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春/はときいん せけてしう

警告! ここからはギャグバージョンです。とりあえず頭を真っ白にしてからお読み下さい!(笑)


 それは桜も舞い狂う、春の宵の事だった。



 新しく購入した『NICOLA』配列とかいうキーボードに、私は四苦八苦していた。何でも使いこなせるようになると、JIS配列のものより格段に打つ速さが上がり、また無理のない日本語配列をしているので、長時間パソコンに向かっていても、脳の疲れ方が違ってくるのだと言う。


 なんか良さそう。そう思った私は早速購入した。そしていきなり挫折した。


 配列が覚えられない。


 と言うより、慣れないのでイライラしてくるのだ。慣れ親しんだローマ字打ちの方が速いじゃん、と、どうしてもそっちを使ってしまう。


 結構高かったのにな……。


 出したお金がもったいなくて、でも使うとストレスがたまる。どうにかならないかと思っていたら、近所に住む女性が教えてあげようと申し出てくれた。妹の知り合いで、何でも昔、富士○ワープロの入力オペレータをしていたのだと言う。


 試しに彼女にキーボードを使ってもらってみた所、目にも止まらぬ指さばきを見せられた。人間ってあそこまで速く打てるものなんですか……?


 そういうわけで私は彼女を『先生』として、週に一度、キーボード打鍵の練習にはげむ事になった。その日はそれで、出された宿題をやっていた所だったのである。





 練習用の文章を見ながら、ゆっくりゆっくりキーボードを叩いていた私は、陽気にあてられて指が踊りだしそうになっいるのに気がついた。困ったものだ。こういう作業は集中力が必要なのに。


 指はあきらかに私の意思に反し、ダンスをしたがっていた。だがそんな我が儘を許すわけにはいかない。出された課題はまだ終わっていない。


 すると指はぽんぽんと動いて、ディスプレイ画面に文字をはじきだした。倍角でくっきりと。



「はときいん せけてしう」



「何だこれは」と言った途端、パソコンから光るものが飛び出した。光るものは部屋中をぐるぐる回った後、テーブルの上で跳ね回り、戻ってきて停止した。


 私はまじまじとそれを見つめた。


 それには羽があった。薄い、華奢な。


 植物を連想させる、微妙な色合いとデザインの服装をしていた。


 軽やかで楽しそうにしていた。


 両手と両足がリズムを取って、絶えず動いていた。


 真四角な顔をしていた。


 顔は輝くミニチュアのディスプレイ画面だった。



「……………………」



 茫然として眺める私にそれは言った。



「やあ」


「や、やややややや、やあ」



 どうにか返事をすると、それはポンととんぼを切った



「春だねぇ。ダンス日和だ。そう思わんかい?」


「はあ」



 答えるときらきら輝くそれは言った。



「それにしても今度から通路開く時は、もう少し広いとこに繋げてくれないかい。影響受けちまったようだ」


「つ、通路? 影響?」


「あんた、ダンス好きの妖精呼び出す呪文を使ったじゃないか。俺も一応妖精だかんな。来てやったんだ」


「呪文」



 私は目を白黒させてから、おそるおそる尋ねた。



「ひょっとしてこれの事か?」



 画面を指差すと、顔面パソコンディスプレイの自称妖精は頷いた。



「俺たち、通路が開くとそこ通って来るんだけど。時々通路から影響受けて、妙な姿を取りいれちまう事があるんだ。おかげでこうなっちまった」



 自分のかおを指差すとへらへらと笑う。



「ナウい?」


「……いつの言葉だ」



 さすが妖精。時代を超えている。



「んだよ、ノリ悪いな。俺は妖精よ? いついかなる時もだから、ナウなヤングなの!」


「できれば常に若く在るとか、そういう言葉で言って欲しいんですが」


「何だそりゃ、だっせえ!」


「……ソウデスカ」



 何かそこはかとなく悲しいものを感じた。それでなくとも傷つきやすいお年頃なのだ。


 妹から『お兄ちゃんセンス悪〜い!』とか、会社の同僚の女性から、『微妙よね』とか、言われるのには慣れ……いや、慣れてなどいないのだが! しかし突然現れた妖精にまで、なぜダサイと言われねばならないのか。


 ひそかに傷ついている私にはしかし頓着せず、顔面パソコンディスプレイの妖精は、しゃっくりをして座り込んだ。



「いやあ。それにしても良い陽気だ」



 ほんのりと“画面”がピンク色に染まっているのに気付いた私は、尋ねた。



「ひょっとして、酔ってませんか」


「何言うんだ。俺ぁしらふだぞー」



 酔っぱらいは、誰でもそう言う。


 そう思っていると顔面ディスプレイ妖精はけたけたと笑い、ポンと飛び上がり、ぐるっと輪を描いて飛んで見せた。……どうみても円にはなっていなかった。



「うわ。ええっと、そのですね? 私はあなたを呼び出すつもりはなかったんですけど?」


「しよーがねぇだろ。呪文使ったんだから」



 妖精の一言に私は言った。



「こんなもんが呪文になるなんて、どんな魔法書にも書いてませんよ! だいたいこれって、NICOLAの基本ホームポジション・キーの名称じゃないかっ」


「しょーがねぇべ。俺たち、最近暇なのよ。付き合ってくれそうな人間も減っちゃったし」



 妙な訛りで言うと顔面パソコンディスプレイ妖精は、はあっと息をついた。そこからきらきら光るピンクの花吹雪が生じた。……ものすごく酒臭かった。



「で、さー。宴会してたんだけど。ここらで呪文も近代化をはかろうって事で。王様以下、みんな自分の呼び出しの呪文をナウっちく変えたのよ。で、俺の選んだのがー、これだったわけー」



 へっへと顔面をピンクに染めた羽つきのパソコンが笑った。流石に宴会ノリである。他の妖精たちがどんな呪文を選んだのか、考えるだに頭が痛い。


 妖精が叫んだ。



「せぇっかく来たんだからっ。燃えるぜ、俺はぁっ。音楽! 酒! ダンスッ!


 ほれ、あんたも踊れーっ!」


「私は踊るつもりは……わわわわわっ」



 手が動く。足が動く。身体が勝手に踊り出す。


 狂気じみた春の宵は、ピンク色のパソコンとダンスで彩られた。






 翌日。時間をとってくれた先生の前で私は、踊り過ぎによる筋肉痛と、疲労による目の下の隈取りを友として、パソコンに向かっていた。私の他にも教えてほしい生徒が数名、キーボードとノートパソコンを持参して教わっている。



「はい、それではホーム・ポジション・キーに指を置いて」



 先生の声が明るく響く。はときいん、せけてしうのキーに指を置きつつ、私は二度とこの言葉を唱えるものかと思っていた。ああ、えらい目に会った。



「では次、『みおのょっ、もゅなあを』を出して」



 シフトキーを押さえるんだな。そう思って私は呟いた。



「親指シフトォ!」



 それから口を開けたまま、茫然と動きを止めた。






 その場にあったあらゆるパソコンから、ピンクの光が飛び出したのだ。


良くあるタイプの話が書きたかったんです。何かのはずみで妖精が呼び出されてしまう話。良くありますよね? 

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