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<変態と変人は紙一重?>前編

 埠頭に居合わせる衆目を気に留めず、“紫電”を片膝が地につく形で駐機させた。

 民衆は“紫電”の周りをガヤガヤと賑わせているが、微妙な距離を取っている。幼気(いたいけ)な少年が目を輝かせて近づいて来るものの、すぐさま母親だと思われる女性に抱えられ連れていかれた。――自分たちにとって危険は無い認識だが、近くに寄るのは怖いという態度だ。まあ、頭部機関砲(60ミリバルカン)を撃ったのもあり、無理もない反応だった。


「――えっと。それじゃあ、ヒロ君とビアンカちゃんが追って来られないようにしたのは、ただ単に事情説明が面倒臭かったから……、なワケ?」


 そんな“紫電”の――、開いた状態のメインハッチ上と、同じ高さに上げられた(てのひら)に昶と亜耶は各々に腰を掛け、上向きな視線の先に花冠の少女を映す。

 話の内容を反芻(はんすう)で問われ、“紫電”の肩に座る花冠の少女は首肯(しゅこう)した。


「あなたはいったい何者なのですか?」


「最初の自己紹介の時にも言ったでしょう? 私は“世界を創り替える者”であり、“花冠の女王”や“黎明の立役者”と呼ばれている存在よ」


「……なにが目的なのでしょう?」


「昶さんと亜耶さんに、この穏やかな世界(じかん)を楽しんでもらいたいって思っただけ。ここにいる()()とは、親睦を深められたかしら? ――それ以外は内緒。質問の時間はお終いよ」


 核心を尋ねれば、間髪入れない返事が来た。途端に昶も亜耶も眉を怪訝に寄せてしまう。


 花冠の少女には、自らが起こした今回の事柄について、真相を語る気は毛頭ないらしい。質問をしてものらりくらりと求める主旨を(かわ)され、知りたい情報が得られないのだ。

 ただ、受け答えをする声の調子から考えるに、花冠の少女が嘘や誤魔化しを口にしている様子もない。もしかすると、昶と亜耶に異世界を楽しんでもらいたいという言葉は、心の底からの本音なのではと思わせるほど。


 そんなことを考えながら黒と金の二対の瞳は、「んー」と喉を鳴らし、両腕を掲げて背筋を伸ばし始めた花冠の少女を見据える。


 その雰囲気は、やはり見知った少女に似ていると思う。――亜麻色の髪に翡翠の瞳をしたビアンカに、である。

 花冠の少女の空間を渡る神出鬼没さから(かん)がえるに、ビアンカと花冠の少女は同一人物ではなかろうか。それも――、違う時間軸(ばしょ)に在る者同士。

 いずれ訪れる未来にて、膨大で強い魔力を自在に操る術を身に着けたビアンカが、この花冠の少女なのでは。そう推測していく。


 だがきっと、それを問うても花冠の少女は答えないはず。またのらりくらりと(かわ)されるのが関の山だろう。



「あ、そうそう。昶さんと亜耶さんの迎えなんだけど。――とりあえず、これを渡しておくわね」


 “紫電”の肩に腰掛けたままの花冠の少女は、不意に何かを投げて寄こした。

 亜耶が咄嗟に腕を差し伸ばして受け取り、渡されたものを確認すると――。次には昶も亜耶もきょとんとした面持ちを浮かす。


「懐中時計?」


 亜耶の(てのひら)の上には、真鍮製のハンターケース型の懐中時計が一つ。男物の重厚感と大きさ、だけれどスズランのような花を象る繊細な彫り物が女物という不整合(チグハグ)さを印象付けた。

 上蓋を開けるために竜頭を押し込むと目に入るのは、アナログ式の文字盤とチクタクと規則正しく時を刻む秒針。時刻は短針が“(6)”を僅かに過ぎた場所を、長針は“(5)”の丁度を指し示している。


