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私が戻った理由

作者: はなはな

※同じ話の一希視点があります。

※きょうだい間恋愛話が見るのも嫌な方はお避けください。


女の子の一人称って難しいですね……

「俺、彼女ができたんだよー」

「嘘」

「嘘じゃねーし。妄想でも幻でもねーし。そんですっげぇ可愛いし」


 だらしない顔でにやけながら報告してきた一希かずきの言葉に、私は言葉を失った。


 私たち双子のきょうだいは、顔や性格はあんまり似てないけど仲は良い。

 こんな報告を恥ずかしげもなくする程度には。


 夕飯前のキッチンで、私は母さんの手伝いをしていた。

 よっぽど嬉しいんだろう、一希は部活から帰るなり、部屋にも戻らないで開口一番に言ってきた。

 その顔はとても締まりがなくて、情けないくらいに幸せそうだった。

 反射的に嘘と言ってしまった私に、不満そうに反論してくるけど、幸福ゲージの方が明らかに振れていた。


 嘘だ。

 嫌だ。


 何なにー?、なんて能天気な声で加わってきた母さんに、ちょうど良いとさらにノロけ始めた一希を、私はなるべく表情に出さないように睨み続けた。




 私が弟の一希を意識し出したのがいつかなんて、覚えてはいない。

 何しろ弟と言っても、ほんの数分違いのことで、生まれる前からずっと一緒にいたのだ。ずっと側にいて、いるのが当たり前で、気が付いたら好きになっていた。いいえ、生まれる前から刷り込まれていたんじゃないのかしら。

 中学生になると、男子女子を意識してグループが分かれていって、一希は部活にも入って私とは接点がなくなっていった。

 仲が悪くなったとかじゃなくて、自然なことだ。

 高校に入ったらそれはもっと顕著になった。小中学生のよく分からない男女の対立とかはなくなったけど、もうそれぞれの人間関係が出来上がって、私たちは別の世界を持ち始めた。持たざるを得なかった。

 私にできたことは、一希に合わせて高校のランクを下げるくらいだった。結局双子は同じクラスにはなれないし、進路別のクラス分けでかなり離れちゃったけど……。


 だからある程度の覚悟はしてたつもりだった。

 いつかこんな日が来て、もう私たちは完全に一緒には戻れなくなるんだって。

 小さい頃はいつでもどこでも二人一緒で、何をするにも一人じゃないから、何も恐くなかった。

 でも。だから。なのに。

 それでもずっと、ずっと見てきた。

 一希以外を好きになるなんて考えられなかった。

 一希が私じゃない子を好きになるなんて、考えたくなかった。


 ――でも、一希は違うんだ。

 一希は、私じゃない。

 私だって、一希じゃない。


 ――――私が一希なら、一希が私なら、……また元に戻れるんだろうか?


 ※※※


 何も本気でそんなこと望んだり、叶うと信じた訳じゃない。

 のに、これは一体何なのかしら。

 朝っぱらから私は混乱していた。


(一希の部屋……一希のベッド……)


 まさか無意識に夜這いに……? なんてバカなことも一瞬考えちゃったけど、そもそも肝心の一希はいなくて、それに、それに――


 確信が欲しくて鏡を探したけど、男の子の部屋にそんなのないのよね。

 仕方なく枕元のスマホで今の自分を映してみた。


(嘘、やっぱり――)


 信じられないけど、そこにいたのは一希の顔をした私だった。

 体を見下ろしても、昨夜までの女の子のじゃなくて、がっしりした男の子の体だ。何か恥ずかしい。

 一希の体、なんだよね?


 と、ここで気が付いた。

 私が一希になってるなら、私の体は?

