視線を移ろわせてイリエを映す。つい先ほど表情に困惑を彩っていたイリエは、今は不敵な笑みを口端に宿している。


「ふふ。交渉決裂、か。――ならば、致し方あるまい。分かり合えなくて残念だよ」


 勝色の碧い眼差しが冷めた様子で(すが)められ、昶と亜耶、花冠の少女の方へとマスケット銃の銃口が向けられる。まさに一触即発な雰囲気――なのだが、昶と亜耶は動じていない。

 だけれど、その肩が小刻みに揺れていると、花冠の少女は気が付いた。よくよく見ていれば、二人の喉が小さく鳴っている音まで耳につく。どうにも笑うのを必死になって耐えているように見受けられた。


「あー……、ダメだ。気を張って頑張ってみたけど、あたし……、耐えられない」


「ぶふ……っ。いけません、昶。本人は至って真面目ですし……、笑ったら……」


「だって……、だって。なんで格好つけたキメ顔で、銃床を肩に乗っけてんの……。“世界一腕の立つ殺し屋の構え方”じゃん、あれ……っ」


「『ちょろいもんだぜ』……、ですね。ふ、ふふ……」


 昶の言う“世界一腕の立つ殺し屋の構え方”とは、某少女漫画にて、主人公暗殺の目的を持って現れた凄腕スナイパーの銃の構え方だ。

 アサルトライフルの銃床を右肩に乗せて担ぐという、突っ込みどころ満載なスタイルをネタにした“アノスナイパー”なる武器が登場するゲームがあったりする上に、漫画原作者本人すら卑下したネタを披露する始末。

 因みに件の殺し屋が漫画登場時に発した台詞が亜耶の口にした『ちょろいもんだぜ』である。


 そして――、イリエのマスケット銃の構え方が、まさに()()だった。


*******


 イリエの射撃姿勢を見た瞬間に、あれでは当たりはしないと察した。そして、同時に既視感あるスタイルと、それをマスケット銃でやらかすイリエのある種の器用さに呆気に取られた。

 不意と脳裏を掠めたネタと、石火矢銃の構えともいえる姿が笑いツボに入ってしまい、込み上げる笑いが止まらない。


 さような理由で震える昶と亜耶を目にしているものの、嘲笑対象の当のイリエは至って真剣な面持ちだ。これで笑うなというのは無理があった。


「悪く思わないでくれ。恨むのなら、俺の前に立ってしまった不幸な運命を恨むといい」


 笑われているなどと露知らず、イリエは遂に無慈悲な引き金を引く。次いで耳に入ったのは、撃鉄の燧石(フリント)が当り金と火皿を叩く音。そこから一秒ほどの間を開けて、甲高い発砲音が辺りに響き渡った。


 尾を引くように、埠頭へ響いた発砲音が完全に消えた後――。イリエの眉がピクリと動く。


「――今の一発を()()か。侮れない少女(レディ)たちだ、恐れ入るよ」


 ほう――、と感嘆の吐息と共に昶と亜耶に向けられた言葉。まさか(かわ)されるとは思わなかったと、口以上に驚嘆を表情で語る。


「……ふたりとも、いつの間に避けたの?」


「私たち、微動だにしていませんよ。――笑って震えていた以外は……」


「仮にもし避けたとしたら、“紫電”の機体に当たるし。でも、着弾の音はしなかったでしょ」


 そもそも空気抵抗や風の流れに左右されやすい丸弾は、狙った箇所に跳ばないと思っていい。だけれど、イリエは()()()()に昶や亜耶に銃口を向けた上に、“世界一腕の立つ殺し屋の構え方”で撃っているのだ。

 はっきり言って、当たる要素はゼロ。あまつさえ着弾音は何処からも聴こえなかったので、空の彼方に飛んでいったというところだろう。


「しかしながら、悲しいことだ。無駄な抵抗をすればするほど、苦しむというのに」


 本気で(かわ)されたと思っているのか、イリエは哀れみを表情に宿しつつ、右肩に担いでいたマスケット銃を下ろした。

 あまりの脅威の無さに黙って見守っていれば、再びマスケット銃の装填準備に取り掛かる。――もちろん、手際悪くだ。


「ああいうのって、変人っていうのかな」


「変態ともいうでしょうけど。それほど違いは無さそうですよね」


 きっとイリエ本人は、自らの言動が格好いいと思っているのだろう。痛々しい発言と勘違い度合が甚だしい――。

 それを小声で呟き合い、視線を合わせて頷き合う。と思えば、黒と金の二対の瞳は再度イリエを映す。


「……ビット」


 亜耶が小さく囁くと、イリエの足元に小さな魔法陣が浮かんだ。そして、現出したビットが光の軌跡を生み出し、マスケット銃の銃身を遠慮なく弾く。


「うおっ?!」


 不意な攻撃にイリエが吃驚の声を上げ、マスケット銃から思わず手を離す。それでもなお、ビットは追撃の光を放って銃身を幾度か跳ね上げ――、イリエから僅かばかり離れた石畳の上にマスケット銃を落下させた。


「親分っ??!」

「い、いま助けに行きますぜっ!!」


 思わぬ事態に、今まで遠巻きに傍観していた海賊衆が慌てふためき駆け付けようとする――が、それは数回の発砲音と石畳への着弾で阻止される。


 その場で蹈鞴(たたら)を踏んだ海賊たちが“紫電”に目を向けると――。

 オートマチック拳銃を構えた昶と、魔法陣を展開した亜耶が、死刑宣告を言い渡す女王の(ごと)凄然(せいぜん)な眼差しで見下していた。


<いきなり次回予告>

イリエを頭目とした海賊衆を黙らせた昶と亜耶。

粛清を覚悟したイリエに対し、ふたりの少女が言い放った言葉は――。


昶「黙っていられなくて余計なことをしちゃったけど、大丈夫だったかしらねえ」

亜耶「まさか、あのようなことになるとは。夢にも思いませんでした……」



次回:<イリエ衆の海賊>

※次話はまた執筆完了次第、更新していきます。

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