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2-1-3 神の座する御山へ、お参りに

御山登り。


 食事を終えた俺らは、周辺で一番有名な稲荷寿司を置いているお店で持ち帰り用を三つと、すぐに食べるゴン用を買って目的の場所へ向かった。

 稲荷神社。京都にしては珍しく狐を奉っている社だ。千をも越える朱い鳥居が連なる様や重軽石など、見所多数なために狐を信奉しているという多大なマイナス点があっても観光名所として京都の観光案内に記されているほどだ。


 外国人観光客からしたら、狐を信仰してようが、日本の八百万の神を信仰していようが関係ないのだろうが。そこは土着の思考だから、外国からしたら訳のわからない風習なのだろうけど。

 外国は日本とはだいぶ違うらしい。世界の事はニュースなどでも取り上げられるが、日本の状況で手一杯なのに何を気にしたらいいのか。国のお偉いさんなどは来たり行ったりしているが、それがどうしたである。どうせ海外の人間に魑魅魍魎のことを対処させようとは考えていないのだから。


 まあ、そうは言っても日本人の観光客ももちろん多い。今はそこまで狐批判が強くないということだろう。それかここで何を祀っているのか知らない無知かのどちらか。歴史的な意味合いはあっても、この神社はそれ以外にあまり価値のない場所というのが呪術省の言う公式見解だ。

 だが、ここに来れば嫌でもわかる。今では感じられる人間も多いかもしれない。これはあの日に広がった力の一つ、神気が溢れる場所だと。ここまで濃いのは日本全国どこを探してもないだろう。それだけ敷地の外まで神気が漏れ出ている。


 そんな場所も、日本人外国人関係なく訪れる観光名所だ。外国人なんて霊気も神気もまともに感じられないだろう。魔術とか、その国独自の陰陽術のようなものがあるようだが、根本が違う。概要は軽く知っているが、霊気を感じられるとしたら中国人と韓国人くらいのものだろう。

 その二つはまだ日本に近しいものがある。というか、大元は中国大陸だ。その中国もインドの影響を多大に受けたらしいが、遥か昔の時点でインドと中国の開きは大きくなっている。日本は中国大陸から様々な文化を学んだので、近いのは中国大陸のことであり、更にその大元のインドでは少々勝手が違っている。


 いくら大元とはいえ、中国人が日本の霊気や霊脈について詳しく認知できるかと言われると、おそらく無理だろうが。日本人でも一千年経って理解できていないことを大元だからと理解されてしまったら、この長年の研究は何だったのかという話だ。豊臣秀吉辺りは陰陽術も含めた文化を得るために朝鮮出兵したらしいが。

 こういった理由から、外国人はただ珍しい文化を見に来ただけで陰陽術関連ではないだろうと推察する。この考えにはゴンも賛成してくれた。なんだか伏見稲荷神社は日本の観光名所一位を取ったようで、かなりの人が集まっているらしい。

 俺たちは正規ルートとも言える表側から行くのではなく、山の裏手側、千本鳥居がある方ではなく森林浴ができそうなほど木が生い茂った道を歩いて行く。


「明様、どうしてこちら側を行くんですか?表参道はこちらじゃないですよね?」


「こっちはたしかに裏道だけど、こっち側にウチの鳥居があるんだよ」


「ウチの鳥居?」


『ここの鳥居は、お金の寄付で建てることができるんですよ。770年ごろからある神社らしいので、安倍家はもちろん、難波も土御門も賀茂も寄進しているんですよ。坊ちゃんが行こうとしているのは難波の鳥居ですね。っていうか坊ちゃん、知ってたんですか?』


「父さんに聞いた」


 銀郎が説明してくれたが、つまりはそういうことである。山頂には行くのだが、その前に難波の鳥居を見ておきたいというだけだ。場所とあるという事実くらいしか知らないが、京都から離れた難波がいつ寄進したのか気になる。

 安倍家の鳥居はどこにあるか知らない。土御門は把握しているはずだが、父さんは教えてくれなかった。京都にある晴明神社とかそういう晴明に関連するものは基本的に呪術省か土御門が管理している。ここの鳥居もそうだろう。


 そういうわけで裏道を行くと一気に人がいなくなった。歩いている人数が段違いだ。表参道は人がぎゅうぎゅう詰めになって歩いていたのに、こっちは平然と行きあえる。楼門や熊野社も表参道にあるんだから、そっちに行くのが当然っちゃ当然だが。

 一般人にはこの山道も大変だろうが、そこは腐っても陰陽師。肉体強化の術式を使えばこの程度の山道はどうってことないし、山頂に行くまでに一時間半もかけていられない。だからさっさと登りあがる。

