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おまけ/ラヴ・ストーリィ

おまけです。


「ラブシーン」のお題の時の作品ですが、「ダンス」にもひっかかっています。


私はギャグのつもりだったんですが、見た人からは「半分ホラーだ!」と言われました……あれえ?

 彼女は大きな複眼を持っていた。



 ぴんと伸びた触覚の、光に照り映える様はたとえようもなく、その小さな上顎はブロンズ色にてらてらしている。


 六本の優美な腕はたがいちがいに言葉を綴り、背から流れる玉虫色の陽の光に似た羽は、柔らかく触れ合って虹の帯の元、愛の歌を囁くだろう。


 地上に伸びる腰の長さは近隣の娘の誰にも負けない。ああ、美しいシャジャゥビー。


 木の実と獣の毛を綴り合わせた衣装が彼女には良く似合っていた。私は蜜汲みに行く彼女を呼び止め、ようやく手に入れた珍しい金色の異星の獣の毛を、そっと差し出した。


 じきに虹が谷にかかる、その時る祭りには私と踊ってもらえないか。そう言いながら。



「まあ、ケジャシャウビー」



 シャジャゥビーははにかみのあまり、上顎と下顎をしゃぐしゃぐと咀嚼しながら言った。



「うれしいわ、あたし、今年で卵の年でしょう。でも誰とも踊らずに次の期まで『うまずめ』でいようかと思っていたの。あんたとは三日前に喧嘩しちゃったし」


「あれは君が、ウジャグビーと仲良くしてたから」



 私は口籠もった。照れと恥ずかしさがどっと押し寄せる。しゃぐしゃぐと上顎と下顎を、私はシャジャゥビーに負けず劣らず咀嚼した。



「受け取って貰えるのかな? その獣の毛は苦労して手に入れたんだ。異星のものだよ。巣籠もりする時の良い食料になるよ」


「珍しいのね。こんな色のものは初めてよ。きっといい卵を産めるわ。でも異星の獣って、どんなの?」



 シャジャゥビーの問いに私は答えた。



「下等な哺乳類だよ。結婚の相手に毛を贈る事も、夫婦の踊りをする事もない。


 一番下劣だと思える事は、子どもを造るのに、男が女に食べられないって事だよ」


「まあ」



 シャジャゥビーの触覚がぴんと跳ね上がり、六本の腕が全て別の方向を向いた。がくりと垂れ下がった下顎からは、だらりと体液が流れる。余程驚いたらしい。



「子どもを造る事をなんだと思っているのかしら。男が女に食べられる事は最高の愛の証じゃないの。卵を産む女に自分を与えて新しい生命になるんだわ。


 よっぽど下等なのね?」


「それが不思議な事に、その星の代表的な生命体だと言うんだよ。でもきっと、倫理も哲学も発達していないに決まっているよ。


 いろいろ学んでみたけれど、村をいくつも壊してしまう戦いが、ひっきりなしに起こっているんだよ、そいつらの歴史では」


「あんたはこの村の誉れだわ。あんた以上に強くて賢くて、立派な男はいないわ。あんたを食べられる女は、新しい命にも誉れを得るでしょう」



 私たちは互いを見つめあった。二人とも若く、言いたい事も言えないまま、互いの複眼と複眼の間に情熱を読み取った。シャジャゥビーは羞恥のあまり、だらだらときれいな体液を下顎から流しながら言った。



「いいわ、あたし、あんたと踊る」



ケラビーンの太陽は年に一度の虹を谷にかける。その時共に踊る男女は夫婦になる。一生に一度の飛翔をつがう相手と行う。


 ああ、私は何という果報者なのだろう。シャジャゥビー、村一番の美しい娘と踊れるのだ。その命の一部となって食べられるのだ。恍惚としながら私は思った。


 結婚を止めた異星人たちの事を思い出す。だがこの幸福を異星の者どもは味わえない。知らないのだ。なんと哀れな事だろう。




 《銀河ネットワーク、地球・夜八時のニュース、ニュースキャスターの言葉から抜粋》



 コホナ太陽系、第四惑星ケラビーン。住民は膜翅目科の昆虫からの進化生命体で、特殊な文化を有しています。


 交易を行う上で、地球と関係の深い惑星です。自然食ブームが現在空前のものとなっていますが、K社が率先して売り出した『ロイヤルP』などの原産地はケラビーンです。


 さて、この惑星の住民ですが、非常に温和とされています。ですが年に一回、『婚姻の儀』と呼ばれる期間の間は非常に住民の気が荒くなる為、その期間中は異星人は立入り禁止になります。


 『婚姻の儀』とは、年一回の子どもを造る期間の事ですが、彼等の生活を営む『村』、蜂の巣状の集落から離れた、植物のしげる『谷』にコホナの太陽が年に一度、特殊なプリズム現象を起こし、巨大な虹をかけます。その折、普段は飾りに退化している羽を用いてケラビーンの男女は宙に舞い上がり、彼等の言う『ダンス』によって婚姻の儀を結びます。


 結婚を申し込む際、『ダンス』の前に男性から女性に贈り物をする風習があり、この惑星では貴重なものに属する哺乳類動物の毛の繊維である事が多く、地球人の髪の毛は、交易上最も需要の高いものとなっています。


 また、婚姻の儀の終わった後、ある種の昆虫と同じように、男性は女性に食べられる運命にあります。本来は女性に栄養を与える為だったと考えられていますが、ケラビーンではこの行為により、輪廻の概念を基底に置いた、特殊な宗教や哲学が発達しました。




 さて、地球人の間でも著名な哲学者、ウジャ・ケジャ=シャウビー博士がこの惑星の出身である事は良く知られておりますが、この度博士は故郷の惑星において、死亡された事が確認されました。


 詳しい事情はまだ不明ですが、婚姻の儀式に関してのトラブルと考えられています。博士が今回故郷に戻る事に関しては、儀式の時期と重なる事からも地球人スタッフが危惧を抱いて止めたのですが、博士は制止を振り切って惑星ケラビーンに降り、消息を絶ったという事です。


 史上まれに見る優秀な頭脳の損失に対し、ケラビーンの産んだ最も偉大な人物に対し、ケラビーンに住む住民の方々に、心からのお悔みを申し上げます。



美人の条件って、人種や時代によって変わるよね。が、書くきっかけでした。


恋愛の条件も種族によっては変わるよね! と。


でも読んだ人からは、「カマキリの恋愛には興味ないです!(←涙目」と言われてしまいました。虫、キライだったらしい。ゴメン。

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