 考えるより先に、私は部屋を飛び出し、隣の私の部屋へ向かっていた。


「!!」


 いざ入ろうとしたら、慌てた様子で扉が開かれた。思わずビクッとしたけど、目の前の光景の方がもっと驚いた。

 そっか、そうよね、あなたもそうなるわよね。


「私……」

「俺だ……」


 見慣れた自分の顔が、驚きで目を丸くしていた。

 きっと私も、同じ顔をしている。



 お互いを確認してから、これからどうしようと話す。

 一希は周りには内緒で(そりゃ言っても信じてもらえないよね)、このまま学校に行こうと言う。

 私は不安を口にする。

 友達の反応が、着替えが、トイレが、なんて、それも心配ないわけじゃない。

 それより、このまま学校に行って日常をスタートさせたら、私の歯止めが効かない――と思った。

 一希がこのまま行こうとするのは、きっとこんな状態が長続きしないと思ってるからだろう。

 でも私は違う。


 こうなったのは、私があんなこと願ったからだったら。

 私は戻ることを願わない。


 自覚が、あったから。

 一希にせがまれて、内心の葛藤があって、結局私は押し切られてしまった。


 ※※※


「ごめん。俺、君とこれ以上付き合えない」


 ほら。


「え……何で……冗談、でしょ?」


 目の前に、絶望で固まる少女がいる。

 放課後、部活に行く前にわざわざ呼び出した。

 付き合いたての彼氏から誘われ、上機嫌でやって来たのに、急降下しちゃったね。

 笑った顔がキュートで男子にも人気の女の子。

 ――しばらく前から、一希と付き合っていた女の子。

 明るい色の猫毛も、小柄で女の子らしい華奢な体型も、感情豊かな表情も、何もかも、光希わたしと違う。私じゃない子。


 訳が分からないと問いかける彼女――友姫ちゃんに、私は首を振って否定する。


「こんな冗談言わないよ」

「嘘! 何で? 私、何か一希君の嫌がることした?」

「いや」


 したよ。

 口では否定しながら、心の中では思いっきりうなずいていた。

 今の一希(わたし)が嫌がること。死ぬほど嫌なこと。

 あなたが一希と、付き合ったこと。

 あなたが一希に愛されたこと。


「じゃあ何で!? 訳を言ってよ!」

「…………」


 嘘を吐くか、少し考えた。やっぱり言えなかった。


「好きな人がいるんだ」

「!!?」


 それ以上、友姫ちゃんの顔が見れなかったので、私はそのまま彼女に背を向けた。


「~~~~~だったら何で付き合ったりしたのよ! バカ!!」


 全部彼女の言う通りだ。彼女は何も悪くない。

 ただ、止められない自分の気持ちが、彼女と一希への罪悪感を踏みにじっていた。

 ああ。


(止まらない)


 他に何も考えられず、私はそのまま部活へ行った。

 一希に知られたらどうしよう、なんて、考える余裕もなかった。


 ※※※


「ただいまー」


 弱小サッカー部とは言っても、今までずっと帰宅部で過ごしてた私にはやっぱり少ししんどい。

 体は一希のものだから、肉体的にはそんなに辛くないんだけどね……。

 今日も今日とて、慣れない部活で疲れて帰ると、間髪入れずに一希が出迎えた。

 ――ただし、物凄く怒って。


「光希!」

「――ただいま、()()


 頭に血が上ってる一希に、水を差すように私は注意した。

 一希はそれで余計にヒートアップしたみたいで、顔を真っ赤にして詰め寄ってきた。

 私は自分の怒ってる顔を客観的には見るって嫌な気分、なんて思ってた。


「お前、友姫ちゃんと別れらしいな」

「――ああ、その事」


 一希の怒りの原因が分かって、私はそんな淡白な反応しか出来なかった。

 けれど内心では心臓が早鐘を打っていた。


 彼女と別れた本当の理由。

 私が嫌だったから。

 一希が他の女の子と付き合うなんて許せなかったから。

 一希には言えないから、彼女に言った。

 ――そんなの、言えるわけない。知られるわけには、いかない。


 ふざけるな、と激高する一希に、まともな言い訳が出来ない。

 そんな勝手な真似していい訳がない、そう、一希あなたの言う通りよ。

 でも。

 私の気持ちは。

 口に出せない想いは。

 ――あなたにも、友姫ちゃんにも解らない……!!


