第一頁 夢の主は
1月9日、加筆修正終了しました。
なろうでの処女作といえるこの作品、ぜひ見ていってください!!
『友達』ってなんだろう?
そう考えたことがある人はあまりいないだろうけれど、私はこの頃よく考える。どこからが友達、どこからが親友、どこからが……?
考えていくうちに別の事を考えてしまい、それが邪魔でそれ以上何も考えられなくなる。まぁ、私にとって、それが普通のことなんだろうけれど。
どうか。聞いてほしい。これは、大学生だった私が体験した。少し不可思議な出来事を綴った小説である。
***
上へ無限に伸びる入道雲。無数に咲き誇るひまわり達がその身を捻らせ、まるで避けるかのように出来た一本道に佇む、一つのシルエット。
その姿はぼやけていて、細目でやっと形がわかるくらい。身長は私よりも低く、小柄な体系をしていた。髪の色は焦げ茶色で、瞳の色はよく分からない。でも、特徴的なその姿に、私はどこか見覚えがあった。
『…………』
口が動く。その子は何かを言っている。しかし何を言っているのかは分からず、けたたましく鳴り響くセミの鳴き声によってその声はかき消されるのだ。
やがて踵を返し、歩き出すそれが、まるで遠くに消えて行ってしまう夏の花火のように感じてしまい、自然と涙があふれてきてしまう。
「……! 待って!」
どこかへと行ってしまうのではないかと無意識に感じてしまい、不安を脳内がよぎる。
走って追いかけるも、その姿はだんだんと小さくなり、やがて一人その道を佇む───。
───パッと目を覚ます。
先ず視界に見たのは、真っ白な白樺製の天井。
次に視界に見たのは、時計。
デジタル時計が指す時刻は、七時三十分。
カチ、カチ、と無機質な音を鳴らす時計を、私は数分ほど凝視していた。
「……あぁ、夢か」
バッと布団をひけらかしその身を起こす。
私橘陬柚羽は、一つだけ不思議な能力を持っている。
それは『速読』。速読と言っても「全体理解」と「精読」という二つの読み方があって、理解する範囲も違ってくる。
「全体理解」は、その名の通り全体を大雑把に理解する読み方で、あらすじやテーマを捉えて七○パーセントを理解する速読術法。
「精読」は、正確に理解して記憶に残るような読み方で、情報を細かく分析して頭にインプットするための速読術法。
私はどちらかと言うと「全体理解」で読み進めることが多い。精読は気まぐれで、自分の気が向いたらやるくらい。あらすじが大雑把に理解出来ていればそれで良かった。
「最近こんな夢ばっかだ。結局あの子誰なんだろう? 見覚えはあるのに、なんでか思い出せないや」
ちら、とカレンダーを見る。
七月二十日。まだ夏の真っ只中だ。
カレンダーの下には立派なトロフィーと、額縁に綺麗に飾られた賞状が飾られている。
一年前の十一月四日、大阪で行われた速読甲子園という大会に出場し、優勝した時の戦利品だった。自分から出場した訳ではなく、同じ速読の友達に『こういうのあるんだけどやってみないー?』と誘われたから参加しただけのことであり、特に思い入れも意味も無かったあの大会で偶然優勝した「偽速読者」なのではないか? と、最近は考え始めている。
「……なんで優勝しちゃったんだろ」
誘ってくれた友達は準優勝を取り「すごいヤバいなんなの!? ゆずちゃんよくやったよすごいよ!」と何故かテンション高めに褒めてくれたが、私自身としてはあまり実感は湧かなかった。
いつの日か、私の心の中には大きな穴が空いているように、何事にも興味を示さなくなっていた。いつからかなんて、そんなことは分からない。ただ、どこかに欠片を置き忘れたような、そんな感覚が毎日を支配している。
両親は地元の福岡でパン屋を営んでいる。妹の和子もいる四人家族だ。
一つ下の和子は両親の手伝いをするため、学校でも家でも勉強をする暇が無かった。勉強はほとんど私が教えていたお陰で、去年行きたい大学にも行けたようで、その時は一緒に泣いて喜んだものだ。
そんな和子は大学二回生。そして私も今、大学の三回生の立場にある。
私はもうすぐ就職時。ずっと教師関係の仕事に就きたくてこの大学を選んだのだ。
和子と私で行きたい道は違ったが、仲のいいと思いたい私達はお互い応援し合って、今があると言えるだろう。
「……わここ元気かなぁ。行く前はわんさか泣いてたけど、あの子も強くなったのかな? いや、そうでもないか。今でもスンスン泣いてそう」
シャッとカーテンを開ける。ワンルームの家に光が差し込み、室内を明るく包み、私は目を細めた。
私がいる長野県諏訪市は、のどかなところだ。諏訪神社もあって、友達と訪れては御参りをする。付近の家柄も和風で、足湯に浸かって足を休めては、寄ってきた人懐っこい雀にエサをやったり……と、所謂田舎なのである。
「よしっ、準備しよーっと」
陽の光を浴びながら伸びをして、私は大学に行く準備を始めた。
***
「ええーっ!? ゆずりん、夏休みになったら地元に帰るのー!?」
授業が一通り終わりお昼頃、一緒に弁当を食べていた親友の朱峰は素っ頓狂な声をあげる。私は頬杖を突き、「いやそりゃあね?」と当たり前かのように答える。
「そりゃあね? って、ゆずりんの地元北九州市でしょ? 遠くない? 遠いよね、新幹線で何時間かかるのさ」
私の机に肘をつき、面倒くさそうに朱峰は私に問いかけてくる。
「特急あずさば乗って、塩尻でしなのに乗っ換えて、名古屋で博多行きの新幹線乗っ換えて、えーっと……六時間くらい?」
「お尻痛くなるじゃん! あと方言出てるよ!」
「新幹線やけん大丈夫たい」
「そういう問題じゃないでしょ、精神的な問題でしょ! 私だったら無理! だってここが地元だもん!」
やけにテンション高いなぁ……とも思いながら、売店で買ったパンを頬張る。
「……来たいと?」
「行かん。北九州って都会でしょ?」
「は? 地方によっちゃドがつくほど田舎やし、北九州舐めとんのか?」
「すまねぇ怒んないでくれ、朱峰が悪かった……」
やはり即答だったか。
こんな風に、朱峰はとてもめんどくさがり。大学に入ったころからずっと一緒の系列にいるのだが、どうも気の抜けたこの性格には慣れない。
「で? いつ行くん」
「夏休み始まったらすぐかなぁ。早く顔見たいってせがまれてるし……」
「ゆずりんも大変ねぇ……まぁ、行くなら気をつけて、私はバイトだから!」
「あれま。朱峰も気をつけてね、最近不審者多いから」
「あたぼーよ!」
……この子のあたぼーよは、冗談なのか本気なのかよく分からない。
そう思いながらも、私は窓越しに見える景色を見る。
今日はよく晴れた日だ。ニュースでやっていたが、今年の夏は記録的な暑さになるとのこと。
水分補給はしっかり。と、アナウンサーが言っていた側から……うちの大学では既に熱中症患者が出ているという、なんともフラグらしき事態。
「喉乾いた……」
ポツリと、そう呟いた。