「時間が合ってないみたいね」


「ですね。日の高さから考えると、今は午後2時くらいでしょうし」


 そもそも、ローマ数字を使っているのも不思議だし、一日を表わす目安が午前・午後の12時間制なのも不思議なところだ。

 ヒロから聞いた話を思い返すに、時計の技術も“稀人(まれびと)”が持ち込んだというので、その名残なのかも知れない。


「それ、ヒロの懐中時計なの。借りてくるつもりは無かったんだけど、さっきゴタゴタとやった時に手に鎖が絡みついて、そのまま持ってきちゃったのよ」


 これを何故(なにゆえ)に今渡すのだ。そう言いたげに昶と亜耶が視線を向けると、花冠の少女は首を縦に振るう仕草を見せる。


「ヒロに返してあげてほしいんだけど――。それが示す時間を元にして、待ち合わせの日取りを決めるわね」


 そこまで言うと、花冠の少女は「うーん、と……」と喉を鳴らす。“紫電”の肩から投げ出される脚がぷらぷらと揺れ――、と思えば脚を止めて昶と亜耶へ視線を移した。


「――十七の月齢の日にしましょう。その時計の短い針で十三周目の12時を迎える時に、辰巳の場所で()を開けるわ」


「「へ?」」


 急に理解し難い言の葉で綴られ、呆気に取られた昶と亜耶の声が重なった。

 だが、花冠の少女は気にも留めず、「あそこなら魔力の補填もしやすいし」などと自らの言葉に自らで納得している。


「ね、ねえ。“()()()の場所”ってなに? この世界の地名か何かなの?」


「質問の時間は終わりって、さっき言ったんだけど――。辰巳の場所については、ヒロに聞けば分かると思うわ。聴衆の参加は認めるから聞いてみてね」


 答えを求めれば、バッサリと切り返される。安定の飄々(ひょうひょう)さで、まるでナゾナゾでも出題したかのようだ。――因みに答えを求めるのにオーディエンスからヒントを聞くのは可らしい。


**


「これは……、無理に聞き出すのも難しそうね……」


「そうですね。捉えどころが無い上に、強引に聞こうとしても恐らく逃げられます」


 昶と亜耶はぼそぼそと小声で話し合う。


 実力行使という言葉も、一瞬だけ頭を過った。しかし、それで花冠の少女の機嫌を損ねてしまうと、下手をしたら異世界から元の世界へ戻る手段を失いかねない。それに、大人しく捕まってくれるとも思えなかった。


 花冠の少女の(たわむ)れに付き合う――。昶と亜耶には、その選択肢を選ぶしかなかった。


「……“十三周目の12時”というのは、単純に言えば六日と半日。それにプラスして5時間半――。これは現状で時計が6時半を示しているから、針が12時を指すまでの残り分ですね」


「えーっと。ということは、六日目の午後5時半頃……、になるのかな? 実際の時間だと、お昼過ぎくらい? ……ややこしいわね」


 パチンッと音を立てて懐中時計の上蓋を閉じ、亜耶は黙したまま上着のポケットに仕舞い込む。そして、金の瞳が再び花冠の少女を見上げれば、口角が悦を彩る笑みが映った。――どうやら亜耶の考え方で正解だったようだ。


「あくまでも目安にしてくれればいいわ。急ぎ過ぎて何かあっても困っちゃうし。ゆっくりお昼ご飯を食べて食休みをして、それじゃあ行こうかって感じで構わないから」


「そ、そんな緩い感じで、いいの?」


「私は()()()()に慣れているし、私には時間の流れは有って無いようなものだから。――できれば、昶さんと亜耶さんにはギリギリまで、この世界を満喫してもらいたい」


 ヒロの作ってくれるご飯は美味しいしね、と。花冠で目元は見えないが、きっと満面の笑みだろう口元で綴られ、毒気を抜かれてしまう。その邪気の無さに、「まあ、いいか」という思いすら湧き上がる。


 昶と亜耶は顔を見合わせ、頷きあって互いの思惟を確認する。

 この際、元の世界に帰してくれる気があるのなら、それで(よし)としよう。これ以上の追及も無駄だと確信した。ここは一つ、花冠の少女の戯れ(あそび)に乗るのが正解だ――。

 そんな思いの、目と目で語る取り交わしだった。


 昶の口からフッと浅い息が吐き出される。黒髪に手を押し当てて一頻り掻いた後に、黒い瞳が花冠の少女を見やる。


「それじゃあ、“()()()の場所”については、大人しくヒロ君に聞くわ。六日後のお昼過ぎに――」


 待ち合わせ予定の追認を口出す最中、不意と昶の目端が鋭さを帯びた。


 と思えば、昶は身を僅かに屈め、携えていたホルスターからオートマチック拳銃を取り出し、初弾までの動作を済ます。

 (かたわ)らの亜耶も険しい面持ちで即座に動ける体勢を取り、瞬時に小さな魔法陣を複数展開させていた。


 それは瞬きの合間であった――。


 何事だと思う間もなく、埠頭の騒めき声を押し止める、銃声と思しき発砲音が辺りに鳴り響いた。


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