「じゃあ何? 俺に彼女と付き合えって言うの? 好きでも何でもないのに? おかしいだろ?」

「それはッ……」

「それは何? ずっと彼女を騙し続けろって? 光希、は良い趣味してるね。俺にも、彼女に対しても、酷いね」


 ダメ。止めなきゃ。そんなつもりはないのに、一希を責める言葉しか出てこない。

 一希を傷付けたいわけじゃないのに。私の口は、閉じ込めてた想いを怨みに変えるように、酷いことを垂れ流してた。表面上はひどく冷静に。

 それは落ち着いてたわけじゃなくて、単に押し込められてた想いが、勝手に逆恨みしてるだけだった。自分勝手に怒ってるだけだった。


 自分が知らない内に大好きな彼女と別れられて怒ってるのに、私に手酷く責められて、一希は戸惑っていた。ごめん、あなたは何も悪くない。


 一希は思わず、というふうに呟いた。


「お前は……ずっとこのまま戻らないって、思ってるのか……?」

「!!」


 図星、なんだろうか。

 全然違うのに、まるで内心を見透かされたみたいで、私は一希の顔がまともに見られず、慌てて自室へ駆け込んだ。

 すぐに一希も追い掛けてきたけれど、内側から鍵を掛けてしまった。

 しばらくドンドン叩かれていたけど、母さんに注意されて一希も自分の部屋に引っ込んだ。

 私の中で、なぜか急に罪悪感が湧き上がってきた。


 ずっとこのまま、戻らない。


 こうなった原因なんて分からない。

 でも、何となく、私が望んだからじゃないかと思っていた。

 私が一希を望んで、求めて、こんな入れ替わりなんておかしな事が起こった。私が望んだから。

 だったら、きっと戻るのはそれを私がまた望んだ時だろうって、漠然と思っていた。

 だったら――私はそれを願うのか。


 今日まで一週間ほど、私は先の事なんて全く考えなかった。ただただ一希になって、自分の欲望を突き進むことしか考えなかった。

 私は私の望む『一希』を創ってきた。

 それが、私の願いだったから。


 でも一希は違う。そんなの最初から解っていた。でも無視してきた。私は一希の気持ちを無視して、踏み潰して、自分勝手な想いを突き通そうとしていた。

 ……さっきの一希の怒った様子と、最後の苦しそうな、どこか不安そうな顔を見て気付いてしまった。

 たとえ私が上辺だけ一希になっても、私は一希じゃない。一希は私じゃない。結局、何も変わらないし変えられないんだ。

 一希にとって私は双子の姉で、好きな女の子は友姫ちゃん。

 私がほんとに欲しいものは、どうやったって手に入らないんだ……。





 寝られなかった。

 私は私の願いに、どう決着をつけたら良いんだろう?

 私が願ったことは、私が本当に望むものだったのだろうか?