 驚異的な速度で登っていくために周りの観光客が何事かとこちらを見てくるが、一切合切無視する。ちょっと足が速いだけの集団だ。ちゃんとした観光はまた今度すればいいし。


『あれ?ここの鳥居の奉納って江戸時代から始まったんじゃなかったかニャ?』


「瑠姫、それは一般人の話。京都の名家は昔から寄進してるよ。寄進がなかったらこんな大きな神社維持できないし、全国にある神社の総本山にもなれないだろ。安倍家や土御門はそういう最初期に寄進した家なんだよ」


『ほえー。勉強になったニャ』


 まあ、そんな最初期の寄進なんて寄進って名前じゃなかっただろうし。氏子からの出資で、それが多額だったから鳥居を建てたとかいう、今の形の元になっただけだろう。

 それよりも意外なことは土御門と賀茂という狐嫌い二大巨頭がここへ寄進している事。狐をむしろ祀っているこの場所へ寄進する理由を考えたが、おそらくは狐を受け入れてくれているから。厄介ごとを全て一身に受け入れているから、そのお礼として寄進をしているのだろう。たぶん。


 こちらの裏道にももちろんいくつかの鳥居があった。朱色というのは魔除けの効果があり、結界を意味する。さらに鳥居というものは本来境界を視覚化するもので、そこを超えた先が黄泉の国、もう片方は現世という意味もある。

 では、これだけある鳥居の意味とは。鳥居が境界だというのなら、膨大な境界を作り出すことで目指すことは境界の複数化。もしくは偽装だろう。


 複数化は単純に、黄泉の国と現世だけではなく、神の座する神の御座への連絡路の構築もあるだろう。これは神社なら複数鳥居がある場所では自然な事象だ。神を祀る場所なのだから当然だろう。

だがここは、悪い意味で狐を信奉されてしまっている。つまり、悪意が神の御座への道を閉ざしてしまう。それを防ぐために複数入り口たる鳥居を置くことで解決しているのだろう。


 偽装は本物の道を隠すためだろう。昔に比べれば狐嫌いも収まってきたから、悪意も薄れて道もちゃんとできているだろう。それを隠すためのダミーがあの千本鳥居だと思う。その道は神気を感じ取れる人間なら見付けられるとゴンが言っていた。昔であれば神気を感じ取れる人間はそこそこいたらしいので、そんな人間が迷い込まないようにした処置なのだとか。

 歩いているとかなりの数の祠を見つけた。これ一つ一つが神であったり狐を祀っているものだとしたらかなりの数だ。ここまで祠がある神社も他にはないんじゃないだろうか。規模からして最大級の神社だろうが。


 景色も確認しながら登っていくと、中腹あたりで巫女服を着た少女を見かけた。その少女は白髪を靡かせて楽しそうにスキップをしていた。神主さんの子どもだろうか。

 だが、その少女の頭を良く見るとその考えが間違っていたと知る。頭の上に狐耳が付いていたからだ。それにその身に宿しているのも神気だ。ゴンほど多くもないが、神の一柱に間違いないだろう。


「ゴン」


『ああ。あいつは神じゃなくて神の遣いだ。表参道の入り口にいた狐の像があっただろう?あれの実体だ』


「あれが……」


 見た目年齢は八歳くらいだろう。この稲荷神社自体が神気を多分に含んでいるために、一見しただけではあの少女が神の遣いだとわかるわけがない。髪の色も霊気をたくさん持っているからで納得してしまう。

 だが、良く見れば気付けてしまうのも本当で。こうして人目につくように歩いていいのだろうか。


「あれって姿を偽ってるのか?さすがにケモ耳の少女がいたらわかるよな……?」


『あいつの姿を見ることができるのは決められた存在だけだ。一般人やただの陰陽師には姿すら見えてねーよ。あいつのことを見つけることそれ自体が試練の一環だ』


「試練ですか?」


 ゴンの言葉にミクが首を傾げると、例の少女がこちらを見つけてニパッと笑った。そのままこちらにとたとたっと近付いてきて、俺とミクの手を取った。


『お兄ちゃん、お姉ちゃん待ってたよ!こっちこっち!』


「待ってた?」


 その言葉を疑問に思いながらも引っ張られていき、その後をついていく。ここに来ることは決めていたとはいえ、手紙や式神の使いを出すようなことはしていない。なのにわかっていたような口振りはどういうことだろうか。

 まさか、神様だからこそわかっていたとでもいうのだろうか。だとしたら、失礼がないように一層気をつけなければ。



次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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