メロンブックス特典SS 保育園 ヴェルラヤバージョン
最近、近所にできた保育園が人材を募集しているらしい。特に六歳児の面倒を見る者の数が少なく、緊急を要するとのことだ。しかし、手が空いてるのはヴェルラヤしかいない。
「どうしたのじゃ? 何か困った顔をしておるのぉ」
「べつに困ってるわけじゃないんだけどな――――ヴェルラヤは子供は好きか?」
俺からの予想だにしない質問にヴェルラヤの声音が変わる。
「そうかそうか、我との子を欲しておるのじゃな。元気な男の子がいいのじゃ」
「すまん、そういう話じゃなくてな、ただ子供が好きか嫌いかだけ聞いてるんだよ」
少し「ムスッ」とするヴェルラヤだがそこは答えてくれるようだ。
「どちらでもないのじゃ。じゃが躾なら自信があるのじゃ」
ない胸を張って答えるヴェルラヤ。ならばと話を続ける。
「この保育園が人手が足らなくて困ってるらしい。六歳児を担当する人が足らないみたいなんだ。自信があるならちょっと手伝ってやるってのはどうだ?」
「我に手伝えとな? それは面白いのじゃ! 我の力見せつけてやるのじゃ! フハハハハッ!」
ということで保育園までやってきた。
最初、ヴェルラヤを見た園長先生は何かの間違いじゃないかと断ってきた。何かに理由をつけてヴェルラヤを預けにきたんじゃないかと思ったらしい。
さすがにそこまで幼くはないぞ!
「本当に大丈夫なんでしょうか? まだ子供たちと大して年齢が違わないように思うんですけど」
「たぶん大丈夫ですよ。年齢だけならまったく心配いらないんで!」
そう、恐らく「たぶん」だ。心配いらないのは年齢の部分だけだからな!
「それで我に躾けられたい童とやらはどこじゃ?」
いや躾けられたいとかないから! 人様の子に何かしたら取り返しのつかないことになりかねない! 回復魔術の準備はしておこう!
園長先生に連れて来られたのは子供たちがはしゃいでいる園庭だ。そこには言うことを聞きそうにない子供たちがボールを投げあい、蹴飛ばし、好き勝手やっていた。
「申し訳ないんですが、あの子たちの担当をお願いできますか?」
いきなりハードだな! だがそれを見たヴェルラヤは不敵な笑みを浮かべている。
「躾けがいのありそうな童らじゃ! さあかかってくるがよい!」
魔族はどういう躾をしてんだよ……。
ヴェルラヤの言葉を聞いた子供たちがボールを投げつけてくる。それを尽く打ち落としていくヴェルラヤ。
「フハハハハハハッ! この程度の力、我には効かぬぞ!」
「「「「「ふははははっ」」」」」
響き渡る笑い声。子供たちまで真似を始めている。
だがしかし、一部の男の子は反抗的でまだヴェルラヤを狙っている。
「なかなか元気のよい童らじゃ。じゃが、力量さがわからぬようではいかぬの!」
――――――――いったいこれは何の教育をしているんだ?
異様な光景に園長先生も困惑気味だ。
そして突然動きの止まる男の子たち。自分で動きを止めたというより動けないでいるようだ。
「おいヴェルラヤ! 何してんだよ!」
「ただの躾じゃが?」
「ただの躾って、思い切り殺気飛ばして動き止めただろ!」
首を傾げるヴェルラヤ。
あれ? 殺気放ってなかったのか?
「それのどこがダメなのじゃ? しっかり躾とるじゃろう」
傾げたのはそっちの意味かよ!
男の子の下へ近づいていくヴェルラヤ。
「もう悪さはせぬな? 先生の言うことはしっかり聞かぬとダメなんじゃぞ」
コクコクと頷く男の子たち。
六歳児相手に何やってんだよ……。
躾や教育ってより恐怖政治の縮小版でしかねえよ!
隣を見ると殺気がわからない先生が感心していた。