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あの日、私はあなたの栞だった。  作者: 甘夏
一章 始まりは一つの小説で
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第四頁 連絡

 朱雀からの連絡に気づいたのは十七時二十三分、丁度家に帰った時だった。


『連絡きたよ! 追加していいってさ!』


 少し嬉しかった。霙が私のことを覚えていてくれていたことが、とても。


『ありがとう!』

『おうよ! またなんかあったら朱雀ちゃんに頼れよぉ‼』


 ……流石、数秒で返信が来るあたり、朱雀も余程の暇人なのかな?

 いいや、私が打つ速度が遅いだけか。スマホなんてのも大学に入ってから買ってもらったものだし、三年も使っているとはいえ機械音痴な私にとってはやはり使い慣れない代物であった。対して朱雀はスマホの天才とも呼べるほど日本語も中国語も打つのが早くて、毎回驚かされる。流石、機会に強い人ね。

 トーク画面に映る霙のアイコンを指で触り、友達追加をする。

『新しい友だち』の所に霙のアイコンが表示された。

『少し落ち着いた。良かったー』と、一言が更新されているのが、目で確認できた。

「…………落ち着いたんだ」

 霙とのトーク画面に移動し、辺り一面緑の画面が表示される。


『久しぶり』


 試しにそう打って送信してみた。

 流石にすぐ返事は来ないよなぁ……と思い端末から目を離していたら、まさかのその数秒後。スコンッという軽い音に合わせてメッセージが受信された。


『おぉー! なまら久しぶり! 元気してたー!? 霙はめっちゃ元気!』


 変わらないなぁ。

 そう思いながらも『久しぶり、全然元気だよー』と、おぼつかない手でメッセージを打ち、送信する。


『良かった! ゆずちゃん変わらなさそう!』

『そうかな? 霙も変わらないんじゃない?』

『えぇ? 私は変わったよ! 多分w』

『多分ってなんぞww』

『多分は多分!』

『具体的に述べてみよ……』


 楽しい。幼い頃以来話していなかった幼馴染みだったからか、無意識に笑みが浮かぶ。


『そうだなぁ……恋人が出来たことかなぁ?』


 はぁ、恋人ですか。

 中学高校と、恋愛に興味のなかった私にとって恋愛とはと聞かれると、どうも答えにくい。

 それもそのはず。『人の気持ちが分からない』から。具体的に言うと、『人の気持ちを分かろうとしていない』の方が正しいだろう。何事も謙虚だと友達に言われるくらい人見知りだった私は、人に嫌われることを嫌い、自分から人に近づかないようにしていた。

 そのせいかあまり友達がいなかったため、大学に入って久しぶりに人と話したと言えるほど、人とはかかわりを持たないようにしていたのだ。

『へぇー、どんな人?』

 ……いや、無意識に遠ざけていたのかもしれない。私という存在は、そういう風に出来ていたのかもしれない。

 私は、私が分からない。その分からない自分がどういった存在で、なんの為に生まれて、なんのために生きていて、なんの為に勉強しているのか。

 人々のほとんどが、生まれた意味を知らないだろう。そんな中で、私だけが世界の隅っこに取り残されたような感覚がある。

『えっとね、かっこよくて、関西弁で、それでいて同性なの!』


 ……メッセージを打つ手がとまった。

 『同性』。性別の同じ人が恋人、つまり女の子だと、霙は言いたいのだろうか?

 引く気はなかった。彼女が思う気持ちは、同じ同性愛者である朱雀の話を聞いていてよく分かっているから。

『……まじか、いいじゃん! 同性なのにカッコイイの!?』

 むしろ、私は応援する側だった。引くなんて考えられなかった。考えつかなかった。

 実は高校二年生の時に一回だけ、私は恋人が出来たことがある。その時はものは試しと思って付き合ったのだが、その恋人が『トランスジェンダー』という、異性になりたいという考えを持つ人だった。

 当時の私の恋人の場合、男から女になりたいという思いを持つ人で、『こんな俺でも付き合ってくれるの?』と、何回も確認されたものだ。

 後に、その恋人からのメンヘラ振りがあまりにも嫌すぎて、自分から別れを告げたのだが。

『そうだよー! カッコイイの! あきさんって言ってね、十四の時に会ったんだ!』

 十四?

 一旦スマホを置き、本棚に収めているとある本を引き抜く。

『見えない世界の裏側に』

 ……今彼女に、私の手元に霙の本があると言ったら、どんな反応をするのだろうか。少し考えたあと、再びスマホを持ってメッセージを打ち始めた。

『ねぇ、今ね、霙の本が私の家にあるんだけどさ』

 気になった。もう手に入らない宝物庫扱いされているなら、持っている人がいたらどんな反応をするのかと。

 しばらくの間隔。その時間約二十秒。


『……ゆず、今通話とか……出来る??』


 ほえ? 通話? 今?

 心の中で変な声を出した私は少し戸惑った。通話……通話ねぇ。長らくしていなかった気がする。確か、最後にしたのは和子とだったっけ。

『出来ないならいいよ、大丈夫』

『え? したい』

 返信してから、私はイヤホンを探す。大学進学記念に和子に買ってもらったイヤホンは、三年経っても音質は変わらず、今でも通学中に音楽を聴くこと以外に使っていない。

 まさかこんな所で使うことになるとは思いもしなかった。ありがとう霙。

『準備おーけいだよ!』

『分かった、霙がかける!』


 そんな返信がきた直後。


「……電話……」


 マナーモードにしていた携帯が珍しく振動音を鳴らしながら、その画面に『霙』と映し出している。斜めに傾いた受話器の記号を右にスライドし、イヤホンから聞こえる音に集中した。


『もしもし? 霙だけど……』

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