71にちめ
今日は81日目です。71にちめと八十一日目で前半後半みたいになってます。
誰かの声で目が覚めた。覚束ない頭で、ここがどこか、今は何をしていた所なのかを整理していく。
私は街に帰る為に商人の馬車の護衛に加わって、今はお嬢様と一緒にテントで眠っていた所だ。横にはまだぐっすりと眠っているお嬢様が居た。私の役目はお嬢様を守る事だが、状況の確認ぐらいはしておきたい。
「ボンちゃん、お嬢様の事任せても大丈夫?」
【状況は盗賊がやってきて“烈火の獅子”の皆さんと戦闘が始まっている所だ。】
「普通に喋れるじゃない。なんで筋トレ筋トレ言ってたのよ。」
【今は賢者モ、いや筋肉痛みたいな状態なんだ。筋肉が爆発したからまともな力は出せないから普通の人間なら倒せるがゴリラが来たら負けるぞ。】
「それで十分過ぎる!任せた!」
私はテントを飛び出した。テントの目の前には首の折れたゴツい盗賊が何人も転がっていた。
誰がやったのか、考えるまでもなくボンちゃんだろう。筋肉痛みたいな状態と言っていたがずっとそのままでいいんじゃないだろうか?
戦闘の声が聞こえている場所に行くと“烈火の獅子”のリーダー・レオンが前線で戦い続けていた。負傷しているようで、彼を支えるようにハーレムメンバーの面々も連携しているようだ。連携が上手いのか彼しか負傷メンバーはいない。
「アイシアさん!!娘は!!娘は大丈夫なんですか?」
「ええ、彼女は無事よ。今も彼女には護衛を付けてきたから私といるよりもきっと安全よ。」
「ありがとうございます。彼らは囮で、本隊は娘を狙いに行ったと聞いて生きた心地がしませんでした。」
頭から血を流した商人さんが肩を掴んで食い気味に娘の安否を確認してくる。少し嫌だが、娘を大事に思う想いは分かるので気にせず彼女の無事を教えてあげた。
私はボンちゃんに強くしてもらっただけだ。私は与えてもらってばかりだ。
「私も戦うわ!!」
「助かる!!だが、杖はどうしたんだ?」
「大丈夫!!私は一人でも戦えるわ!!」
私は魔力を精霊に捧げた。そして、精霊の中で紡がれた魔法を代行する。
水属性<極>魔法・渇楽
渇楽は水属性魔法の中でも珍しい水を出さない魔法だ。渇楽は水を奪う魔法である。
渇楽は蛇のような形をしている。高速で相手に絡みつき、皮膚から水分を吸い上げてミイラにする。一人、また一人と対象をミイラに変えて盗賊を殺していく。
「ぐっ……」
一度に出ていく魔力の多さに目眩がして倒れそうになる。渇楽は敵の魔力を吸い取って活動に回せるので比較的効率の良い<極>魔法だが、それでも発動する為の魔力量は多い。
盗賊をあらかた倒しきった後、制御の覚束ない渇楽をすぐに解除した。危なかった。危うく制御を失うところだった。
弱みを見せたくなかったので、その場をレオンに任せて私はすぐにテントに帰った。
テントの前には新しく人のオブジェが出来ていた。頭を地面に埋められた直立の人間だ。街で出かける前に見かけた冒険者と似た姿勢だ。
そういえばどことなく雰囲気も似ている?
【そいつはあの時の冒険者だ。俺たちが居ると知らずに襲ってきた馬鹿だ。】
「本当にあの地雷男だったの……救いようがないクズね。」
【ハハッ、違いない。】
ボンちゃんが抑えてくれているうちに縄で縛ってレオンや商人さんに引き渡して今回の騒動は終わった。