 見ないフリをしてきた一希の心を認めてしまったら、途方に暮れた迷子になってしまった。


 最初は驚き戸惑うだけだった。

 次に、学校へ行くという一歩を踏み出した事で歯止めが利かなくなった。その時は、これは神様がくれたチャンスだとさえ思った。神様が私を後押ししてくれてる、って。

 でも――……


 迷いと後悔が頭をもたげ、どうしても眠れそうになかった。

 衝動的に起き上がり、私はそっと部屋を出た。

 すぐ隣の部屋では、静かに一希が寝入っている。

 極力音を出さないようにドアを開けて、中に忍び入った。


 中は電気が点けっぱなしで、一希は着替えもせず布団も掛けずにベッドで寝ていた。喧嘩別れみたいになって、そのままふて寝しちゃったのかな。

 体は私なのに、やることなすこと一希のままで面白い。見た目は私なのに、一希そのままが見えて、……やっぱり、愛おしいと思う。

 自然に笑みが浮かんで、私は一希を起こさないように出来るだけ静かにゆっくり近付いた。


 しゃがみこんで覗いた寝顔は私のものだけど、私にはやっぱり一希にしか見えなかった。

 「一希」と、小さく名前を呼んでみた。

 横になって顔に掛かる髪を掬い上げた。

 一希にしか見えない顔に、そっと触れた。


 その刹那。


 パチッと、開く筈のない瞳が開き、私を捉えた。

 思わぬことに驚いて、私は手と体を引っ込めた。


「一希……あなた、起きて……」

「えっと……」


 言い淀む一希は、それ以上言葉を繋げなかった。

 でも、起き上がって私を凝視する一希から、すぐに判った。

 一希の驚愕と戸惑いに彩られた表情は、真夜中の闖入者に対する驚きだけじゃない、私の内心も感じ取ってしまったものだ。

 その証拠に、……その顔には、わずかな恐れも見えた。


「…………」


 もう、引き返せない。

 一希に見られてしまった以上、これを見て見ぬふりするなら、今度こそ私は壊れてしまう。

 決心して私はうつむいた顔を引き上げた。


「私、あなたに無断で友姫ちゃんと別れたわ」

「あ、ああ……」


 ギクリとした顔で、一希は何とか相づちを打っていた。この話をしたくないのはバレバレだった。

 でも私は無慈悲に続けた。

 もう駄目なの。


「彼女のことは好きじゃない。付き合うなんて出来ない。それは本当。でも――」

「光希、やめろ」

「あなたに付き合って欲しくなかった。彼女とも、誰とも――私以外」

「っ」


 ぐいっと一希に近付く。

 その分、一希が逃げる。

 逃げる一希を捕まえる。


 捕まえた一希は、顔を青くして怯えていた。

 『女』として、『男』に迫られた怯えじゃなくて――実のきょうだいから告白されようとしてる、怯えだ……。

 それが分かって泣きたくなった。

 でも私の告白はまだ終わっていない。


「一希が友姫ちゃんと付き合うって聞いて絶望したわ。覚えてる? あなた、物凄く幸せそうに報告してきて――あなたが口を開く度に、私はズタズタに傷ついたわ」

「っ……」

「頭では解ってはいたけど、どうしても飲み込むことは出来なかった。ああ、とうとうこの日が来てしまった。一希が私と分かれて、自分の道を進み出した。もう元には戻らないって」

「でも、それはっ」

「そう。当たり前のことよ。でも私の心は止められなかった。死ぬほど嫌だった。だからこんなこと、願ってしまったのかもね」


 くすり、とわらってみた。

 こんなに惨めで情けない自分自身を、嗤うしかなかった。


「光希、やっぱりお前が……」

「さあ、どうかしら? 私だってこんな事になるなんて思いもしなかったし、真実なんて分からない。でも現に私達の入れ替わりなんて事が起きてしまった。だから、神様が私の願いを叶えてくれたんだって思ったわ」


 だって一希の体を手に入れたなら。

 友姫ちゃんと別れられる。他の誰とも付き合わない。そうして一希を。一希と。


 思わずぐいっと掴んだ腕を引っ張って、一希を引き寄せた。

 抱きすくめた『私』の体は、男からしたらとてもか細くて、頼りないものだった。

 このまま一希を自分のものに、したかった。


(過去形)


 腕の中で暴れた一希は体勢を崩してベッドに倒れた。

 一希を抱き締めていた私も、一緒に倒れて一希に覆い被さる形になった。

 私に見下ろされた一希の顔に浮かぶのは――今度こそ明確な恐怖。


 そんな、そんな顔をさせたいわけじゃなかった。

 私が欲しいのは、やっぱりあなたのそんな顔じゃなかった。

 私が欲しいのは――


「そうね。こんなことしても、無駄よね。無理やり襲ってもあなたの心は決して手に入らない。一希の心を無視して手に入るのが、私自身の体だけって馬鹿みたいじゃない?」

「……」


 自分が泣き笑いみたいな顔をしてるのが分かった。

 一希の体から、ふっと力が抜けていた。

 それに後押しされるみたいに、私は言えなかった言葉をやっと口にした。


「一希。私はあなたが好き。女として、ずっとあなたを想っていた。中学に入って、段々一緒にいられなくなっても、ずっと一希を見てた。一希だけを見てた。――一希の真似、うまくできてたでしょう? 私、一希のこと、誰よりも見てきたもの」

「光希……」


 この期に及んで、私の心臓はバクバクしていた。

 好きな人に好きと告げる、ごく普通の事に、私はごく普通に緊張していた。

 たとえ答えが分かりきっていたとしても――。


「光希」


 不意に、一希がはっきりと私の名を呼んだ。

 体の力と一緒に、その顔からは恐怖も抜け落ちて、さっきの私と同じ種類の決意が見て取れた。


「俺はお前の気持ちに応えられない」

「――きょうだいだから?」


 思った以上にきっぱり拒絶され、反射的に訊いていた。

 きょうだいじゃなければ、血が繋がってなければ、それが言い訳なら?

 馬鹿みたいな未練に思わず縋った問いだった。

 けれど一希は首を振って否定した。


「違う。光希の気持ちは嬉しい。俺も光希のことは、家族として大事に想ってる。でも――」

「……」

「異性として、好きな気持ちは、ない」

「っ……」

「ごめん」


 謝る一希に、私は目を伏せて唇を噛み締めた。


 苦しかった。正面切って、振られてしまった。

 当たり前に、普通の言葉で。

 辛かった。一希を詰りたかった。

 何で、嫌だと泣きながら。

 悲しかった。私じゃやっぱり駄目だった。

 始めから分かっていたけれど。

 全部飲み込むのに、主観的に恐ろしい時間と気力が必要だった。


 だって、一希はちゃんと答えてくれたから。

 私の目を見て、女の子としては好きじゃないって、たぶん友姫ちゃんじゃない他の子から告白された場合と同じ理由で、答えてくれたから。

 一人の女の子として、見てくれたから。


 ようよう私は立ち上がり、一希から顔を背けて窓の外の月を見上げた。

 泣き顔は見せたくなかった。私の体は、まだ一希のだから。

 ぼんやり月を見ながら、私はやっと理解した。


 神様が聞いた願いは、これだったんだ。


 本当は、もっと勇気があれば。もっと一希を信じていれば。

 おかしな奇跡なんかなくても、叶う事だった。

 一希を好きだと言いながら、心の奥底では信じきれていなかった。言った途端に一希は私を蔑み、気持ち悪がるんじゃないのかって、一希はそんな奴じゃないのに、疑っていた。

 馬鹿。私、自分の気持ちにも裏切っていた。

 一希はもっと、私よりずっと強い奴だった。


「ありがとう」


 気が付いたらぽつりと、お礼を言っていた。

 未だに涙は止まらないけど。


 ※※※


 翌朝、自分の体に戻ったことは自然に受け入れられた。

 普通に良かった、と思えた。


 ただ、私は一希に失恋した直後で、しかも一希の体で勝手に友姫ちゃんと別れてしまうという暴挙を犯してしまっている。

 自分の辛さや悲しみと、申し訳なさと情けなさ、恥ずかしさがない交ぜになって一希に合わせる顔がなかった。

 どうやら一希は体が戻った途端に真っ直ぐ友姫ちゃんの元へ行き、土下座レベルで謝り倒してるらしい。

 女子には好感度下げまくりだし、男子からも今さら何してんだと悪く言われてる。本当に申し訳ない。


 それでもまだそれをきちんと謝れるほど、私の心の整理はついていない。

 一希もそれを分かってくれるのか、敢えて私を責めたり恨んだりすることもない。

 せめて、と私は思い、ある朝、一希より先に洗面所に降りた。

 私が来てからしばらくして、一希が降りてきた。


「……おはよう」

「あ、ああ、おはよう」


 一希は少しどぎまぎしていたけれど、私が挨拶すると少し嬉しそうに返してくれた。それに私も嬉しくなったけど、それが限界で、すぐに部屋に戻った。

 いつかちゃんと、一希に心から謝りたい。

















※光希があたふたしながら一希を一生懸命フォローしようとする短編書きました。友姫ちゃん視点。

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